← [ 1 ] [ 2 ] [ 3 ] →提灯に釣鐘 2
夕陽が沈んだ。 部屋に射さっていた赤い光が消え暗がりを落とす頃。 神崎にようやく落ち着きが戻って来ていた。 途中、姫川が持ってきたティッシュの箱はすっかり空になっていた。神崎は最後の一枚で涙と鼻水を拭うと顔を伏せたまま立ち上がった。 「顔洗う」 「付いてこーか?」 「いい、顔やばい」 「元からじゃん」 「うるせーな」 いつものようにからかってくれる姫川がありがたかった。 洗面所に行って、顔を洗う。 勝手知ったる戸棚からタオルを出して顔を拭って鏡を見ると昨日よりも目が腫れ赤い。 神崎は腫れた目を撫でながら溜め息を付いた。 1日ぶり、しかも迎えを呼んでフラついて帰ったせいで過保護な家の人間に心配を掛けた。 2日続けてこんな顔で帰ったらもう言い訳も苦しい。復讐心の強い性分の奴らに「何でもない」と言った所で、根掘り葉掘り問い詰められる事は小さい頃から思い知らされている。 かといって姫川に泊めてくれとも言える空気では無いし城山の家は兄弟が多すぎる。じゃあ避難先は、詮索はしまくっては来るが口の堅い夏目の家か。 そう神崎は考えを纏めてリビングに戻る。 「姫川、オレ帰る」 「あーうん。てか うわ、真面目に顔やばくね?」 「うるせーな死ね」 「車呼ぶわ」 「いい。どっかで飯食って夏目ん家行くし。 その頃にはバイトも終んだろ」 「夏目?何しに」 「お前の悪口言いに」 「えー」 「あれオレ、カバンどこおいたっけ」 「玄関じゃねーの。お前いつもほっぽってんだろ」 「あー」 玄関へ向かう神崎の後姿を追って姫川もソファを立つ。 「なぁ神崎」 「ん?」 「キスさせて」 「は、え、ななんで……」 「やたら俺からキスしてたろ。動画で見る限り」 「それがお前の癖なんだろ」 「ダメ?」 「……いーけど」 本当は気乗りがしなかった。 姫川の遊びにこの期に及んで付き合ってしまう自分がいたのはやっぱり好きな奴とはキスがしたいからだった。 惚れた方の負けっていうのは本当だな、と心で泣いて神崎は姫川を振り向いて深呼吸した。 「じゃあちょっとマジなやつ」 神崎の腕を引いて自分へ引き寄せると頬を包んで唇を塞ぐ。 ただ触れるだけのキスだと思って軽く構えていた神崎の体がビクと跳ね、驚きに目が丸まった。 「ん、ッう」 角度を変え、深く口内を弄ってくる姫川の舌使いに声が漏れ足に力が入らなくなる。 気付いた姫川が神崎の腰に腕を回し支えるも、それでもずり下がっていく神崎に合わせて姫川もゆっくり膝を折った。 ぺたんと神崎が床に落ちて息苦しさに姫川の肩を叩く。 「はっ、ひめ、か……はっあ」 廊下の点灯センサーが切れて、辺りが暗がりに落ちた。 日が落ちた薄明かりでは表情が窺い知れない。 「姫川、?」 「神、崎。もう一回だけ」 姫川は戸惑う神崎の唇を柔らかく食んで、神崎としっかり目を合わせてから唇を重ねる。 激しいむさぼるような口淫に息を落ち着かせる間もない。 逃げる神崎をその場に押し倒し、頬から首筋へとキスを落としていく。 「えっ、な、何っ」 わき腹に滑り込む姫川の手に神崎の目が焦りに泳ぐ。 「やっぱ興奮するよなー。軽く勃ったわ」 「ヤ、ヤりてえの?」 「うーん。昨日の今日でカワイソーな気もするんだけど」 「……オレはいーけど。……それにセフレでもなんでも」 「そう?じゃあ今日泊まって行けよ」 「……わ、かった」 いくらセフレでもこんな玄関口の廊下では嫌だ。 神崎は早鐘を打つ心臓を抑えながら姫川の下からもがき逃げた。神崎が立ち上がった事で点灯する廊下の灯りが、乱れたシャツを直す神崎を照らす。 赤くなって焦る神崎に姫川は小さく笑って立ち上がると、神崎の首根に腕を回した。 「何っだ、よ。昨日みたいな痛いのは無、」 「じっとしてろ」 一瞬チリつく痛みが右耳に走る。 小さく金属音が聞こえたと思えば、 右耳に重みが乗った感触に神崎は姫川を見た。 「新しいの買いに行くまでとりあえず俺のしてて」 「は?」 「このピアス欲しかったんだろ?」 「いやもう別に……」 「もう遅い?俺、やっぱお前とマジに付き合うわ」 「はぁ?いいって、そういう同情的なの」 「俺キス嫌いなんだよ」 「何の話だよ」 「だから今確かめたろ。俺お前とのキスで勃つ」 「それはお前が万年発情期だからだろ」 もう何を信じていいか神崎には分からなかった。 姫川はその場その場で嘘を付くし、ただセックス前の雰囲気作りをしているだけなのかもしれないし。段々腹立ってきた神崎は姫川を振りほどいて言った。 「そーゆーのいいからヤるならヤろーぜ」 「今日はやめとかねーか」 「はぁ??」 「だって体だるいんだろ」 「なぁマジ何言ってんのお前? お前が泊まってけつったんじゃん」 「ヤりたいとは言ってないけど」 「でもセフレつって」 「それはお前が言ったんだろ。セフレでも何でもって。 何でもいーなら俺の本命でもよくね?」 「お前の本命なんか徳川埋蔵金より信じらんねーよ」 「財閥資産の方が埋蔵金より上だし見たけりゃ見せるぞ」 「金額の問題じゃねーだろ。 なんていうかツチノコ的なもんだろ」 「ツチノコより珍しい悪魔がその辺うろついてんだろ」 「お前マジであー言えばこー言うな。だるすぎ」 そんな人間に告った癖に、と追撃したい所だったが姫川は言葉を飲み込み神崎につけたピアスに触れる。 「このピアス、俺のばーさんの形見」 「えっそんなモン、貰えねーんだけど」 「本命だから持ってて欲しい」 目を伏せ、どこか寂しげに語る姫川に神崎の胸が鳴った。 本当に付き合ってくれるつもりなんだ、とピアスの穴を風に晒す姫川を見て神崎はふと思う。 「……おい。お前のばーちゃんピアスなんてすんのかよ」 「あ、ばれたー?しないし、生きてる」 ああ、こういう奴だった。 姫川という男の本質を思い出した神崎は流されそうになった自分を首を振って振り払う。 姫川がヤりたいならそれでいい。 ただ好きな気持ちをからかわれる事だけは嫌だった。 「とにかくあんな事しといてアレだけど、 だからこそ今日は大事にするわ」 姫川は神崎を抱き寄せ頭を撫でる。 その手を神崎は振り払い姫川を睨んだ。 「なぁ、もうマジにやめてくんねぇ? 痛ぇセックスされるより、からかわれる方がきつい」 「いやマジマジ。 そもそも罪悪感が沸いた時点で気付くべきだったわ。 俺、可哀想な事したなぁなんて思った事ねーから」 「……自慢する事かよ」 呆れ果て、やっぱり夏目の家に行こうと踵を返す神崎の腕を姫川がグイと掴み力を込める。 大事にしたいんじゃなかったのかよ、と苛立ち振り返った神崎を姫川の真剣な顔が見た。 「俺と付き合って」 一瞬跳ねてしまった自分の心臓に神崎はうんざりした。 嘘でも姫川の声に甘い事を囁かれると反応してしまう。これでは姫川の格好の玩具だ。 それを悟られまいと無言を貫く神崎に姫川は続ける。 「お前が俺を好きな気持ちにはまだ足りてねーと思うけど、 すぐに俺の方がお前を好きになるから」 「何そのわけわかんねー自信」 「昨日みたいな事もうしねえ。俺の物になってくれ」 「何したか覚えてないくせにか」 痛い所を突かれて姫川は閉口した。 さすがに振り回しすぎたかもしれない。 眉間に皺をよせ不機嫌を露にしていく神崎に姫川は事を性急に運んだ事を反省した。 姫川の告白は本当に本心から出た言葉だったが、今までの行いを省みるに客観的に見ても信じられるものじゃない。自分の重みの無い軽い言葉に焦りが出る。 けれど、本気の告白なんて生まれてこの方した事が無い。 どうすればいいかと拱いているうちに神崎が口を開いた。 「じゃあ聞くけど」 「うん」 「お前、オレをズリネタに出来んの?」 「……ん?は?」 「オレは昨日家帰った後お前で抜いた」 突飛な神崎の問いに力の抜けた姫川の手を神崎は振り払い、姫川の目をガンを付けて見据える。 「あんな痛い事されても、 オレはお前とやったってだけで興奮するし、 お前が目の前に居ても居なくても、 お前の事で頭いっぱいだし、お前の事考えると 嫌な事もしばらく忘れてられるし何されても許せる。 好きってそーゆーモンじゃねえの?」 どういうものかと問われても、今まで一度も恋心を経験した事が無い姫川には分からない。 神崎の演説にただただ口を閉ざすしかない。 けれど世間の人間の殆どを無関心に分類する姫川にとって、神崎を『好意を持つ』に分類しているのは確かだった。 「これ、仕返し」 呟いて神崎は姫川の肩を殴った。 確かに重い痛みはあったが仕返しにはあまりに足りない。 夏に病室が同じだった時、見舞いの品を勝手に食べて殴られた時の方がまだ数倍重い拳だった。 姫川はじんわり熱をはらむ肩を抑え神崎を見た。 「今殴られてムカつくって思ったなら、 お前オレの事なんか好きになれねーと思う」 まったくの真逆だった。 姫川は心底胸をなでおろし神崎を抱き寄せた。 「うん、大丈夫っぽい。俺お前の事好きだわ」 「嘘くせーな……」 「なんだよ、どーすりゃいーんだよ」 「お前がマジにオレと付き合うっつーなら付き合う。 セフレならセフレ。ここきっちりしとこうぜ?」 「仁義って奴?」 「うん」 「しっかり通すわ」 「明日になってしらばっくれてたらマジで殺す」 「わかったから。誓う。キスさせろ」 「おい、殺すってマジに殺すからな」 「るせーな、アホみてーに目閉じてろ」 キスをしようと神崎の頬に触れて気づいた。 また目が赤くなり涙がいっぱいに溜まっていた。 あれだけ強気に言っていた言葉全部、気持ちを押し殺して気丈に話していたのだと気づくと一層胸がしまる。ああ、これが愛しさなのかと理解した姫川は言われるまま素直に目を閉じる神崎に触れるだけのキスをし、唇を撫でる。 「唇ガサついてんぞお前」 「下手クソなセックス、唇噛んで我慢したからな」 「じゃーお詫びにピアス、買いに行こーか」 「いらねぇ」 「え、お前まだ信じてな」 「違う。買いに行こうって距離じゃねーんだろどうせ」 「パリだけど」 「つーかオレ、お前のばーちゃんの形見のがいい」 そう言って姫川の胸に収まり笑う。 