← [ 1 ] [ 2 ] [ 3 ]提灯に釣鐘 3
「神崎様、おはようございます」 朝からよく通る声量が神崎を揺り起こした。 「ん……うるせ、」 「学校の時間ですよ」 「休む。つかオレの部屋、入ってくんなつってんだろ」 「ふふ、こちらは竜也様のお部屋ですよ神崎様」 「たつや、さま……て誰………」 ウトウトまどろむ目がハッと覚める。 いつもより柔らかく体を包むベッド。 体にかかる布団は恐ろしくサラサラで肌触りがいい。 部屋に漂う知った香りは学校で香ってくるよりも濃い。 姫川の香水だ。 薔薇を原料とした香水で、微かに感じるスパイスが風格と色気を醸す。神崎に言わせると、 『薔薇を金で煮詰めた金持ちアピールのヤラシー匂い』 だったが、残り香でも美人を想像させ惚れさせてしまう。 心地よい余韻の香りは石矢魔では一際浮いていたが、けれど姫川には似合う。 石矢魔では、たまに廊下で残り香に出会う程度だったが 聖石矢魔に転校してからは、窓から風がそよぐたびに香る。 身近になった香りだったがそれが今やその只中にいる。 部屋の隅で加湿器が蒸気を出している様子を眺めながら、 改めて自分の状況を思い出した神崎は姫川がいない事に気がついた。 「姫川は?」 神崎は目を擦りながら体を起こし、ベッド脇に立つ蓮井を見上げた。下半身に特有の倦怠感があったが無視をした。 「3階にあるジムにおられます」 「朝から?」 「珍しい事ではないですが。神崎様も行かれますか?」 「いや、だりーわ。つーか今何時?」 「7時です。お着替えとアメニティ類は洗面所に。 30分にダイニングで朝食を摂って頂き、 8時10分に私の運転で学校へお送りする予定です」 朝食と聞いて神崎の腹が鳴った。 セックスに夢中で夕飯を抜かしていた事に気づけば急激に空腹を覚える。 「姫川は朝メシまで戻ってこねーの?」 「いつもの流れでしたら恐らく」 「ふーん……」 「ふふ」 「あ?何」 「坊ちゃまは神崎様の事をよく理解しておられるなと 感心してしまいました」 だからなにがと睨む神崎に微笑む蓮井が続ける。 「『起きた時に隣にいるのが神崎のして欲しい事 っぽいけど、神崎にムラつくから体動かしてくる』 とジムに行かれました」 「元気だな……」 「神崎様は喉の調子以外で困り事はございませんか?」 「ねむい」 「左様でございますか。であればこちらを」 「なにこれ」 サイドテーブルに置かれたグラス。 並々注がれたとろみのある中身に神崎はいぶかしんで蓮井を見上げた。 「ヨーグルッチをメインに喉にいい蜂蜜や 睡眠不足を補う食材で仕上げたスムージーです。 お召し上がりください」 「マジ?姫川のオンナんなるとこんな労われんのかよ」 蓮井からグラスを受け取り、ストローを咥えてみる。 それだけで香る甘い匂いがもう美味しいと分かる。 飲んでみると、予想通りの甘さに加えて、身体が求めていたかのように染みわたる。 冷たさが眠気も醒まして身体も軽く感じさせた。 「うま。回復アイテムみてえ」 「ふふ、お気に召して頂けたようで。 他に私にお手伝い出来るはございますか?」 「んー。ない」 「では何かございましたらいつでもお呼び下さい」 「おー」 音なく閉まるドア。 飲み干したグラスをテーブルに戻すと神崎は伸びをした。 朝の快晴、陽射しが部屋に降り注いでいる。 自分の部屋のカーテンごしの日差しとは違う開放的な光と 目覚めの良さ。それを共有できる姫川が隣にいない事が余計寂しさを感じた。 朝食を待たずに姫川の所に行こうかな、と重い腰を上げた所で荒々しくドアが開く。振り返るまでもない。 「おー起きたか」 いつもより早く切り上げたのだろう。 シャワー後そのまま上半身裸で、タオルで濡れた髪を拭いながらベッドに腰掛ける姫川に神崎の心が跳ねる。 「姫川何お前、朝からエロ」 「あ?お前だろ。早く着替えろ持たねーわ」 「なにが?」 「理性」 「元からねーだろ」 「ねーな。だから早く着替えろって」 神崎の胸元を姫川の長い人差し指が引く。 それから器用に片手でボタンを外していく姫川に神崎が生唾を飲んだ。 「ん?どーした。顔赤いぞ」 ニヤリと口角を上げる姫川は、神崎の反応を楽しみながら 神崎の目をまっすぐ見据え最後のボタンを外した。 