姫川はそんな素直に神崎を抱き締め、ほわほわの金髪に顔を埋めて訊いた。 「付き合うってさ、何すんの?」 「お前の得意分野だろ」 「俺、誰かと付き合った事ねーから」 「いちいちしょーもねー嘘付くなよ」 「マジで。彼女いない暦年齢だから」 「ふーん。姫川クンって童貞?」 「ボクの童貞、神崎君の処女に捧げちゃった」 「うるせーな」 姫川の茶番にぺちんと頭を叩いた神崎が柔和に笑う。 「で、具体的に何すんの?」 「あー?飯食いにいったり、遊んだり?」 「いつもと変わんねーじゃん」 「変わんねーな」 「んー?変わる事もあるだろ?」 「……お前その急にエロい声だすのやめろ」 「嫌い?」 「いや、好き」 笑う姫川に神崎も笑う。 姫川は神崎の頭にキスを落とすと、玄関で脱ぎ捨てられている神崎の上着を拾い投げ渡す。 「出かけよーぜ」 「は?え、どこに?」 「パリ。自家用機で」 「はぁ?」 「ウソウソ。メシ食いに行こう」 「だからまめに嘘つくんじゃねーよ。 つーかオレもう外出たくねー」 「だるいなら車呼ぶから」 「無ー理ー。大体お前ヤる雰囲気作ってたじゃん」 「作ってねーし。つーか俺の方が無理だから」 「何でだよ、体だるいのはオレじゃん」 「ちげぇ。正直ムラつくの。家いると手出しそうになる」 「だから別にいいって。ヤりてーならヤろうぜ?」 「駄目」 「何紳士ぶってんだよ下半身脳」 「うーん……そうだ城山と夏目呼ぶか」 「なんで」 「あー夏目ってこの時間まだバイト?とりあえず城」 「泣くぞ」 「ん?」 「オレを泣かしてーの?」 「は?外に出なきゃいーんだろ」 「いっかい座れ、ばか」 泣くという割には怒りを露にする神崎は姫川の腕を引いてリビングに戻る。ソファに誘導して腰を下ろした。 「お前よくそれで女はべらせてられんな」 「だから、あーいう女は彼女じゃなくて遊びだって」 「腹立つなクソ童貞」 「何、どーしたいのお前」 「だから、今はお前と二人だけでいたいの」 「え、あーそういうもんか」 「ほら、イチャつきたい、っつーか……その」 言葉を詰まらせ黙ってしまう神崎はきゅと目を瞑ると勢いに任せて姫川を押し倒した。 「姫川と、してえ……」 恐る恐る目を開けて姫川の反応を見た。 じっと見つめてくる姫川の目にすら興奮する。 でも、と口を開く姫川の言葉をぎこちないキスで塞ぐ。 「2日もヤられ続けたら……覚える……」 「覚えるってお前……エロすぎ」 「今日も抜いたけど、もう無理。 してぇ、中うずく、挿れたい。頼む、ヤろ?」 「じゃあフェラってやるからそれで我慢し」 「犯すぞ」 「は?」 「逆レイプすんぞつってんの」 「悪いけど弱ってるお前になら余裕で勝てるわ俺」 「じゃあお前が寝たら襲う」 「うーん……」 煮え切らない姫川に抱きついて耳元で囁いた。 「お前が欲しくて欲しくてたまんねぇの」 初めて聞く声色だった。 上ずって、必死で、色気がある。 そのまま耳を甘く噛んでくる神崎に姫川は観念した。もとい我慢の限界だった。 自分に覆いかぶさる神崎の腕を掴んで体を起こす。 掴んだまま二の腕を握り、揉みしだいてみる。 女と違う柔らかみの無い体に興奮が揺らいだのは一瞬。 姫川に腕を掴まれて、揉まれる。それだけで息も絶え絶えに興奮で上気する神崎に息を呑んだ。 「ひめか、わ……それ、エロい」 「いや、お前もな」 眉根を寄せながらも嫌がるそぶりは見せない。 それどころか揺らぐ腰は先を急かす。 「なあ、早く…」 「神崎クンは俺とエロい事するの好きなんですねー」 二の腕から手首へ。 揉み、撫で下ろし指を絡めとるように手を繋ぐ。 「姫川ぁ」 ただ手を繋いだだけ。 それだけで、顔を赤らめ切なげに眉を寄せる神崎に姫川は自然と唇を重ねた。 「ん」 舌が触れ合うとピクと神崎の指が姫川の手の中で震えた。 その手を優しく握り直し、舌を進める。 水音が口内で響いて頭に反響する。 神崎の方から、もっとと絡ませてくる舌に姫川も応えて神崎が満足するまで貪りあった。 「ッ、くるし……っ」 少しばかり咳込みながら、神崎が距離を取る。 荒い息遣いに姫川は小さく笑った。 「だってがっつきすぎなんだもん、お前」 「え……」 「ああ、嫌とかじゃなくて。食われるかと思った」 「当たり前だろ。今からオレ、食うもん。お前のこと」 「俺がお前を食うんだけどね」 姫川の目が妖艶に笑んで、悪戯に舌を出す。 神崎の好きな姫川の表情だった。 いつも退屈そうに日常を過ごしている姫川だが、時に獲物を狩りとるような眼になる。 それが自分に向けられているというだけで背筋から腰にゾクゾクと電流のような痺れが走る。 神崎は生唾を飲み込み、じっと姫川を見た。 「すっげぇメス顔。 お前、自分が今どんなツラしてるか分かるか?」 「え、わか、んねぇけど……変、か?」 「『東邦神姫の神崎さん』といえば、 ドブみてーに濁り切った面してたんだけどなぁ」 「……」 「今はそのかーわいい発情顔だけで、こーなるわ」 ニヤと口角をあげた姫川は、神崎を抱き寄せ自分の上に座らせるとすでに主張し始めた性器を神崎に当てる。それだけで先を期待した神崎の心臓は鼓動を早めて呼吸を荒げた。 姫川は小さく笑い、今にも唾液が垂れそうな神崎の口に自身の中指を咥えさせた。 唾液を絡めとるようにかき回し舌を弄ぶ。 「ん、ふ……っ」 見る見る内に神崎の目が蕩ける。 ぼんやりまどろみ、自制を失い始めた神崎の唾液が姫川の腕を伝った。 「指より太いの、この口に入れてえ?」 舌を弾きながら訊いた。 返事の代わりに、ちゅう、と指を吸う。 姫川は喉で笑い、神崎を自分の上から下ろしソファの下に座るよう視線で指示をした。 神崎も素直に腰を下ろして足を開く姫川に収まった。 「はい、いっぱい気持ちよくしてねー」 神崎の髪を掴むとズボン越しに性器へ押し付ける。 髪を掴んだ事で少しは怒るかと身構えていた姫川だったが、 最早目先の快楽しか映らない神崎の目は蕩けきり、期待に震える手で姫川のベルトを外し、ズボンをくつろげ性器を取り出し頬ずりし、ちゅうと茎根に吸い付いた。 「さすが分かってんじゃん。いい子、いい子」 「ん、へへ」 いい所を強めに吸う神崎の頭を撫でる。 撫でられる気持ちよさと、褒められた嬉しさ。 それと、舌を這わせる都度、 ピクピクと反応を返してくれる姫川の肉に神崎の胸の内は幸福感で溢れかえっていた。 亀頭をぱくんと咥え、歯を立てないよう強く吸った。 舌で尿道をクリクリ転がしてからカリ首にも舌を沿わせて、それから一度口を離す。 「きもひ、いい?」 「フェラ上手いじゃんお前」 褒められるとまた一段と脈が早まった。 ドッドッドと胸が鳴っているのを感じながら、裏筋をひと舐めずりして竿を顔に載せながら玉へ吸い付く。 姫川が正気でなかった頃、何度も殴られながら教えられただけに、やっぱりそれは姫川がイイと感じるやり方のようで神崎の頬の上で肉茎がピクピク脈打ち、硬くなっていく。 嬉しくなって竿に手を伸ばして軽くシゴけば、カウパーがトロと溢れて神崎の眉間を濡らした。 「いや、きもちーわ。お前うますぎ」 「飲、む。まって」 もったいない、と慌てて口いっぱいに頬張る神崎に姫川は目を丸くした。 かつて自分に気に入られようと、媚を売りに売りまくったセックスをしてきた女でもこんな嬉しそうに、大好物を食べるかのように悦びに浸ったフェラをした女はいない。 「もう、でねぇ?」 上目でおかわりを求める神崎の艶めかしさに、姫川の喉仏がゴクリと大きく上下に動いた。 「さすがに昨日お前で絞りきったかな」 「ええ……」 「飲みてーの?精液」 「飲みたいってか、口の中で出されたい」 「はぁ?」 「あ、でも中出しもされたい」 「お前Mっぽいと思ってたけどガチMじゃん」 「姫川限定な」 そうか? 日常を見る限り、『姫川限定』では無さそうではある。 姫川にそんな疑念は残ったが、 「喉使うなー」 「ん、ぐっ、……おぇ、ンぉ!ンン゛」 金髪を掴み喉を使って腰を振ってみても、嫌がる所か太ももをもじもじと擦り合わせる神崎に姫川は満足した。 とはいえ、生理的にはやはり苦しいのだろう。 手が震え顔色も悪い。 溢れる唾液がだらだらとあごから垂れ落ち、ポタポタ床に水溜りを作る。鼻水と涙もその水溜りに落ちていった。 「喉に直か、舌でテイスティングどっちがいー?」 神崎からすればどちらも魅力的だった。 でもまだやった事がない方といえば後者だ。 上目で姫川を見上げ、あまり自由の利かない舌でツンツンと姫川の竿を叩いた。 「舌の上?」 伝わった嬉しさで、神崎の目が綻んだ。 「いーか?テイスティングってのはまず匂いを味わえよ」 ズルっと神崎の口から唾液にぬめった肉茎を引きずり出すと神崎の鼻に亀頭を押し付ける。 「ッん」 「お前えづいてたからな、 テメーの胃酸の匂いもあるかもしんねぇなぁ?」 それでも神崎は一生懸命スンスン匂いをかいだ。 胃酸の匂いの中にもやっぱり精子の匂いはする。 言われた通り胸一杯吸い込んだ。 「はい、次。口開けろ」 「あー……」 「もっと開けろ、で舌出せ」 命令通り、レロと素直に出て来た舌を姫川の長い指が更に引っ張り出しそこに亀頭を乗せた。 「ここに出してやるからシゴいて」 「あ、う」 神崎の指が血管の浮いた肉茎に輪を作って激しく擦った。 舌の上でじわじわカウパーが滲み出す。 すぐにでも飲み込みたい衝動に駆られたが、見下ろす姫川の視線がそれを許さない。 「あ、出そ。いーか?すぐには飲むなよ」 眉根を寄せた姫川が神崎の手ごと性器を掴み、さらに激しくシゴく。すると間も無く。 びゅっびゅると神崎の舌の上に生暖かさが乗った。 「あーやべ、手コキなのに結構イケた」 神崎の指ごと最後の一滴まで搾り取って舌の上に精子を注ぎ落とす。それから従順に口を開けて精液を受ける神崎の頭を満足そうに撫でた。 「はい、じゃあ次は噛んで精子を味わってみよーか」 「ん」 うなずいた神崎の頬が膨らんで、縮まって、また膨らむ。 クチュクチュと頬の中で音が鳴って口端から泡になった精子が溢れ出した。 「俺の種うまいー?あーん」 口を開けさせると、泡だった精液が口一杯に広がっていた。 