ハラッとシャツがはだける。 「…………。姫川、しねえ?」 「え、いーけど」 「すげえエロい気分んなった」 「親父いーの?待ち合わせしてんだろ?」 「……どーしたらいい?」 「あぁ?」 困り顔で見上げてくる神崎を腕に抱きながら、姫川も首を捻る。ちら、と時計を見る。 朝飯は包ませるとしても、髪のセットは蓮井の手が欲しい所だ。ポリシーを捨てれば間に合わない事もない。 ……まあいいか。 神崎の要望の方がもはやポリシーより重い。 そう姫川が思える程に、目の前の神崎は据え膳だ。 むしろこのまま学校に行っても、抑えきれていない神崎の色気もとい発情は周りに悪影響だ。 自分の目がおかしいのか、神崎が本当に色気を纏っているかはもう姫川には分からなかった。 「ナマじゃしねーけどいーか?」 「……やだ」 「あー?シャワー浴びてる時間そんな残せねーかもだぞ」 「うるせーな、どーでもいーからさっさとしろよ」 神崎が姫川を押し倒す。 ペロっと舌を舐めずってニヤと笑む神崎は姫川の胸板に指を這わせ、そのままツツとベルトまで指を撫で下ろす。 「ん。お前が挿れる方すんの?俺処女なんですけど」 「んー?オレにされてーの?お前。オラ腰浮かせろ」 「あ、はい」 慣れた手でベルトを外し、下着ごと白のスラックスを下げる。既に半勃ちになった性器に喉仏がゴクと動く。 「オレだって女にエッチうまいって言われんだからな」 「あー、昔お前と被った女が言ってたわ。 お前意外と前戯なげーんだろ?エライわ」 「キモチよくなってんの見んの楽しーじゃん」 髪を耳にかけるように、 チェーンピアスを指で避けながらパクと口に咥えた。 「時間ねーかからいーよ俺は。お前見てりゃ勃つし。 お前の穴解すのに時間使うぞ」 神崎の頭を抑えるも、余計深くまで飲み込んでいく。 喉を使ってフェラをし出した神崎に姫川の腰が震える。 気持ちいい。 朝の日差しの中で神崎が一生懸命フェラをしてくれる。 昨日までは想像すらしてなかった光景にあっという間に血が集まる。 「おいって、わかんだろ。もう充分バキバキだって」 「ん……」 れ、と舌を出しながら神崎が顔を上げる。 「クンニもフェラもうまい神崎さんって名乗るか」 「名誉な事なのか?それ」 「モテるだろ」 ふふと笑いながら自分の下着をずらす。 「あ?モテる必要ねーだろ、他見たら殺すぞ」 「あれ、お前遊びの女やめんの? なんならフツーに女作られる覚悟してたわ」 「だからお前が初彼女だつってんだろ」 「は?オレ以外ともうヤらねーって事?」 「え、いやそーだろ」 「へーすげえ。セイジツじゃん」 神崎はそう淡々と言い捨て、サイドテーブルの上のローションに手を伸ばす。パキッと蓋を開け、自分の手の平でヌチヌチと温めてから姫川の性器に塗りつける。 「……神崎お前、俺以外にも男で相手いんの?」 「処女だったろーが」 「慣れすぎてねえ?」 「お前のシツケなんですけど。 最初冷たいままやったら腹殴られたからなァ」 痛かったなあ、と腹をさするとローションが薄く付く。 テラテラとぬめる神崎の腹に姫川の欲情が煽られた。 「いや、おかしーって。エロすぎだろ。 お前俺が覚えてない事をいー事に捏造してねえ?」 「はー?あんな乱暴で非道なセックスしてよくゆーわ」 姫川の首根に腕を絡ませベッドへ倒れる。 首根を引っ張られて、神崎を押し倒す形になった姫川は誘導されるがままに神崎の穴へローションを垂らした。 「んっ、」 ローションと一緒に指を入れる。 少しの抵抗でツプと飲み込んでいく。 もう覚えきった神崎の気持ちいい場所をコリコリ擦ると、神崎が大げさに喘いだ。 「あっ、あん、きも、ち」 「なにそのわざとらしー喘ぎは」 「えー?エロいだろ?」 「いやいらねえ。いつものお前をヤるほうがエロい」 指を増やす。痛みは無いようで、けれど神崎の表情からそれまでの余裕が消えていく。 「ん、大丈夫か?」 「うん……、きも、ち、だけ」 「時間ないからもう挿れるけどいーか?」 「うん、はやく、ほし、い」 指を引き抜く。 ピクッと揺れる身体に先端をあてがうと、 神崎の身体に緊張が走った。 「どーした?力抜けよ」 「え、ぬ、いてるけど」 「ん?いや……」 改めて神崎を見下ろすと小さく震えも見える。昨日と同じ。 