味わった?と姫川が訊くと頷きが返って来る。 「じゃあ、飲め」 神崎の喉仏が2回上下した。 ゴクン、ゴクンと嚥下した音が聞こえるほど、大きく飲み込んで最後に舌が唇を舐めた。 「どう?」 「ん。飲めて嬉しい」 「すげーなお前」 「てかお前、俺の体がどうの言う割にイラマさせんなよ」 「嫌?」 「いや、別にいーけど。フェラしたかったのオレは」 「じゃあ今度な。で、次はどうされたい?」 「え、どうって……?」 昨日は成すがままだったのだろう。戸惑う神崎に、サド気に火のついた姫川の攻撃が始まる。 「特にねーならやっぱり今日はやめとくか。 俺出したしもういーや」 「え、やだ、だめ」 「じゃあお前が今日俺オカズにシコった内容言え。 その通りにしてやるから」 「ええ……」 神崎の目が泳ぐ。 耳まで赤く染まった頃、視線を姫川の手に落とした。 「その、指で……」 「ん?お前も手コキでいいの?」 「いや、あの、だな?昨日してくれたみたいなの……」 「いや覚えてねーから。何?はっきり言えよ」 おずおずと神崎が姫川の指を引く。 大きい、がっしりとしたでも細長い指。 姫川の中指と薬指を握った神崎は、上目で訊く。 「わかんだろ……?」 「さぁ?」 「えぇ……」 「言葉に出して言ってくんねーとなぁ」 再び目線を落として困り果てる神崎を喉で笑うと、姫川は神崎の手の内を指の腹で擦ってみる。 それだけでビクンと神崎の肩が大きく跳ねた。 「こーゆーことー?」 姫川は目を細め、握られた2本の指をくの字に折りグリグリ擦る。うん、うんとうなずく神崎はそれだけで息を上げ物欲しげに姫川を見上げた。 「オレの、なか、でそれして、中こすって、中ァ」 「うんうん。ローションとか準備するから待ってろ」 「や、昨日のあの部屋でやろ」 神崎の頭を一撫でし、ソファを立つ姫川の腕を待てと引いた。あの部屋、と神崎が言う部屋は確かにヤリ部屋として使っているだけに大抵の準備は出来ている。 けれど、凄惨たる状態の部屋は衛生的にどうなのか。 そう懸念していた姫川だったが──。 * 「あーッ、あ、あああッ、ああ゛う、あ゛ッ!」 「うわ、またかよお前」 キングサイズのベッドの上。 姫川に組み敷かれた神崎が3度目の潮を噴きベッドを盛大に濡らした所だった。 姫川の腕に担がれた片足がビクビク小刻みに震えると神崎の性器からジョロッと失禁が続いた。 「確かにこの部屋選んでくれて助かったわ……」 もう蓮井に掃除させるのも後ろめたい程だった。 姫川はあっという間にグショグショになったバスタオルを丸めて部屋の隅に投げた。部屋の隅には既に役目を果たしたバスタオルの山が出来ていた。 「お前まだ指マンしてるだけだろ?すげーなお前。 俺の挿れたら死ぬんじゃねーの」 「だ、て 自分でやるの、と全然ちが、きもちい……」 「そりゃ俺がしてんだから当たり前だろ」 「うん……てか、手、よごし、てごめん」 「いーけど。お前これ女優でもこんな噴けねーだろ」 姫川は神崎の中から指を引き抜いて、しげしげと自分の手を見つめた。これ、といわれて神崎も恐る恐る姫川の手を見上げる。滴るほどにビショビショだった。 姫川が指を一本一本舐めながら神崎を見下ろし口角を上げた。妖艶な仕草に神崎の喉が鳴った。 「じゃあそろそろ俺もヨくしてくれなー」 バスルームから束で掴んできたバスタオルも最後の一枚。 ベッドに敷いて神崎をその上に仰向けに寝かせて、細い足を左右に割る。ローションを勃起した性器に塗りたしながら、姫川は神崎の様子を見た。 表情は少し硬い。けれど穴はヒクついて期待をしている。 「挿れるな」 「う、うん」 本気の勃起だった。 姫川自身も驚く程に神崎に挿れたくて挿れたくて血が集まり脈打っていた。 挿れたら終わりそう、マジで童貞みてぇ。 姫川は小さく笑い、先走りでぬる付く先端をさっきまで散々いじめた神崎の穴に当てがった。 「あっ、ま、まて ひめかわ」 「ん、なに?」 「わか、んね、怖い、やっぱ、今日はもう……」 「は?知るかよ」 至極どうでも良さげに言い捨て腰を進める。 少しの抵抗だけでヌプと先端が神崎の中に姿を消した。 「あ゛、いっ、」 「何?痛い?」 言いながらも止まる気配が無い姫川は神崎に覆い被さり、肩を抱いてゆっくり埋めていく。 「あ、うぅ……おねが、いっ、かい、待っ」 「はあ?何、どしたの」 「も、う……い、れな、いでぇ、やだぁ」 「はいはい、もうすぐ全部入るからねー」 「きけ、よお、たの、むからぁ」 「騒ぐ、んじゃねえ!」 「ああッ、や、やだ、かえ、帰るッ、かえ、して」 逃げる腰に一気に突き入れた。 あったかい、溶けそう。キツい。締まる。 神崎の中を味わいたい所だったが錯乱に近い取り乱し方をする神崎に姫川は小首を傾げた。 青い顔をして手も震えている。 萎えてしまった神崎の性器をフニフニ弄りながら訊く。 「あーフラバしちゃってる?」 「ぬ、抜いて、か、え帰る、もう、お、わりた、い」 「うーん勃たねーなぁ。フニャったまま……て、うわッ」 ジョロッ。 姫川の指を神崎の失禁が濡らした。 驚きに肩を揺らしたものの性器をシゴく手は止めない。 呆れ顔が笑いながら言った。 「俺どんだけ酷いレイプしたんだよ」 「ひ、めかわ、頼む、から、抜い……てく、れ」 笑う姫川を震える手で押し返す神崎の懇願。 顔を青くして、姫川を見上げる目からは涙がとめど無い。 「こ、わい、こわい、から」 「ったく。わーったよ、酷い事したねーごめんねー」 怯える神崎というだけでそれなり来るものがある。 今日はここまでにして1人で抜くか、と諦めた姫川が神崎の頭を撫でた時だった。 キュウゥゥとキツい締め付けがあった。 同時に神崎が海老反り、はくはくと口を震わせる。 それから姫川の手の中に温かい精子がトロトロが流れた。 「あ、あっ、アァ、はじ、まっ、ちゃ、ぅ」 「ん?え、何?お前これイッてる?」 「う、う゛ん、だ、から、抜い、は、やぐぅ」 「え女役って勃ってなくても射精出来んの?」 手の中にある薄透明。 姫川はニチャニチャ手で弄びながらイタズラに笑んだ。 「なあ、『はじまっちゃう』って何?」 荒い呼吸で忙しなく上下している胸に精液をなすりつけながら訊く。途端、神崎の体が跳ねた。 「ひっ、ィあ、っあッ~~ッはぁッ、あ!」 「気持ちよくしてやるよ」 もう言葉無く、性器から逃れようと体をよじって暴れる神崎に姫川は覆い被さって腰を振った。 姫川の性器を締め付ける肉が、動き出した性器に強引にかき分けられる。 絶頂に膨らむ前立腺がゴリゴリ堅い血管浮立つ陰茎に擦られ始めると神崎の身体が硬直した。 「っや、やだぁ、やだアァ!アア゛や、めでぇええ!」 頬は真っ赤で、鼻水も、涙も、涎も流れるまま。 小刻みに震えている。 大袈裟な反応、でも演技でもない。 一突きごとに声が出る。 普段からは想像もつかない色のついた高い声。 どうやら恐怖はセックス自体ではなくその先だ。 そう推察した姫川は神崎をうつ伏せに返し、腰の位置を調整すると舌をなめずった。 「ちょっと俺、本気出すからな」 「だか、ら、待ッ」 神崎が口を開く前に、 ズンッ、と圧迫が前立腺を直撃した。 「…………ッ~~!」 瞬間。神崎から声が消え、全身に電気が走った。 足の指が開き切り、全身が痙攣しピクピク跳ねる。 「はっあ、あっ、あっ」 「フッ、何おまえ。小刻みにイクなよ」 「たのむ…………まっ、てぇ」 「じゃ、俺も気持ちよくならせてもらうなー」 「お、ねが、やだ、ひ、め、」 神崎の意識が途切れたのは、姫川が舌なめずりをしてから程なくだった。たった一度直撃した前立腺の位置を一度で覚えた姫川は、神崎の耳裏を舌でネットリなぞりながら、神崎の弱い場所を亀頭でズリズリ擦った。 「ひっ、う、ああッあ~~ッ」 少し動かれるだけでも全身に電気が走る。 神崎の腰が無意識に姫川から逃げた。 「逃げるなよ。お前の中、今から壊してやるから」 「あっ、あ、あ、う、こわ、い、いや、だ、ぁ」 腰に響く声。 それだけで神崎からまだ涙がこぼれた。 まずはゆっくりと姫川の律動が始まった。 「あっ、あ あ、ひめ、」 シーツをぎゅうと握る。 的確に、気持ちいい所にゴリゴリ固さが当たる。 男としてのセックスでは一生経験出来ない。 体の芯を打ち込まれる圧倒的存在。 タンタンタン……。次第に速さが増してくる。 姫川が本気、と宣言しただけあってもう手加減は無い。 姫川がただ荒く呼吸をしながら神崎をえぐり突く。 リーゼントが乱れてパラと前髪が落ちた。 「ン……吸い、つき、最高……」 「ひ、い、ぐっ、き、もぢ、ィい、ナカがぁ、」 ごりごり擦られて。 あの姫川がオレできもちよくなっている。 姫川がオレを抱きしめて、オレを気持ちよくしてくれてる。 耳元で聞こえる姫川の上がった息にすら感じる。 というかイっている。 だいぶ前からイってる。 イキながらさらにイかされて、 それでも中の気持ちいいコリコリしたのを 的確に1秒に何突きもされて、さらには耳元で、 「神崎、イイ……好きだ……」 なんて、囁かれる幸福感。 姫川にどこをさわれてもイってしまう。 昨日とは違う、姫川のセックス。 恋人として、特別な相手として抱かれてる。 胸に溢れた気持ちが、 ゾクゾクした強烈な性感として神崎の全身を襲った時、 「う、ああア゛~ーッ!ああッア」 耐えきれない絶頂に悲鳴を上げ意識を手放した。 ガク、と神崎の体が折れてベッドに沈む。 姫川は体を仰向かせ頬をペチペチ叩いてみるが反応は無い。 「落ちるのはえーよ」 姫川は小さく笑い、神崎の足を抱え直すと性器をグリグリ神崎の奥深くまでねじ挿れ無茶苦茶に揺さぶり始める。 気を遣わず、力任せに神崎の肉ヒダに擦り付ける。 失神してもなお、狭さも締め付けも気持ちがいい。 ポロと神崎から涙がこぼれて、それがまた興奮を煽る。 このままイこうか、それとも神崎が起きるのを待つか。 迷ったのはほんの一瞬で。 神崎の中に射精したい。 深い所で射精したい。 「神崎、中、だすな、」 そう思った時には、 これまでのセックスとは違う体の疼めきがあった。 