下手な喘ぎ声とは違って演技には見えない。 記憶が無い事をいい事に無理なセックスに持ち込ませて責任を取らせた筋もあるのか?と訝しんでいた姫川だったが、その疑念は彼方に飛んだ。 神崎の心は落ちている。 けれど身体は手酷い暴力を覚えていて怯えてしまう。 そのアンバランスさに神崎本人も違和感はある様だが、よく分かっていない。身体に言い聞かせるように「気持ちいい」と言葉にするものの、いざ、という場面ではやっぱり硬直してしまう。 「ごめんな」 顔も青い。 ずっと片思いだった好きな相手としたい気持ちと、セックスを恐怖と捉えトラウマとして覚えてしまった身体。 「姫川?……え、挿れてくんねーの?」 「二度とお前の嫌がる事はしねーから。女も作らない」 「は?う、うん。いや時間ねーからそんなの後で」 「遅刻したら俺も一緒にお前の親父に頭下げる。 だから急がずヤる。髪もこのままでいい」 「何お前、優しくて笑う。 そんなに好きんなったのかよオレの事」 「うん。多分もう俺の方が好きかもな」 「は?それはねーだろナメんな。オレのが好きだし」 身体が強張って嫌がっていても、押し殺して隠す神崎の健気さに愛しさが溢れる。 そんな気持ちでセックスをするのは初めてだった。 「んっ、あっ、!ぐ……」 先端を埋める。すぐにキツイ締め付けがあった。 気を抜いただけですぐに終わってしまいそうだ。 神崎の身体はのけぞり鳥肌も立っている。追い出そうとする締め付けを、ゆっくり体重をかけて埋めていく。 「ん、っ、はっあ、で、かい、ぃ」 「痛くねえ?」 「い、たくねえ、けど……んっ、はァ」 怖い、という言葉を飲み込んだ神崎に姫川の胸が締まる。 「も、はい、った?」 「んー……」 半分も入っていない。それでも苦しそうな神崎にそのまま伝えた所でまた恐怖を与える。 「動いていーか?」 答えを濁してゆるゆる腰を振る。 全てを入れずとも、前立腺には当たっている。 今はとにかく神崎だけを気持ちよくさせてやろう。 そう決めた姫川は半勃ちの神崎の性器に手を伸ばす。 「あっ、まえ、きも、ち、んっ、ん、」 「ふ、かわいい……」 ぬちゃぬちゃと先走りが音を鳴らし始める。 神崎の腰が揺れて、ズロッと性器が深くナカに飲み込まれると、大きく神崎が息を飲んだ。 「~っ、はっ、あ、うそ、つ、き」 「あ?」 「ぜんぶ、じゃねーじゃ、ん」 「あー?そーだったかな」 姫川にメンチを切って神崎が体を起こす。 「ん、なになに」 「体勢かえんの」 気づいた姫川が手伝って、神崎のなすがままに合わせると座位で神崎の身体が止まる。 「まだ動くなよ」 姫川の目を真っ直ぐ見据え、それから視線を繋がった所へ下ろすと、ゆっくり腰を落としていく。姫川の肩を掴む神崎の手が震え、目尻に涙が浮かんだ。 「あっ、あ、うう……」 「おい。別に深く入れなくてもいーって」 「っ……オレが、やだ」 昨日、姫川が神崎の奥まで挿れた時に言った言葉だった。 「オレで、気持ちよくなってほしーもん」 「……お前、あんま可愛い事言うな……」 「んっ、あ、すげ、おまえ、まだでかく、なんの、」 中で質量を増した姫川にクタと身体が折れる。 どれぐらい入ったのか繋がった所を見る。自分の中に埋まる性器は恐怖よりも興奮を煽った。 「すご……姫川のが、オレんなかに入って、る……」 「はあ?うん、なに今更」 「………しあわせ」 呟いた神崎がコテンと姫川の肩に頭を乗せる。 「神崎……」 思わず抱きしめる。 たった一晩でここまで心を持っていかれるとは。 神崎が人心掌握に長けている事はわかっていたが、まさか自分がここまで取り込まれるとは思っていなかった。 もうこれがハニートラップだったとしてもいい。 この後身包み剥がされるほど騙されていたのだと分かっても、神崎にこうして貰えるのならなんだっていい。 姫川の胸に充足感が満ちた。 気持ちが昂って自然と腰が揺れ出す。 気づいた神崎も姫川に抱きつきながら、前立腺に当たる姫川を感じる。 「あっ、あ、ん、んっ、はっ」 「どこ、いちばん、きもちいーの?」 「て、まえ?あ、でもふかい、とこも、なんか別格で」 「この体勢だと、そこは入んねえ、かなぁ」 「そこ、されると、漏れるから、今しねーで、いい……」 少し怯えが混じった声。 しまったと姫川が神崎の背をさする。 「また夜な」 「ふっ、オレ、らエッチばっか、猿じゃん」 「付き合いたてだからな」 「うん……夢み、てえ」 笑顔でもない。泣きそうな、でも幸せ。 そんな表情を浮かべた神崎が姫川を見た。 「きも、ちい、ひめ、かわぁ」 極まった神崎が腰を振る。 神崎がやりやすい様に、姫川が背をベッドにつける。 神崎も追って、ベッドに手をついて自分が気持ちいいままに腰を振った。 「あっ、あ、アッ、あた、る、きも、ち、い、とこ、」 「うん……俺も」 姫川の勃起で前立腺を擦る。 姫川に主導されている時も姫川は的確に当ててくるが、自分だともっと細かく気持ちいい所を追える。 「ん、あ、ひめ、か、わぁ、オレんなか、きも、ち?」 「最高」 「ふ、おれも、きもち……」 自分の上で腰を振って快楽に耽る神崎に精子が登る。 ピアスのチェーンが揺れる。 反対の耳につけた赤い石のピアスもユラユラ。 男の狩猟本能を刺激する。 朝日にキラキラ反射するピアスの赤い石に煽られ続けた姫川は、たまらず神崎の腰を掴んで思い切り突き上げた。 「~~アッ、あっあ!!」 神崎がのけぞって、涙を散らす。 そそりたつ肉がメチメチと腸壁を掻き分け奥に埋まる。 「ひ、ん……お、くぅ、」 「まだ手前だろ」 そのまま神崎の腰を掴む手を軸に下から激しく前立腺を狙って何度も何度も突き上げる。 「あ、あ~あっ、あ!ら、んぼう、にっ、す、んなぁ!」 肉がパチュパチュぶつかって、ピアスから伸びたチェーンがチャリチャリと激しく音を立てる。 「悪い、おさえらんね、え」 「き、もち、い……きもち、い、から、ッもっと、」 「ん……俺も」 身体を支えていられなくなった神崎が姫川の胸板にくたぁとしなだれかかる。 ピクピク震える身体は絶頂が近い事を教えた。 「神崎……中に出して、いい……?」 散々狩猟本能を刺激された姫川に、今度は種付けしたい欲が襲う。姫川の切羽詰まった切なげな表情に神崎の胸がキュウと鳴った。 「オレ、のこと、孕ませ、たくなった?」 イタズラに笑う神崎に素直に姫川は頷く。 素直な姫川に、たまらなくなった腸壁がギュウと収縮した。ぎゅうぎゅうに締め付けられた姫川が小さく喘いで、神崎の身体を横抱きに転がした。 「あー……俺ダメかも。悪い、やっぱ我慢でき、ねえ」 「う、ん、だ、いじょ、うぶ」 ヌプッ。深い所に亀頭が減り込んでくる。 精子を欲っしてうねる肉壁をメチメチ引き裂き擦り上げ神崎の中を犯す。 「あ、う、う、あ~ッ、あ、」 頭を振って過ぎた快楽を逃す。 それでも本気で動き始めた姫川からの責めが勝つ。 震える手がシーツをキツく握って大きく息を吐いた。 「怖い?一回抜く?」 「や、やだ、抜くの、だめ、も、っと……もっとぉ!」 汗ばんだ真っ赤な顔が、そう叫んだ。 「あー……だめだ、可愛い……顔、見たい」 「おれ、もぉ」 正常位に神崎の身体を動かすと、大きく足を拡げて杭を打つように深く何度も性器をぶつける。 「あ、きも、ぢ、い!ナカ、中イ、き、し、そぉ」 「うん、すげえ、ウネって……吸いつい、てくる」 ヌプッヌポッズッズッ! 神崎の狭い輪を激しく出入りする血管浮立つ性器。 一際深く中に埋まると神崎が喉で悲鳴をあげて、 大きくのけぞった。 「い、ぐ、イくっ!ひ、めかわぁ、!」 「んっ……俺、も……」 神崎を肩を掴むと、キツく抱きしめ、 のけぞる神崎の身体の奥深くに性器を埋め射精した。 ビュルッと身体の中に吐き出された感覚に、姫川の腰に足を絡めて全身で姫川に抱きついた。 すぐ近くにある姫川の匂いに腸壁がギュウウと締まる。 身体が勝手に姫川から精子を搾り取ろうと締め付ける為に、その大きさを敏感に感じてしまう。 「あっ、あーッ、あ、お、っき、いい」 「すい、ついて、はなさねえ、じゃん」 息を荒げながら姫川が笑う。 透明なカウパーを垂れ流したままの神崎の性器をシゴくとすぐにトロトロと精子が垂れた。 「あ、あ……い、く、のなが、い、い……」 「ん……中、ふるえ、てる」 「まだ、いれ、ててぇ、」 「言われなくても居座るつもりだったわ」 長く続く絶頂が神崎を荒く呼吸させる。 足がガクガク震えて、トロトロにまどろむ目からは涙が溢れ続けてシーツを濡らす。 ナカにとどまった姫川の性器も時折りピクピク跳ねて、それもまたオーガズムを後押しする。 