ゾクゾクと背筋に快感が走って声が出る。 「イ、くっ、神、崎!」 腰が砕けそうだった。 神崎と繋がったまま倒れ込みながらも、射精が続いた。 しばらく、ただ粗い呼吸でまどろんでいるだけだった。 髪を解いてより神崎の身体と密着した。 動けない、動きたくない。 神崎の中にずっといたい。 そんなセックスは初めてだった。 痛かったのか、気持ちよかったのか。 怖かったのか、嬉しかったのか。 早く神崎を起こして聞きたい。 射精後の心地よさにまどろみながら、 神崎を撫でていると涙に濡れたまつげがシパシパ動く。 「起きたか?」 姫川は体を起こして神崎の頬を撫でる。ぼんやり自分を見る神崎の目が段々と明瞭になったかと思いきや、 「あ、あ……や、やだ、きゅ、うけい、したい、」 「ん?どーしたー」 どうやら混乱の最中にあるようだった。 顔面が一気に蒼白になる。 繋がったままの性器を無意識にギュウウと締める。 「休憩なんて体はいらなそーだけど?俺もお前も」 「うう゛あ、あ゛家、が、えしでぇ、もうやだぁ」 「なになに。どーしたよ神崎クン」 しゃくりをあげて、本気で泣き始める神崎は先程の錯乱とはまた違う。姫川は神崎の背に腕を入れ優しく体を抱き起こすとギュッと抱きしめ頭を撫でた。 「ん、髪のせいか?フラバで昨日の俺にいじめられてる?」 「うっ、うう、な、なに?」 「今日はお前のペースで気持ちいい事だけするから」 言いながら、優しく神崎の萎えた性器を上下に擦る。 すぐにきつい締め付けが返ってきた。 密着する事で聞こえてきた痛いほどの心臓の脈動。 それが段々と落ち着いてくる。 「姫、かわ、あっ、ま、って」 「抜く?」 「う、ん……」 神崎は姫川の肩に手を置き、自らゆっくり腰を上げた。 「んっ……は、ぁ」 神崎の中からその全長がぬらっと姿を表して、 それからすぐにボタボタと精液が後を追う。 「えっ中出し、したの?おまえ……」 「ん?あダメだった?」 「あ、え……オレ、でイけたの?」 「?うん。バカみてーにヨかったから我慢出来なかった」 姫川の言葉にまた神崎から涙がこぼれた。 「は?ええ……お前どんだけ泣くの」 「だ、て、昨日のおまえ、ぜんぜ、ん、イかなくて、」 「うんうん」 「でも、オレだけ、なんども無理矢理イかされ、て」 「えーひどー。どんな?」 ぺたんとバスタオルの上に座り込む神崎は、近くのブランケットを頭から被って涙を腕で擦りながら続ける。 「イくの、つらくて、でもやめて、くんなくて、 奥のなんか、やばい奥にずっとバイブいれて、きて」 「あー電池切れてたよなアレ」 「それ、怖い、けど、中、触られると秒でいくし、 中、ぐずぐず、で、イくのおわんなくて、」 「あーうんうん。怖かったねー俺」 「休んでいーの……?」 「うん。だから抜いたろ?見ろよ、ガチガチなんだけど。 抜くの辛いんですけど。早く挿れてーよ」 「ま、まって、まだ中、じんじん、してて、むり」 「敏感って事?」 「う、ん、姫川の、まだ入ってる、かんじして、 それ、だけでいき、そう……」 言うと、ブルっと身震いして身体を折り曲げる。 小刻みに震える神崎の肩を撫でると甲高い声を上げ姫川の目を丸くさせた。 「え……。まさかイった?」 「う、うん……ど、うし、よ……も、何されても、イ、く」 怯えながら自分を見上げる神崎に姫川は頭を掻いた。 『始まっちゃう』と怯えていただだけあって辛そうだ。 「いーよ。待つ」 「あ、ありが……と、うござ、いま…す」 「うん……ん?何で敬語?」 「昨日のお前が……そう……しつけ、たんだろ…」 「えー俺が躾る余地ねーじゃん。一旦それ忘れて」 「……いやシツケんなよ」 「気づいたか」 「ばかにすんな」 コロとベッドに身体を横たわらせながら神崎は続ける。 「でも、オレ……やっぱ、怖い、まだ……」 「俺が?ヤるのが?」 「ど、っちも。ヘンなイき方してるもん……」 「ふーん。ちょっといい?」 神崎が頭から被っているブランケットをめくる。 蒼白のままの神崎が弱い視線で姫川を見て目を伏せる。 「休憩、も、う終わり……?」 震える声で言う神崎に姫川は小さく笑いキスを落とす。 軽く触れて、神崎が口を開いて受け入れると、舌をすべらせ 神崎の舌を絡めとる。 チュ、チュッと音を立て、神崎が苦しくないよう何度も角度を変えて。頭を撫で口淫に耽る。 やがて、神崎の表情が蕩け、怯えが消えた事を確認した姫川は身体を起こす。 「昨日の俺は、こんなキスした?」 「し、してな……い、け、ど……」 「あれ、え、イってる?」 「う、ん……」 真っ赤な顔が泣きそうになりながら姫川を見た。 「う、れし、い、のが、いっぱ、いなる」 「たかがキスだけじゃん」 「お、れ、お前が思うより、お前の、事好きだ、から」 「何それ刺さる。腰にキた。挿れていー?」 「え!?ま、っオレまだ、むり……!」 覆い被さる姫川を押し返し、頭を振って抵抗する神崎の脚を姫川は左右に割る。 射精と汗でベトつく穴にローションを塗り指で中にも塗る。 それだけで神崎の身体がビクビクと跳ねた。 「う、そつ、き、オレのペース、でっ、て、ゆった」 「ごめんな?俺そーなのよ。自然に嘘ついちゃうのー」 べっと舌を出して笑う姫川は、確かに神崎の好きな姫川の性分で。胸がぎゅうと高鳴る。 けれどそれ所じゃないのは自分の体だ。 「キモチいーんだからいーだろ」 「ちが、きも、ちよすぎ、るから、つらッ、あ、嘘、」 抗議が終わる前に姫川の先端が、身体に埋まった。 「ううう、はなし、きけ、よぉ」 「きーてるきーてる」 無遠慮にその全身が腸壁に埋まっていく。 グズグズに蕩けたナカはピクピクと小刻みに絶頂し、神崎に行きすぎた刺激を与え続ける。 「ふっ、ふっ、あ、も、ぉ、ううっ」 「はは、すご。中ピクピクしすぎ」 神崎はポロポロ涙を流しながら姫川の首根に腕を伸ばす。 「フ、それ、揺さぶってもらう準備?」 「う……ん、で、でもや、やさしく、し、てほ、し」 「いやー俺思うんだけどさ」 言いながらゆるゆる神崎の奥を小突く。 その度に切羽詰まった声が姫川の耳元で喘いだ。 「あっ、あ、あっ、ア!」 「お前、昨日の俺のセックスが好きなんだと思うよー」 「な、わけな、あんな、ごーもん、みた、いなの」 「でもしっかり躾られた事も出ちゃってるから 体は痛くて怖いのもキモチーって覚えたんだろ」 「やだ、い、いたいの、はほんとにもう、やだ」 やだ、と言う割にキツい締め付けがあり姫川は笑った。 「期待にお応えして昨日のセックス、再現するな」 「ちが、やだ、ふつ、うに、えっち、したいぃ」 「自分で言ってたけどな。昨日してくれたのしてって」 「う、うう、ちが、ふつ、うの、ぉ」 神崎の身体が大きく震えた。 「あっ、ア……~っは、あ!」 「お、また?昨日のセックス思い出すだけでイくかー」 姫川にぎゅうと抱きつき快楽を逃そうと息を吐く。 そんな神崎を姫川は引きはがし、ベッドに倒すと口を塞いでチュと舌を吸う。 ベッドに力無く投げ出された手を取って指を絡めて繋ぐ。 すぐに神崎からも握り返されると姫川は小さく笑い緩やかに腰を動かし始めた。 「んんんっ、ン、ッンン!」 絶頂に跳ねる神崎の身体。 また、だらんと力の抜けてしまう舌を絡めて弄ぶ。 オルガズムに達したままの収縮した腸内。 姫川の勃起しきった性器が縮む肉を強引に突き分け、前立腺をえぐりながら引き抜き、突く。 パチュパチュッ―。段々とペースも早まっていく。 「う、ううっ、んんっ、んっ、んん!」 自分の口内で神崎の悲鳴が反響する様に、姫川の背筋にこれまでに無い性感が走る。口淫から解放すると、半開きのままの口からは高い声が溢れ出した。 「あっ、んん、アッ、あ、あ、う、ン!」 「声、かわい、お前」 「いっ、いい、きも、ちいっ、いぐ、イグゥぅ」 「いーよ、止まんねーけど。勝手にイけ」 「あッ゛い、イく、アっ、は!ああっ~~!」 ビクビクビクッと背中を跳ねさせる神崎の身体を姫川は腕に抱き込み、オルガズムにギュウウゥと収縮する腸壁を堅い勃起が強引に突き上げた。 「ぎっ、あ!!アッ!や、やだ、それぇぇぇ」 「あー今イイから、大人しくし、ろ!」 「やめ、や、ひめ、か、わぁ!!」 姫川の腕の中で神崎の身体が暴れる。 その身体を横抱きにし、さらに深い所へ捩り込んだ。 絶頂で収縮したい腸壁を許さず、構わず押し拡げ、ピストンを続ける姫川の性器が前立腺をゴリゴリ突き続ける。 大きく見開いた神崎の目からボロボロと涙が落ち続けた。 「くる、し、やだ、そこ、ううっ、い、いぐ、ぅぅ」 「お、マジじゃん。すっげ、きもち、この痙攣」 「ま、っでぇ、うご、か、イぐのやめ、てぇ」 「うーん、無理」 真っ赤に染まった顔は、鼻水と涎と涙とが入り混じりぐちゃぐちゃで。さらに必死に懇願をする神崎の表情はこれまでにない征服感を姫川に与えていた。 「ひめ゛かわぁ、頼……おね、が、し、ま゛すぅう゛」 神崎がどうなろうとその先を体験したい欲が勝つ。 惰性のセックスとは明らかに違う興奮。 「おね、が、ひめ、かわぁ!うっうう、や……ひめっ」 神崎が嫌だという痙攣し続ける奥深い腸肉。そこを叩いても神崎は泣くが、その手前の前立腺。 奥を叩くついでに前立腺も性器の根元で激しく擦れば、神崎の身体が浮いてジョロッと勢いよく失禁する。 「うぇ、ええぇ、腹、ナカァ!こわ、れ、やだぁ!」 「壊すって言ったろ」 「いぐっ、いっ、や、だ、いくの、もぉ……やだ、」 「はっ、イきまくってるの最高、きもち。俺もやべーわ」 間隔の早い何度目かの中イキに姫川の精子が登る。 ギュウゥと搾り取るような吸い付くような締め付け。 姫川はたまらず腰を止め、大きく息を吐いた。 「俺もいき、そ、休憩」 「えっな、ん、でぇ、早ぐ、イっ、てぇ」 「ヤダ。長くしたい」 滲む汗を腕で拭い、神崎の汗で張り付いた前髪も後ろに撫で流してやる。それから神崎の首筋をちゅちゅっと吸い、神崎の唇もついばみ、神崎に誘われるままに舌を絡める。 「んっ、ンンッ」 そのキスですらまたキツい痙攣があった。 顔を上げると、涙に濡れた神崎の目が虚に繋がった所をぼんやり見ていた。 「う、ううっ、ツラ、い」 ぐすっ、と鼻水を啜る。 目尻に溜まった涙を親指で拭いながら姫川は訊いた。 「痛い?ローション足すか」 「いたく、は……ない、けど……」 姫川の問いに自分の頭上に転がるローションに神崎の震える手が伸びる。 「で、ももう、やだ、お、終わりにし、て」 怯えているのか、痙攣なのか。 フルフルと身体を震わせながら、言葉とは真逆にローションを差し出す神崎に姫川が笑う。 「ふっ、どっちだよ」 「つ、つぎ姫川がイっ、たら終わり……」 「これ、昨日3つ空っぽなるまでヤったんだろ?」 パキッとローションの蓋を開ける音に神崎の肩が怯えにビクッと揺れる。 「き、のうみた、いなのは、もう、いいからぁ」 「でもその暴力みてーなセックスされといて 忘れらんねーって俺んちのこのこ来たのはお前だろ」 「エッチしに、来たわけじゃ、ねえもん……」 「でも最終ヤりてーつったのはお前な」 「そ、そーだけど……」 「ここ、中イキ覚えたてでうずいてんだろ?」 ローションを繋がった部分に垂らし笑う姫川が言う。 そこに神崎の手が伸びてきて、繋がったままの姫川の性器をヌチヌチ指でなで回した。 「で、も、オレも、うココ、感覚ない……」 姫川の性器を指で存在を確かめ、繋がった所を撫でると2本の指を割って穴を確かめる。 普段の神崎からは想像もつかない、妖艶な手つき。 姫川は生唾を飲み込んだ。 「すご、お前の、入ってる……」 「うん。お前ん中あったけーよ。気持ちいい」 「おれも……溶けて、るみてーで、だからその……」 「なに」 「力、はいん、ねえから……も、漏らすかも、だし……」 「もうさっき漏らしてたけど」 「えっ、う、うそ……あんなに洗ったのに……」 「あー漏らすってそっち?そっちまだねーけど。 小便は俺に怯えてジョロジョロ漏らしてたけど。 潮みてーに噴いてんのは別として」 「ご、ごめ、」 「てかお前、エッチしに来た訳じゃねえつったよな?」 「え?うん」 「あんなに洗ったのにってのは俺んち来る前だよな?」 「あ…………いや、その」 「5時間目の休み時間、便所長かったよなー?」 「なんで知ってんだよ……まあ、そーだけど……」 「抱かれる準備してから俺んち来てんじゃん」 「だってそん時は付き合ってると思ってたし……」 「エッチ期待してのこのこ来たんだろ?認めろや」 「そ、そーだけど。そんな責めなくてもよくね……?」 「いやだってお前夏目んち行こうとしてたよな? 俺が引き止めなかったらどーしてたのお前。 マジで夏目に迫ってた?」 「それ、は……」 反論が消え目が泳ぐ。 姫川に下手な嘘をついてもこうやって暴かれてしまう。 姫川を見て、目を伏せ、深い瞬きをして。 正直に話すしか無い。観念した神崎はゆっくり頷いた。 「だって昨日から体おかしくて、したくてしたくて しょうがねーんだもん!」 「夏目とした事あんの?」 「ある訳ねーだろ。男は姫川が初めて……」 「フッ、処女開発も中イキ開発も巧いからな~俺」 「お前に変な身体にされた…小便も勝手に出るし…」 「漏されんの慣れてるしコーフンすっから出るもんは出せ」 「うん……」 「それに今更だろ。この部屋」 「ご、め……」 「ははっ、お前が謝んの?いーよ、全部捨てるし。 で、ここお前の部屋にしよ」 「え、いや、いい……」 「なんで?」 「ヤり部屋で使ってたとこだし……」 「あ?お前俺のオナホになりてーんだろ? ヤり部屋なくしてオナホ収納部屋作ってやる つってんのが不満なのかよ?」 冷たく見下ろせば、神崎が慌てて首を振る。 目尻に涙を浮かべて、泣くのを堪えゴクんと喉を鳴らす。 「おい」 「う、うん。休憩、終わり?」 「オナホじゃなくて彼女だろー?」 「え?」 「否定待ちだったんだけど」 「うっ、わ、わかんな……」 「俺の中の神崎一はなぁそんな素直じゃねーのよ。 昨日の俺の躾は忘れろつってんだろ」 「……う、ん」 「まだ俺がお前をからかってっと思ってんの?」 「だって、嘘しかつかな、い」 「しか、てこたねーだろ」 「つき、あってる、自信、な……い」 ポロポロ泣き出す神崎の姿が姫川の興奮を煽る。 我慢出来ず、ユルユル腰を揺り始めた。 「ん……うっ、は、あ」 「好き、神崎、わかる?ナカに俺、いるの」 「は、あっ、う、うん」 「また中に出していい?」 「う……うん、」 「お前さあ、中出しできるから 好きだのなんだの言ってると思ったろ」 「ちが、うのかよ」 「それだけじゃ何回もお前に勃つわけないだろ」 「……うん」 「好きだから勃ってんの。分かったか?」 うなずく神崎の頬を優しく撫で、それから両腕を掴む。 察した神崎が不安気な目を姫川に向けた。 「て、かげん……こ、わいのしな、いで」 「んー?」 無意識に逃げていた腰をぐっと腕を引いて引き寄せる。 もうこれ以上進めない。そこをトントン叩く。 するとビクと怯えて青ざめた神崎が姫川を見上げて訊く。 「う、うう、奥……すん、の?」 「うん。あーけーて」 「そこ、やだ、おねが、そこ、こわい、やだ」 「俺もやだ、ここ入りたい」 涙を浮かべて首を振る神崎にキスを落とす。 チュッ、と音を立てて唇を吸って舌を滑り込ませる。 そうしてしばらく舌を絡め合ってから、 トロンと蕩けた神崎の耳元におねだりをしてみる。 「この奥のとこ、挿れさせて?」 腰に響く色に濡れた声。 こんな関係にならなければ聞く事は無かった。 姫川の甘い声に神崎の胸が跳ねる。ドキドキと心拍数があがって姫川の望む事なら何でもしたいとすら思う。 「最後の1回ならここ挿れたいなー?」 小首をかしげる姫川からサラと落ちる髪が切れ長の目にかかる。造形の整った顔にしばらく見惚れた神崎は、姫川のダメ押しに意志とは裏腹に小さく頷いた。 「ゆ、っくり、なら」 「うんうん、約束する」 言い終わるか終わらないか。 姫川にズルっと体を引きずられ腰高く抱え直される。 神崎の柔らかい股関節はされるがままに大きく脚を拡いた。 「痛かったら言えよ」 バクバクと早打ちする心臓。 埋まっていた姫川の性器が壁を叩くのに合わせて力を入れると、わずかに腸壁が拡がる。 そこに身体深く姫川が侵入してくる。 「うっ、うう~っ苦、し、」 「息しろ」 「はっ、あっ、い、そこ、痛、いい」 感じる場所から更に奥。 身体が自然に姫川を拒んで、腸壁がギュウウと押し返す。 それでも強引にねじこまれる肉に神崎が涙を散らす。 「ひめ、かわ!いた、い!やっぱ、やだあ」 「うるせーな、喚くな。狭すぎて俺もイテーわ」 「いた、かったら、言え、って、ゆっ、たぁ…!」 「うん。やめるとは言ってないよねー」 「う、うええ、も、もう、やだ、いだい、いだ、いぃ」 先に進めず引っかかっていた取っ掛かりで、姫川は神崎の身体に乗しかかり体重をかけてみる。 すると、重みで一気にヌプッと粘膜が蠢き、それまで暴れていた神崎の身体がビクっと大きく痙攣して止まった。 S字を描く腸の奥深く、その総身が埋まる。 「ひっ……!?」 「んっ、神崎、入ったぞ、がんばったな」 「~ッ」 声もなくポロポロ泣く神崎の頭を撫でる。 涙を拭って、キスを落とすと虚な目が姫川を見上げた。 「で、かい……へ、び、が、腹に、い、るみた、い」 「フッ、何だそれ」 「ここ、胃ま、できて、るかんじ」 「大袈裟だろ。で、もう痛くない?」 「う、ん……あ、ったか、い」 圧迫感で苦しさを感じたのもわずか。 姫川がユルユルと動くと、すぐに開発されたその場所は快楽を思い出し神崎に伝え出す。 「ひめ、かわ、ァ、おく、奥、……ぅ」 「なー。マジ根元までずっぽり。気持ちいーんだ?」 「う、ん、い、い……姫川、でいっ、ぱい」 全身を貫かれている感覚が神崎を幸福感で満たして、圧迫感を殺す。 「じんじん、痛いの……なくなってきた……」 「だろ?昨日頑張って開発した所、使わなきゃ損だろ」 神崎の身体が性器の圧に馴染んだ事を確認した姫川は腰を抱え直し、細身の体を揺さぶる。 途端。神崎がのけぞり、ギュゥゥゥと強い締め付けがあって姫川に息を飲ませた。 「~ッひ、め、か!」 「っ!う、すっご……お前ッ」 「あっ、あっー~!」 神崎から高い声が上がって性器が奥の奥まで誘われる。 通常は到達しないS字結腸。 たった一晩で開発されて今日もまだ発情したままにするその場所。後はここを叩き潰せばいい。 「神崎、俺、イくまでやるな」 姫川は神崎が一番弱いであろうその場所に、重めに性器を叩きつけ何度も何度もえぐり挿れた。 「ひっ、い、い゛や、いや、あああ゛ア」 パンッパンパンッパンッ──! 海老反る身体。腕を手綱のように掴み逃げる事を許さない。 とにかく一心不乱に叩きつける。 異常な奥の締め付けが亀頭を刺激して普通のセックスの数倍の性感がある。 「うっうう゛お、く、ばっ、か、ほ、らない、でぇ」 「ふっ、ここ、せま、くて最高……ぎゅうぎゅう締まる」 あっという間に精子が昇り我慢の限界だった。 腕を解放して、腰を持つ。 神崎の奥深く。S字を描く肉壁に亀頭をハメ、固定する。 そこを小刻みにトントントントンと叩くと── 「あ、あっ、あっ、あ、あ~ッ、あ、ア!」 神崎から言葉が消える。 嬌声と、よだれと鼻水がだらだら首を伝う。 足も大きく開いていった。 体が自然に姫川を奥へ奥へと歓迎する。 「う、っあ、あっ、ひめ、か、ぁ、す、きぃ」 「俺も、……神崎おまえ、最高…っ」 姫川の切迫詰まった声。 それが神崎の興奮を煽り性感帯に電気が走る。 許容を超えた刺激に神崎は姫川に抱きつき泣き叫んだ。 「う゛~ッ!あッ、アァ゛ひめ、ひめか、わ、ぁあ」 「ん、キモチ、よくなれてんの……可愛いよ、」 「あ、でる、また……ッでるっ、ごめ、ッ」 ヌチヌチッヌチヌチッ──。 ひと突き毎に潮を噴く。 勢いで顔にかかる。 神崎の真っ赤になった顔面は涙や汗でぐちゃぐちゃで。 「あっ、あーーー!」 せめて、まだ手前の前立腺だけの刺激であれば。 奥ばかり突く性器から逃れようとするも──、 「オラ、まてまて」 取られた腕を手綱にまた奥深くへ性器を固定される。 見下ろす姫川がイタズラに笑い、 お仕置きと言わんばかり、ズンッと強く貫いた。 