「もう、うごきた、くない」 神崎の枯れた声が切なげに伝えた。 「今日もずっとエッチしてたい……」 「俺も」 手を重ねて繋いだまま。しばらく余韻に耽る。 何を話すでもない。 ただ、互いの胸の鼓動が、心地いい。 体温が気持ちいい。 匂いが近い。 お互いの早い鼓動が段々落ち着いてきた頃。 コンコンとノックと共にドアが開いた。 「もうすぐ8時ですよ……お二人とも」 「だからさぁ、ノック意味ねーだろ」 呆れ顔の蓮井に辟易と姫川が顔を上げた。 その下で組み敷かれたままの神崎も、もはや慣れた様で構わず姫川の胸に顔を埋め戻した。 「朝食は車で摂って頂きます」 「おー」 「メイドは帰しましたので。 私は神崎様のお手伝いをしますから、 坊っちゃまの身支度はご自身なさって下さいね」 「フ、神崎。お前の声スゲーから空気呼んでくれてんぞ」 「んー……」 「神崎様、身支度をお手伝いします。起きて下さい」 「神崎、蓮井がうるせーから抜くぞ」 「ん……っは」 ヌロッと総身が抜ける。 追ってトロトロと溢れる中出しに神崎が足を閉じた。 「ん……これ、漏れたの姫川の中出し?」 「うん。漏らしてねーから安心しろ」 「坊っちゃま……」 その会話に普段感情を露わにしない蓮井ですら頭を抑えた。 気づいた神崎がイタズラに小さく笑う。 「お宅の坊っちゃまァ、すぐ中出しするんですけどぉ」 「許可取ったじゃん」 「避妊努力がねーなぁ。どーゆー教育してんだ。あー?」 「申し訳ございません。神崎様」 「おい蓮井、申し訳なくねーだろ」 「謝罪されたからには慰謝料の権利が発生すんなぁ」 「邪魔されたからってダル絡みすんなお前も」 「はいはい。じゃあ中出し洗ってくるかー」 神崎がゆっくり体を起こす。フラついて揺れた体を、姫川と蓮井が同時に抱き止め支えた。 一昨日から睡眠不足が続く上に、暴行に近いセックスのダメージはまだ癒えていない。 神崎越しに視線で責める蓮井に姫川は珍しく反省した。 今日こそ神崎の休息を心に誓う。 「神崎様、歩けますか?」 「いーよ。シャワーぐらい自分で入れる」 「私がお支度手伝いますが」 「いらねーって」 「かしこまりました。では私は坊っちゃまのお支度を」 「ん姫川、お前も風呂使う?」 「時間ねーし体拭くだけでいーわ」 蓮井が運んできた廊下にあるワゴン。 準備のいい数々を視線で指した。 「蓮井。俺の髪、時間までにいけるか?」 「問題ございません」 「あ?諦めるんじゃなかったのかよ」 「お前の親父に会うならキめて行きてーから」 「フランスパンのが変だろ」 垂れる精液を軽くティッシュで拭いながら笑うと、神崎はよたよたと部屋奥のドアに向かった。 スライドドアの軽い戸を開けると、黒の大理石の洗面とガラス張りのシャワールームがあった。 寝室専用のパウダールーム兼シャワールームは、バスルームほどでは無いがビジネスホテル程度の十分な広さがある。 「こっちヤリ部屋にすりゃいーのに」 洗面に几帳面に並べられた未使用のアメニティの中に、いつも使っている置き歯ブラシがある事に気づいた神崎は、細かい仕事もこなす蓮井に感心しながらシャワールームのドアを開けた。 壁のボタンを押すと、天井から心地よい温度のシャワーが落ちてくる。ローションと汗でベタついた身体を洗い流してから、壁に付いた黒い陶器のディスペンサーからシャンプーを手に取ってふと神崎は思う。 「ん。これ姫川と同じ匂いなるよな……」 風呂場にはいつも使っているものを置かせてもらっていた。流石の蓮井もそこまでは気が回らなかったのか、もしくはそれでも良しと判断したのか。 「ま、いーか。付き合ってんだもんな」 もうワンプッシュしてみると、それだけで強いローズの匂いが蒸気に混ざる。どうやら姫川の香水と同じ香料のようだった。財閥企業が姫川の肌質に合わせてオーダーメイドで作っているそれはこの世に一つとない香り。 それを使っていいのはオレだけ。神崎の心がほわほわ浮く。 ただシャワーを浴びるだけの時間にこんなにも心を浮いてしまう。自然と口角が上がりっぱなしになってしまう幸せを感じてちる内、億劫だった体内の精子処理も簡単に済ますことが出来た。 たった1日前は震えて泣きながら体内の精液を掻き出していたというのに。