「ううう、あー~ー!!」 ヘソを中から破られるような感覚があった。 昨日は本当に突き破られてしまうのではないか、 そんな恐怖があった。凶悪なレイプで体も硬直していた。 「あ、あっ、ンンン、イく、の、はや、い、ぃ」 でも想いが伝わっている今は安心感も幸福感もある。 処女でもなく、開発され終わってもいる。 ただただ純度の高い快楽が神崎を真っ白にしていった。 「神崎、可愛い……」 トロけた神崎の切なげな表情に姫川がこぼす。 昨日のセックスには無かった甘い空気。 「すっげえエロい顔してるよ、お前」 「っふ、わか、んなっ」 「俺の事、好きですって顔してる」 「う、うん、す、き、すき、ぃ」 「俺も、マジで、今どんどんお前に落ちてる」 胸が締め付けられ幸福感で絶頂が加速してしまう。 ヌチャヌチャヌチッ。 イったその場所を、また擦られる。 それでまたイってしまう。もう何度目かわからない。 「ひめ、かわぁ、もう、も、おれ、ぇ」 声が嗚咽を出して泣いていた。 辛そうな声。眉根を寄せて酷く泣く神崎に腰を止める。 「どーした?もうがんばれねぇ?」 汗ばんで張り付く神崎の短い前髪を後ろに流し撫でながら優しく姫川が訊く。 「う、ん、ごめ、もう、もうでき、ない、つら、」 「いーよ。謝んなよ」 姫川の大きいものがズロッと深い場所を抜けた。 申し訳なさで、でも気遣って合わせてくれた姫川に気持ちが溢れて見上げる。昨日の姫川とは違う。優しい。 目が合った姫川が笑い抱きしめキスを落としてくれる。 チュクと舌を軽く絡め頭も撫でてくれる。幸せだ。 「…………?」 不意に神崎は違和感を覚えた。 蕩けた頭では深くは追求できなかったが、まあいいかとセックス終わりの充足感に満たされたまま姫川の舌へ絡ませた時だった。 「んんんんっ……!?」 身体を真ん中で裂かれた感覚に神崎が目を見開き悶絶した。 「えっ、え、あっ、あ、あ」 姫川の勃起がまた奥深い所にいる。 膀胱が押し上げられてジョロロと失禁が腹を濡らす。 覆い被さる姫川の胸を押し退ける。 戸惑い、泣きながら自分の性器を掴み失禁を隠す神崎は、奥深くを貫いた姫川を恐る恐る見た。 「なん、なんで……お、おわりじゃ、ねぇの……?」 「は?なんで?」 「あや、まんなくて、いいって……」 「うんうん。謝んなくていーよ」 また腰を突き始める姫川の胸板を慌てて両手で押すもその手はベッドに縫い付けられてしまう。 神崎の心拍がバクバクと痛いほど激しく上がる。 「え、っえ、なに、なに、」 「後は俺が好き勝手やるから」 「も、うやだ、やだ、でき、ない、しん、じゃうう」 「俺イくまでつったじゃん」 真顔で言う姫川に違和感の正体が記憶から引き出された。 相手をより窮地にたたせる為の姫川の癖だ。 穏やかに相手を追い詰めて突き放す。 がんばろーか?できないの? その最終確認の後の姫川は容赦ない。 「こんなの、ふ、ふつ、うのセ、ックスじゃ、な、い」 「褒め上手だねー神崎君は」 「ちが、も、もう、ほ、んとにこわ、れるから」 「死んでもいーよ、ちゃんと綺麗にしといてやるから」 「……なぁ……おれ、のこと、すき、なら、やめて」 「お前こそ俺の女ならテメーの男ぐらい満足させろや」 冷たい視線。 それは昨日の姫川と同じ表情で。 神崎からサァっと血の気が引いていく。 「く、口、口でする、ごめん、なさ、口で、」 「いやいや、神崎クンの調教済まんこ使うから」 錯乱に近い神崎を一蹴した姫川は、 逃げる腰をかかえあげ、横抱きに繋がりを深める。 それから抉るようなピストンで宣言通り神崎の穴を使う。 ズッズチッズッズックチッ──。 「うっ゛あ、あっあっ、~~!!」 「すっげー、中、ぐずぐず」 「ううっ、いぐ、また、ぁ、いっ、あア!!」 神崎の背がのけぞってビクビク全身が跳ねる。 焦点もあっていない斜視な瞳は今にも失神寸前で。 「や、めで、やめでぇ……!」 「あー?キモチーだろーが」 「ふっ、えっ、や、あっ、!あ……ッ~」 姫川は勃起のない神崎の性器をクチクチしごく。 くにくにと親指に力を入れてしごけば、 ピクンと素直な反応が返ってくる。 「あ、あアあ、だめ、さわ、んなぁ」 「中イキ疲れたんだろ?射精もさせてやるから」 「いいっ、なか、ナカ、だけ、もう、イきたぐない゛」 言いながらまた、中がギュウギュウと収縮する。 シーツをきつく握る神崎の手を奪い、 すっかり勃起した自身の性器を握らせる。 その上から一緒にシゴくと、 神崎自ら無意識にゆるゆる手を動かし始めた。 クチュ、クチ、ヌチヌチッ──。 「あ、っ、はっ、あ、アッ、あ、」 神崎のオナニーをじっくり見たいと思う姫川だったが、 短い間隔で起こる中イキの収縮がキツい。 限界が近い。本気で腰を動かし始める。 パンッパンバチュッバンッ──。 「!ううっ、だ、めっ、イぐ、ぅぅ、やだぁ」 神崎の中で自分の気持ちいいように動く。 中イキで酷使されて膨らんだ前立腺にカリ首を擦り付ける。 早いピストンを繰り返したかと思えば、重く貫き奥深くに猛りがハマる。その場所を無茶苦茶に揺り突けば、神崎が海老反って絶叫を上げた。 「あっあ゛ア゛!?ふか、深い゛そこ、やめ、てぇ」 「きも、ち……ッ」 「ひっぐっ、うぇ、ナカいく、のツラいぃ、まだ、ぁ」 「ふっ、うん……も、ちょいかな」 「あっ!い、イ゛ぐ!~ッいった、イっだぁがらぁ゛」 うねうね痙攣し続ける腸壁は、 もう長い時間、中イキを繰り返していた。 蹂躙をやめない勃起を追い出そうと肉がウネウネ蠢く。 それが姫川を悦ばせた。 「はっ、はっ!ア、ちん、ちん!も、ぉぬ゛いでえぇ」 「イったらね」 「し、しんじゃぬい、でぇ!うっううひっぐ、うぇえ」 半狂乱で号泣に近い。 涙を拭う手も震えて限界を姫川に伝える。 それでも姫川は神崎に構わず穴を使う。 グチグチ粘着質な音が神崎を追い詰めていく。 止めてもらえない恐怖が昨日のセックスを想起し神崎の顔が青ざめさせた。 「ふっ、ぐ、うぇぇ、っや、やだぁ、こ、わいぃ」 「泣くなよ、うるせえ」 「うっ、……うっ、ぐ、っふっ、~っひっ、ぐ」 うるさいと言われた神崎は慌てて口を塞ぐ。 けれど恐怖にカタカタ震える手では抑えきれない。 その間にもビクビクと絶頂してはポロポロ涙をこぼす。 「い、イっ、だぁ!も、もお、イぎ、だくない、ぃ」 「前、いじってやるから」 「うっ、うう、はや、はやぐぅ、おわ、って、ぇぇ」 ふと神崎のオナニーが止まっている事に気づいた姫川は、 神崎の性器もシゴきはじめる。 「あっああ!い、いらな、あああ!ッああア~ッ」 「おー。いーね締まる締まる」 「や、ヤダァ、ど、どっぢ、どっ、ちかぁ!」 「んー、最高っ、」 「イぐ、あ、いぐぅぅ」 ナカを激しく突きながら竿も大きく擦る。 すぐにカウパーが溢れ出し、ヌチヌチ派手な音を出す。 前も後ろも姫川の律動に合わせて音が増していく。 ヌチッヌチャグチュグチッ、ヌチャグチッ──。 「このエロい音お前から出てんぞ。よく聞ーとけよ」 トロトロ漏れる透明を手の平で亀頭に塗りたくり、 竿を指の腹でシゴく。 バキバキになった神崎の竿に姫川の指がヌトヌト往復して さらに派手な音と刺激が重なった。 「ひっ……う、うぅ~~ッ、あ゛、ま、たッ!イ、ぐ」 「なー聞いてる?てか聞こえてる?」 「あ、っ、あ……い、っ、ううっ、」 「あ?なに」 「も、もぉ、や、だぁ!つ、つか、れたぁ!」 数秒置きの絶頂に足がガグガク震えだす。 姫川にしがみつく力も無くなりされるがままに揺れた。 「ひっ、やめ、うっぅ、おれ、も、やだ、やだぁ」 「んっすげ、痙攣いーじゃん。ナカも震えてるぜ」 「た、すけて、せめ、て、きゅうけ、した、い」 「あーうん……もうすぐ、休ま、せてやるから」 神崎の肩を掴んで、体重をかけてパンッとえぐり込む。 グズグズにトロけた肉壁をメチメチ音を立てて硬く長い性器が奥深くを抉った。 「うあぁぁ、あっ~ッ!ふ、が、ぃぃ」 神崎から悲鳴が上がる。 それから腹が大きく凹む。 と同時に中が痙攣してギュウウと姫川を締め付けた。 「うっ、うぇええ、う、ああ、あ~ッうっううっ」 頭を振って、涙を散らして、号泣して。 もうまともに酸素も吸えていない。 ヒクヒクと薄い胸板が痙攣する。 そんな神崎が姫川の興奮を煽る。 バンッパンッ──。 容赦なく体重をかけて叩きつけた。 「ひ、め゛が、わぁぁ、あっ゛ァあ、やめ、でぇぇ」 「ん……ッ、は、も、すこし」 「うええ、ッええ、うっ、え、ひっぐうっ、ええ」 ギシギシとベッドが激しく揺れ続ける。 その音を掻き消す声で本気で泣く神崎は性器を叩きつけられる度に嗚咽して涙を撒く。 可哀想。姫川の興奮に刺さる。腰が痺れる性感が流れた。 「神崎、っ、中、出すな、」 「う゛ん……早、ぐぅぅ」 一緒にイけそうだ。 神崎の肩を抱き支え、律動さえも全て神崎に受けさせる。 パンパンッ、バンッ! 杭打ちの如く強く性器を叩きつけると、 神崎の身体が姫川の腕の中で跳ねて仰け反る。 「あっ、あっ、あっ~ッッ!ひめ゛……ッい、イぐ、」 「ん……ッ、っは──かんざ、き……」 ビクビクと身体を震わせて中イキしたばかりの神崎が、朦朧とした目で姫川を見上げて泣く。 「い、っ、たぁ、なか、ぁ゛、あづ、い」 「かわ、い……最高……っ、」 「あっ、アッ、~ッ!ひめ、かわぁ…!」 寸間、ほとんど色の無い精液が神崎の腹に飛んだ。 そのほぼ同時。 ギリギリまで抜いてからバンッと乱暴に突き入れる。 姫川の固い総身がイき震える内壁を擦り上げ奥を突いた。 神崎の身体が跳ねる。 もうこれ以上入らない深い場所。そこで吐精した。 「か、ん……ざきっ」 「ひっ、ん、はぁっ、はっ、はッ……!あ、!」 「っは、や、っば、すげぇイった」 「あっ、あっ、ナカぁ、で、てる……」 「中……わかる?」 「あ、ここに、すご、い……おれ、の、ナカ、」 神崎の震える指が自分の腹を撫でる。 自身の射精が塗り伸ばされているのも気づかず、 蕩けた表情がまるで受精を確認するように力無く撫で、 そしてフッと意識を飛ばした。 「え、おい。