昨日の自分に教えてやりたい。そんな落差を感じながらシャワーを止めた。 フルフルと頭を振って水気を切ってバスタオルを纏う。 シャワールームを出て、洗面の鏡を神崎はじっと見つめた。 キスマークの類は見える場所には無かった。 ホッとする反面、ガッカリしつつ歯ブラシを咥える。 「んー……」 歯を磨きながらケガを確認してみる。 腹に残る鬱血は中々消えない。 腕や太ももにもスタンバトンで殴られた跡もまだある。 手錠で擦れた手首は少しカサブタになっていた。 目の赤みは昨日に増して強い。 これらを世話役に見られた為に大袈裟にされたが痛みはもうほとんどない。 「昨日はそんな泣いてねーのになあ……」 声も枯れたまま戻らずで、姫川とセックスを続ける限り こうなのかなと思いながら口を濯ぐ。 肩にかけていたタオルで口を拭き、用意されてあった下着を履く。いつも身につけているブランドの新品が用意されていた事に蓮井へ少し恐怖を覚える。 「あ゛~あ゛~」 声は枯れてはいるが、喉が痛いわけではない。 目も赤いが、痛いわけじゃない。 寝不足でクマもある。 「ボロボロじゃん。かわいーとか何……」 鏡の中の自分は満身創痍な見た目であるのに、姫川はずっと可愛いと囁いてくれていた。平素で可愛いと言われても嬉しくはない。それが姫川に言われると心がぎゅうと締まる。 「ほんとに好きになってくれたんかな……」 「神崎様」 「うわっ、あんだよ、1人で出来るつったろ! つーかいつからいたんだよ!」 「ご自身の可愛さを鏡で確認されておられる辺りからです」 「殺すぞ」 「坊っちゃまもおられます」 「あ?なんだよ覗くなボケ」 「ボロボロでもかわいーしホントに好きだよ。神崎クン」 すっかり支度が整った姫川が蓮井の背後からニヤニヤと笑みを浮かべて現れる。 「ボロボロにしたのお前じゃん。これお前がやったって 親父にバレたら夕方には山に埋まってるぞ」 「あれ、今日カレシとして紹介されんじゃねーの? 強姦魔として突き出される感じ?」 「どっちでもねーわ」 言いながら、シャツを広げて右腕を通す。 左腕の袖口を見失ってもたつく神崎に姫川が背後から手を伸ばしてシャツを支えた。 「お前、これ1枚?」 「と、あとセーフク」 「薄着すぎねえ? 蓮井。俺のでいーから羽織れるもん取ってきてくれ」 「かしこまりました」 「ふっ、何だよ過保護」 「体冷やして腹くだしたら俺のせいにするだろお前」 「する。罪悪感で支配したい」 「はい出たーヤクザの人心掌握」 「お前も似たよーな事仕掛けてくんだろーが」 「俺のは帝王学っつー立派な教育なんですー」 言いながら姫川は、いつの間にか当たり前に神崎のシャツのボタンをプチプチと止めさせられている事に気付き、神崎の術中にハマっている自分を笑った。 「ん、かっこいい……」 「あ?」 「顔。オレ、姫川がニヤニヤしてる顔スキ」 「褒てんのソレ」 最後のボタンを留めて、ポンポンと神崎の頭を撫でる。 撫でられたまま神崎はじっと姫川を見た。 「あんだよ、そんな好き?俺の顔」 「何でクマも何もねーの?寝てないの同じじゃね?」 「美容に気ぃかけてっから。あと彼女出来たからかな」 「顔、触っていーか?」 「ん?おお。フッ何?」 パーカー片手に戻ってきた蓮井が、すっかり出来上がってしまった二人の世界に眉をあげ呆れ果てる。声をかけるタイミングを失った蓮井は暫く二人の劇場を観劇する事にした。 「顔いーなー。お前」 「なんだよ、なんか買って欲しーの?」 「いや別にそんなつもりじゃねーけど。あーでも」 「ん、なに」 「学校着いたらグルッチ買ってきて」 「いーけど。グルッチの自販機、聖側にあんのダリーな」 「そーなんだよ、だから自販機いれてくれ」 「ん、おう。だってよ。手配しといてくれ蓮井」 「かしこまりました」 作られたきっかけに、蓮井はホッと息を吐いて神崎にパーカーと学ランを羽織らせ頭を下げる。 「さてと、神崎くんパパに会いに元気に登校するぞー」 「だる。行きたくねー」 「お、なに不登校?」 神崎の手を引いて寝室を後にする。 素直に繋がれたまま廊下を歩く神崎は口を尖らせ訊いた。 「つーか姫川お前なんで真面目にガッコー来てんの?」 「リーゼントの居心地を求めに」 「聖じゃ浮くだろ」 「石矢魔程じゃねーけど、お前らいるし」 「ふーん。オレはお前がいるから行ってた」 「何それ可愛い。卒業したらどーすんだよ」 「え?」 「ん?」 玄関。 姫川の腕にもたれかかりながらローファーにトントンと踵を収めていた神崎は姫川を見上げて、それから背後で神崎の鞄を拾い上げていた蓮井も見る。 「え、オレここ住んでいーんだよな?」 「住んでくれんの?」 「あれ、部屋作るって」 「通い妻かと思ってたわ。え、マジで住んでくれんの?」 「うん。てかもう今日もここ戻ってくるつもりだった」 「うんうん、最高」 「承知しました。神崎様のお部屋、急ぎ整えておきます」 「うぇーい、なんだっけ?姫川の肉オナホ部屋だっけ?」 「彼女部屋な」 くつくつ笑う神崎の頭を撫で姫川も小さく笑う。 駐車場に降り車に乗ると、神崎が肩にもたれかかってくる。 昨日のタクシーと同じ。けれど感情が180度違う。 「神崎」 「ん?」 繋いだ手。 指を絡ませ、ぎゅうと力を入れると神崎も力を返す。 「学校でもイチャつきそ」 「別に、いーんじゃね? 石矢魔ん時お前いつも腕に女巻いてたじゃん」 「お前そのポジションでいーのかよ」 「姫川にくっつけりゃなんでもいーわ」 「ふ、お前超俺のこと好きじゃん。可愛い」 「お前はどんぐれーオレの事好きなの?」 「教えてやるから、口開けろ」 「ん?あー、え、ちょ、ま能面執事いるー……ンッ」 財閥企業が世界に誇る車造りの技術は、静音を特に売りにしている。特にVIP用の高級セダンはエンジンを掛けても分からないほどだ。 常に最新車種を運転できる特権を蓮井は誇りに思っていたが、後部座席から聞こえてくる、チュッチュと艶めかしいリップ音を前にその静音性の高さを初めて恨んだ。 「出発致します。到着は8時28分予定です」 ギアをドライブに入れ、流れで見たバックミラーには腕を首根に回してキスに夢中な二人が目に入った。今日は時間が無い為に小回りの利くセダンを選んだが明日からは叩き起こしてでも後部座席に仕切りのあるリムジンにしよう。 いや、運転席が見えないと車内で始めるかもしれない。 「ん、ひめかわ、さすがにソレはまずい、って」 「ちょっと触るだけだろ」 見えていてもか……。 呆れ果てた蓮井はアクセルをいつもより深く踏んだ。 * 蓮井の安全かつ安定した運転は、けれど少し法定速度を上回りながらも無事、待ち合わせ時間に聖石矢魔校門前に車をつけた。 「神崎様、坊ちゃま。到着しました」 声をかけると、頬を熱らせてぐったりした神崎が姫川の腕から解放された。 「続きは帰ったらな」 「じゃあ帰ろ」 「いやいや、お前あれ見ろよ」 あれ、と姫川があごでさす先には校門の少し先に停まる3台の黒塗りの高級車があった。 そのうち1台を守るように立つスーツの強面二人は明らかに 朝の登校風景にはそぐわない。 「六騎生に追い払われる前に行ってやらねーとだろ」 朝から高級車が複数台乗り入れる校門前は物々しい。 生徒だけでなく通行人をも振り向かせていた。 神崎が乱れた服を直しながら渋々降りると、追って神崎の家の車もそれぞれバタン、バタンとドアを鳴らした。 明らかにカタギでないスーツ姿の男達に守られながら、最後に降車した着物姿の凛としたオーラの男。神崎無玄、神崎の父であるその人が姫川の車に歩を進めるとさらに周りの生徒からどよめきが上がる。姫川の車から降りた神崎は、大袈裟な茶番の様相にうんざりとため息を吐いてガンを飛ばした。 『え、あれ恵林気会かよ!スカウト貰いて~!』 『なんで姫川の車から神崎が?』 『きゃー銀髪イケメンの人、朝から見れた~!』 周りの生徒がざわつき、すっかり衆人環視が出来上がった中で── 「親父、この子が姫川クンですよ」 「昨日若を泊めてくれた親友の!」 そう紹介される姫川に神崎は思わず噴いた。 隣に立つ姫川が元凶とも知らず、 『一晩中、メンタルケアをしてくれた良き友人』として 恵林気会の面々に頭を下げられる姫川も思わず笑う。 「初めましてー。ご紹介に与りました姫川です」 「息子が世話になったね、どうもありがとう」 「神崎クンとは昨日から付き合──」 「昨日今日の付き合いじゃねーんだよな! クラスが同じになったんは聖石矢魔きてからだけど」 「ああ、石矢魔の子なのか。