神崎」 息をあげたままの姫川が神崎の頭を撫でる。 目を覚ましそうにない。 でもまだ神崎の中で性器は勃起したままだ。 息を整えた姫川は、意識の無い神崎の足を腕に抱え直し、腰を動かし始める。 ダメだ、猿すぎる。 姫川は止められない神崎への興奮を無遠慮に叩きつける。 それこそオナホールのように。尻を掴み乱暴に。 「あっ、は……なにこい、つ、きもち、い」 パンッパン、パチュッ──。 意識の無い神崎は涼しい顔に見えた。 それでも中の締め付けはいい。 「はっ、……ン」 気遣わず、乱暴に。 ただ気持ちのいいように打ちつけた。 神崎の体がガクガク粗雑に揺れる。 グチュ、グチュッグパッ──。 中出しが激しく泡立ち始めた。 少し止まって自分を一生懸命咥え続ける神崎の穴を見る。 ギリギリまで性器を引き抜くと、 ドロッと精子が落ちヒクヒク穴が喪失感にうごめく。 「ん……最高……」 拡ききった場所はまたなんとも煽られ、たまらず姫川は神崎を抱きしめながら奥深くその全身を埋めた。 神崎の体温が心地いい。 気持ちいいように腰を振るとすぐに射精まで来てしまう。 神崎に気遣うこともない。 そのまま3回目の中出しを奥深くへ叩き注いだ。 「あっ、はぁ……はっ、マジイキした……」 ようやく姫川の性器から幾分か堅さが抜ける。 とはいえまだヤれと言われれば余裕で出来そうだ。 ここで初めて姫川は壁掛け時計を見上げた。 日付けももう変わる。 姫川は名残惜しさを残しながら神崎から性器を抜いた。 まだ反った性器がヌポと姿を出した。精子が穴から垂れる。 「ふ……がんばったな、神崎」 散々抜いて抜いてと叫んだ神崎本人とは違い、穴はハメてくれるものを探してパクパクと淫靡にヒクついている。後ろ髪を引かれながらも姫川は脱ぎ捨てた服から携帯を取った。 夜も深い。 それでもワンコールで繋がった先は専属執事。 後始末を任せた姫川はバスルームへ向かった。 * バスローブ姿がバスルームにあった。 ドライヤーに吹かれた長い銀髪が舞う。 ブローまできっちり終えた姫川がスイッチを切ると、絹のような銀髪はサラと肩に落ちた。 それから慣れた手つきで髪を後ろ手に纏め上げ、長い前髪をクリップで挟む。 次に洗面台のトレイに並ぶ美容液のボトルから数滴。 頬を包み込むようにハンドプッシュすれば染み入るように肌に馴染む。それもそのはず、そのどれもが財閥企業の製薬会社が姫川の肌質に合わせて製作したフルオーダー製だ。 最後に、髪をほどいてヘアオイルを手櫛で銀髪に馴染ませるまでが毎晩のルーティンで、香る薔薇の匂いにリラックスするこの時間が姫川は好きだった。 感知式の蛇口に手を差し出し、ヘアオイルを洗い落としながら鏡を見た。 神崎に好きだと言われた顔。 パーツが整っている事は元より、手入れの行き届いた肌は囲いの女も羨む程で。幼少から容姿を褒められる事は当たり前だったと言うのに── 『あと、顔』 神崎のその一言は思い出すだけで姫川の頬を緩ませた。 かなり表情が明るい。童貞を卒業したかのようなキラキラした雰囲気をまとう鏡の中の自分に、姫川は失笑した。 「坊っちゃま」 不意に背後からかかった声。姫川の肩が跳ねた。 「うわ、何。いつからいたんだよ」 「鏡をご覧になってニヤけておられる辺りからですが」 「別にいーだろ」 「否定などしておりませんよ。微笑ましいものでした」 鏡越しに薄い笑みを浮かべる蓮井にため息をこぼした。 「で、思わずニヤけが出る程の俺の初彼女の様子は」 「先ほどお目覚めになりましたが泣いておられます」 「は?え何で。今も?」 「おそらく。怯えておられるようでしたが」 「おいおいおい、そんな奴を独りにすんなよ」 蓮井を押し退けようと肩に手を置いた姫川を蓮井が制す。 「お待ちください」 「あんだよ」 「寝室に移動しました」 「寝室?俺の?」 「はい。神崎様と寝られるのでは?」 「誰も入れるなつってあるだろ。神崎だけはいーけど」 「はい。神崎様だからこそ寝室へお連れしました。 有象無象の女性方は案内致しません。ご安心を」 「有象無象とは言うね。まーもう遊ばないと思うけど」 「それは大変結構かと。では私は清掃に参りますので」 「あー頼む」 「明日も学校ですからね。早く寝ましょうね」 「うるせーよ」 何かありましたらすぐお呼びください、そう頭を下げる蓮井にヒラヒラ手を振りながら早足に寝室へ向かった。 マンションの中でも一番景色のいい方角に位置する寝室は他の誰も入った事の無いプライベートな部屋だ。 それは、マンションの所有権を共にする久我山ですら。 ジャンケンで姫川が勝ち取った日から天岩戸だった。 そこへ蓮井が神崎を入れたと言う事は、既に神崎が特別な相手になったと察しているのだ。どこまでも思い通りに動く蓮井を改めて評価しながら寝室のドアを開けた。 ドア対面の壁一面が窓であるガラスウォールには見渡す限りの広大な夜景が広がっていて、照明がなくとも薄明るい。 部屋の中央に置かれた黒で纏められたベッド。 そのベッドの上、頭からブランケットを被ってへたり込む神崎は景色をぽけっと眺めていた。 もう泣いていない。 姫川は胸を撫で下ろし、ナイトテーブルに置かれた水のボトルを取りキャップを開けた。 パキっと鳴った小さな音に神崎の背が揺れる。 「調子どー?」 ブランケットを深く被り直すだけで反応のない神崎に姫川は首を傾げ、ベッド端に腰掛けた。 「なに?眠い?」 ブランケットに隠れた顔を覗き込む。 いく筋も涙の跡がある神崎の頬を指で拭ってみる。 拭かれるがまま無反応の神崎に姫川は訊く。 「泣いてたって?」 「……」 「飲む?」 「……ある」 神崎がぎゅっと両手で握るボトルはもう残りわずか。 姫川は自分のものを取り替えて、残りを一気に飲み干し空き瓶をテーブルに戻すとベッドに体を転がした。 「寝よーぜ」 「……オレ、まだ眠くない」 「いや知らねーけど。お前そこどけ、布団ふんでっから」 「……じゃあ手ェ貸して」 「ん?」 「腰抜けてる。オレ」 「え、マジ?」 体を起こして神崎を抱き上げる。 首根に腕を回してしがみつく神崎に姫川の胸が鳴った。 ゆるむ頬をポーカーフェイスに装うのもやっとだった。 神崎の下からバサっと掛け布団を引き抜いて、ついでに神崎が頭から被ったブランケットも取り払う。 「お、それ着心地いーだろ」 白いベロア生地のナイトウェア。蓮井が着せたのだろう。 客用ではなく、自分の普段使いを身につけている神崎に姫川の胸が鳴る。 迷彩にハマってからあまり身につけなくなった白は、金髪を明るく華やかに見せ、石矢魔時代を想起させた。 「似合ってる。やるよソレ」 「……この服お前の匂いする」 丈余りの袖をスンスン嗅ぐ神崎に、姫川はたまらず神崎の肩を引き寄せ強く抱きしめる。全身から石鹸が香った。 「分かってやってんの、お前」 「あ?何が?嗅ぐの?」 「いやもう何でもでもいーわ」 神崎が姫川の気を引く為に狙ってやっていたとしても、その行動が可愛い事に変わりは無い。 姫川は神崎の首筋に顔を埋め、スンスン鼻を鳴らした。 神崎の匂いは残念ながら石鹸の香りで分からなかった。 「風呂自分で入ったの?お前」 「いや、起きたらもうこーだった」 「いつ起きた?」 「10分前くれーかな。能面執事いてビビった」 「ふっ……能面。お前の名付け、割と的確だよな」 「フランスパンとかな」 神崎は小さく笑って姫川の肩に頭を乗せる。 それから姫川の首を嗅いだ。 「この服も部屋もお前の香水みてーな匂い強くね」 「あー加湿器がアロマ出してるからな」 「……お前、ほんとにここで毎日寝てんだな」 「他人入れたのは初めてだわ。久我山もねーのに」 「誰だよ」 「あー許嫁の」 「ああ……例の嫁か。いーな」 「いいな?」 「嫁さしおいてお前の服着て、お前の隣で寝るの……」 「ん?は?え、だからなんで泣いてんの?」 肩がじんわり濡れる。 気づいた姫川が神崎を引き剥がすと、神崎の真っ赤な目からはポロポロ涙がとめど無い。 「神崎君てば俺の女になった実感湧いて泣いちゃった?」 「うん」 「え、マジかよ。お前俺にガチすぎない?」 「ずっと好きだっ、たから……でも……やめとく……」 「何を」 「つ、きあう、の」 蓮井から聞いた通り情緒が乱れているようだ。 でもきっと今だけ。 寝れば明日には落ち着いているだろう。 姫川はそう考えをまとめると、神崎の背中をポンポンと宥めてからベッドに沈んだ。 「マジかー。残念だわ。じゃあもう寝ろ」 「いい、帰る……」 「はあ?なに、ダルいって」 寝ろよ、と腕を引くも払われる。 苛立った姫川はため息を付き神崎に背を向け布団を被った。 取り合わなければ諦めて寝るだろう。そう思いきや── 「あ、オレだけど……今動けるやついるか」 「おい」 「いや、1人でいい。車出してくれりゃいーだけ」 「おいって」 「おー頼む」 姫川が体を起こし、神崎から携帯を奪う頃には通話は途切れていた。『通話終了』の文字に舌打ちした。 姫川は苛立ちに髪をかきあげ神崎の胸に携帯を突き返す。 「掛け直せ。で、車断れ」 「やだ」 「めんどくせーよ、何なの?お前」 「……帰る」 声を殺したまま泣く神崎はただ首を振って、つきかえされた携帯をぎゅうと握った。帰りたいと泣く神崎を見据える姫川は大きくため息をついて座り直す。 「悪かった。聞くから」 面倒なのも本心だが、神崎が理由もわからず泣いている事も胸に刺さる。帰ってほしく無い。 隣で寝て欲しい。本当は抱きしめて寝たい。 「泣くなよ」 神崎の頬を包み込んで親指で涙を拭う。 されるがままの神崎にとりあえずはほっと胸を撫で下ろす。 「久我山の名前出したから?」 「ちがう」 「あーもしかして蓮井?世話させたの怒ってる?」 「……ちがう」 蓮井を呼んだ事を怒られるのかと思ったが、そこは自分の家にも世話係がいるせいかすんなり受け入れている。じゃあ蓮井に何か言われたのかと訊けばそれも違うと首を振る。姫川は長い前髪をかきあげながら頭をかいた。 「俺はお前と付き合いたい。お前は違うのかよ?」 イラ立ちから神崎を睨み向けながら言う。 神崎は困り顔のまま首を振った。 