礼儀も気品もあるから 聖石矢魔で出来た友達なのかと思ったぞ」 「こんなフランスパン、石矢魔でしか見ねーだろ」 「いやいや、気合の入ったいい髪型だ」 パンと姫川の肩を叩いてからから笑う無玄は、けれど眼底では姫川をじっと見定めていた。 心内を射抜かれるような鋭い眼光。下手な嘘は通じない。 意を決めた姫川は神崎の肩を抱き寄せ言う。 「俺と神崎の希望で今日から俺の家にいる事が増えます。 俺も旧家の跡取りなので下手な遊びはしません。 もちろん神崎にもさせません。 執事やメイドが生活のサポートにつきますので、 そちらの家ほどではありませんが困り事はありません」 「うお、なに。真面目」 「それは長期的に君の家に泊まると言うことか?」 「はい」 「………」 「え、なに、ダメなんかよ?」 黙りこくる父親に神崎が慌てる。 姫川を見て、それからもう一度表情の硬い父親を見た。 無玄も姫川の目を見て、それから神崎を見る。 「……姫川君に任せよう。はじめもバカじゃないだろう」 「あ、なに?」 「お許しありがとうございます」 「必要なものがあれば何でも支援しよう」 「恐縮です」 もう一度、強い力が姫川の肩を叩いた。 「はじめをよろしく頼むよ」 「これからも若をよろしくお願いします!!」 無玄が踵を返す。見守っていた構成員達も声を揃えて礼をし、車に乗り込み連なって発車した。 蓮井も去るとギャラリーの生徒も日常へ溶けていく。 「ヤクザこわ」 「あ?」 「お前もさ、昔っからいい目してんなと思ってたんだよ」 「ん?おう」 「でもまあ本職の、しかも親玉ともなると桁違いだな」 「何の話?」 「どこかのバカと違って誤魔化しは通用しねーって話」 「ふーん?よくわかんねーけど」 「そのままのお前でいてくれ」 大きくため息をついた姫川は神崎の頭を撫ながら思う。 ──恐らく神崎の父親は俺達に何かあった事は見抜いた。 息子がボロボロになって帰ってきた原因ではあるが、今は本人が望んで嬉しそうに仲良く一緒にいる。目だけで全てを悟って赦した度量に姫川は感心した。 「おい、アタマ撫でんな。学校だぞ」 「こんだけ見せ物になってんだ。もーなんでもいーよ」 「いつかバレるから?」 「なんなら今日バレるだろ」 「なんで?」 「俺の事見過ぎ、俺にくっつきすぎ」 「……ダメなんかよ」 「いいや?教室でセックスしてもいーね」 「ふ、退学なんぞ」 「そしたら毎日ヤれんな」 「てか帰ろーぜ、さっきの続き」 「あーうん。ラブホいく?」 「え、行きてえ!おごり?」 「奢り」 「うえーい。もうオレ財布いらねーな」 「そのうち上納金も納めさせられそーだな」 「お、いーね。骨までしゃぶってやる」 「喉まで突っ込んで吐かせてやる」 「それは昨日散々したろ。今日は優しくしてくれ」 「どーかな。努力はする」 「期待してるからな♡」 姫川の腕に抱きつき、肩に頭を乗せる。 登校中の生徒にチラチラ見られても気にせず、ぴったりくっついてタクシーに乗り込んでいく様は案の定、その日のうちに二人付き合い始めたという噂が広まったのだった。 ──そして翌日。 神崎からふんわり香る、姫川の匂いは周囲を紅潮させた。 加えて姫川と神崎の薬指に堂々輝くペアリングは、烈怒帝瑠女子会の格好の話題の的だった。 「理想のカレシとかどーせATMってそーゆー事すか! メガバンク、や、大蔵省じゃねーっすかぁ! 神崎先パイ、パねえ~!」 「いや別に金目当てじゃねーしオレ」 「あそっか!神崎先パイんちだって城みてーすもんね!」 「でも神崎アンタそれ指輪。貰ったんでしょ?」 「そのブランド……車買えるぐらいのかも……」 「これは俺が神崎にハメさせたくて押し付けたんだよ。 ねだられてもねーし、買わされてもねーから」 「ぎゃ~!しかもめっちゃ愛されてる~! 先パイすげぇ~!いーなー!」 「おー羨め羨め~」 姫川の隣で機嫌良く柔和に返す神崎は、周囲もフワフワした気分に誘った。 これまでに以上に和気あいあいとなったクラスの雰囲気は、教室でイチャつくようになった二人を当たり前の景色として溶け込ます事に成功したのだった。 END
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