「もうわかんね……」 「俺のセックス下手だった?」 「いや……そこ、……じゃねえかも。たぶん」 「多分?」 「お前、上手いとは思うけど、……怖いのしてくる」 「奥入れたやつ?」 「うん、あれ、オレやだつったのに……」 落ち着きを取り戻しつつあった神崎からまた涙がポロポロ溢れ出す。姫川が肩を撫でると大袈裟にビクついた。 「漏らすのがやなんだろ?」 「イくの、おわんないのもやだし……あとこわい……」 「ずっと言ってっけど怖いって何?」 「ひ、めかわが……」 「今日は酷い事してなくね?」 「そーじゃない……」 「はぁ?なに、めんど」 姫川のため息に神崎は膝に顔を埋めて泣いてしまう。 声は殺していてもヒクヒク跳ねる背中が姫川の罪悪感を刺した。背中を撫でてなるべく穏やかに神崎に問いかける。 「悪い。マジで聞くから俺にわかるよーに教えてくれ」 「……き、昨日は、わかる。めちゃくちゃしてきたの。 つきあってない時だし……クスリあったし」 「うんうん」 「でも、今日も失神するまでヤるとか普通じゃねえ」 「うんごめん、やりすぎたな」 「好きな奴にそんな事しねーから、だから……」 「ん?いやするだろ」 「え……」 「つっても好きな奴ってお前が初めてだけど」 顔を上げた神崎の赤くなった頬を撫でる。 「あー分かった。あれだろ。お前途中言ってたやつ」 「……なに」 「オレの事すきならやめて~みたいなの。 それを俺が無視したのが嫌、ってか 『オレの事好きじゃ無い』って変換したんだな?」 「………ふっ、うぅ、そ、う……だ、とおも、う」 どうやら神崎本人が言語化出来なかった要因をピンポイントで刺せたようだった。ポロポロ涙が止まらなくなった神崎に姫川が「枯れるぞ」と水を飲ませながら背を撫でる。 「お前あの一瞬、顔凍り付いてたしな。 好きだけどやめらんなかったんだよ、マジで」 「……こわ、かっ、た」 「回数やりゃトラウマなくなるって」 「ちが、う、また……お前がしらば、っくれる、から」 「いや、ねーって。好きだし付き合うつってんじゃん。 信用なさすぎねえ俺?」 「あるわけ……ねーだ、ろ。すぐ……うら、ぎる」 「うーん。何でそんな不安なの」 「だ、って女、じゃねーし……オレ」 「神崎、こっちみろ」 腕で涙を拭う神崎の手首を掴む。 それから頬を包んで上げさせて唇を重ねる。 チュッチュと角度を変え、それから舌を入れる。 逃げる舌を捕まえて絡ませると、おずおず神崎も応じる。 次第にトロと神崎の目が緩んでいく。 「んっ、ん……」 神崎の息が上がり出した所で姫川は口を離した。 物足りなげな神崎の蕩けた目の色気に姫川の胸が鳴る。 「怖がってんのに無理なセックス続けたのは悪かった。 お前が好きすぎて止まんなかったんだよ」 「……好、きなら、いたわるもんじゃねーの」 「あ?この俺がここまで折れてんのに」 髪を掻き上げる姫川は至極気だるげな目で神崎を笑った。 「神経質で女みてーなァお前。いーよ別れる?」 「ええ……なんなのお前。やっぱヤりたかっただけじゃん」 「ちげーって。性格なの、いじめたくなるの。 つーかお前は俺のどこが好きなの?」 「……自己中で偉そうでコーカツでクズなとこ……」 「だろ。諦めろよ」 さもどうでも良さげに気だるく言い切る姫川を神崎はぽかんと見つめて、しばらくして呆れ顔でため息をついた。 そうだった。 卑劣であったり傲慢なのに、それを自信満々に相手へ押し付け曲げようとしない。 確かに姫川に大切に労られ優しくされて、蝶よ花よと可愛がられたいかといえばそうではないし、それは好きになった姫川では無い。 腑に落ちたのか、姫川に言いくるめられてしまったのか。 でもその口の巧さも惚れた所だ。 神崎は肩から流れる銀髪に手を伸ばして指ですいてみた。 サラと手入れの行き届いた髪を指に絡めながら呟く。 「あと顔も好き」 「うんうん。俺もお前の泣き顔でイったわ」 「中で出されんの幸せだった」 「いやマジ、キメセクも含めて過去イチ気持ちよかった。 好きな奴とのセックス最高ってこれかーって」 「次も死ぬまで無茶苦茶ヤられて能面に世話されんの?」 「そーじゃん?」 「じゃあ別れる」 「そっか。じゃあ明日はピアス買いに行くか」 「別れるつってんだろ」 「ペアリングにする?」 「………どっちもくれ」 「うんうん。素直でいーね」 「もーいーよ。お前に口じゃ勝てるわけなかったわ」 「力でも勝てねーだろ」 「えーいや、そこは今度ガチろうぜ?」 「テメーの女殴るほどクズじゃねーから俺」 「言ってろ」 「あとすぐ泣くしなお前」 「いやこれはメンタルお前にぶっ壊されてるだけだし」 「ヨーグルッチで治んだろ」 「そーかも。買ってこい」 「明日な。常備しとくわ」 「うん」 どうやら溜飲の下がったらしい神崎に姫川は小さく笑う。 それから神崎の手に指を絡ませ、握り、キスをした。 ちゅっちゅと唇を啄みゆっくりベッドに押し倒していく。 「お前が本気で嫌がってるかどーか、分かってっから」 「いや……本気でやめてほしかったけど……」 「まだあれは本気じゃねーから」 「なんでお前がオレの本気を決めるんだよ」 「お前に詳しーから俺。中学の頃から狙ってたしな」 「手駒にだろ」 「うん。弱みとか調べてた時期あったなー」 「あーなんか、お前ん所の奴がしつけー時期あったな。 毎度半殺しにすんのダルかった」 「情報いっこ手に入れんのに苦労してたのが今や テメーでテメーを差し出してくんだもん。感動だわ」 「で、差し出されたもん毎回めちゃくちゃに出来ると」 「うん。征服感ヤバすぎてもうお前以外イけないかも」 「ウソつけ」 「いやもうマジで好き」 力強く抱きしめ、首筋にちゅうと吸い付いてみる。 神崎から色のある声がこぼれて、それがまた腰に響く。 目を泳がせた神崎が姫川を見上げて訊いた。 「ん……ヤんの?」 「ダメ?」 「つーかアイツいるだろ、能面。人がいんの無理」 「能面はセックスぐらいで動じねーから」 もう一度したい。 神崎への発情が止まらない。 きっともう昨日からそうだったんだろう。 神崎に魅入られて、取り込まれたのは自分の方。 気付けば神崎の上でマウントを取りキスを繰り返している。 腕も舌を絡めて相手をしてくれる神崎に姫川の胸が高鳴る。とても寝られそうにない。 そんな姫川の興奮に染まった目に神崎も頬を染めた。 「姫川……オレ、まだがんばれる」 「お前、マジで……。そういうとこ」 結局、神崎は人の扱いが上手いのだ。 長く側にいればいるほど神崎に心酔してしまう。 「えオレ……なんか、ダメだった……?」 この不安気な表情も俺の前でしか見せないはず。 そう思わせる神崎の手練手管なのかもしれない。 勝手に思考が巡ってしまう。 いつもは納得出来る所まで考え込む姫川だったが、 「あーもうどーでもいー。ヤらせて」 思考を放棄して興奮を取った。 「姫川……」 それは神崎にも十分すぎるほど伝わった。 いつも姫川がまとっている余裕が無い。 顔も赤い。自分を見る目も獣のよう。 息も上がって、表情も切ない。 自分がそうさせている確信に神崎の胸が跳ねた。 「いくらクスリでも男に発情したり、 しかも2日続けてなんて効果ねーんだよ」 「ん?」 「最初っから俺はお前に落ちてたんだな」 「あ、え、へへ……」 神崎が照れて柔和に笑う。 初めて見る神崎の表情と仕草は姫川の興奮を煽り続け、神崎が着ている自分の服も剥ぎ取るように脱がせた。 「姫川、そんな急がなくてもオレ逃げねーから」 「俺が、いますぐ、お前にいれたいの」 「あ、そ、そう」 メンチを切って言われた神崎はあまりの姫川のゆとりのなさを笑った。 姫川の手を抑えて、自分から下着ごと服を下ろす。 下着から足を引き抜くと、それすらも姫川を煽情したようで姫川の喉仏が上下する。 足だけでそこまで新鮮に興奮してくれるとは。 姫川の興奮に、自分の興奮も上がっていく。 女であれば十分濡れて、すぐにでもという興奮はあったが、 穴に手を這わしてもその気配はない。 ローション無しで姫川の大きさは入らない。 「姫川、あっちの部屋からローション取ってき──」 そう神崎が言いかけた時。 ノックと同時、蓮井が姿を見せた。 「神崎様、お迎えの方がロビーにお見えです」 「えー。てかお前ノック意味ねーだろ。返事待てよ」 姫川に組み敷かれたままの神崎が固まったのは一瞬。 慌ててブランケットを手繰り寄せ身体を隠す神崎に蓮井が追い打ちをかける。 「あと、ローションを持って参りました」 トン、とナイトテーブルにローションが置かれる。 頬を瞬時に赤く染め、頭からブランケットを被ってしまう神崎に姫川は「あーあ」と嘆いた。 「神崎さー。だから電話掛け直せつったろー?」 「神崎様、お待ち頂くようでしたら お迎えの方々へはラウンジを案内致しますが」 「……帰る」 「は?ヤらせろよ」 「能面がいるの無理つったろ!」 「私の事でしたら空気とお考えください」 「そーだぞ、俺の女になるならフツーだからこれ。 つーかお前の体も蓮井が洗ってるから今更だろ」 姫川がブランケットを剥ぎ取ろうとするも、強い力が許さない。視線で蓮井に合図すると──。 「失礼します。神崎様」 白い手袋がブランケットに潜り、素早く神崎の両腕を掴む。 その隙に姫川がブランケットを剥ぎ取った。 「テメッさすがに人前じゃしねえ!離せ!殺すぞ」 「お、いーね。やっぱ神崎といえばそーゆー目だわ。 イキり倒してるお前をヤってこそだよなー」 「うるせえ帰る!」 「蓮井。このまま神崎押さえといてくれ。10分で済ます」 「かしこまりました。 神崎様のお迎えの方の対応は別の者が致します」 「は?え、なに」 神崎の両手首を頭の上でまとめる蓮井は淡々とインカムで連絡を指示する。 涼しい顔であるのに神崎が力を入れてもビクともしない。 冗談だよな?と姫川を見つめれば、ニコと似合わない笑顔を浮かべた姫川は神崎の足を割開き指を秘部に這わせた。 神崎の背筋にゾクゾク刺激が走る。 「あっ!」 思わず出た声も蓮井に拘束された手では抑える事は出来ず、青ざめた神崎が蓮井を見上げる 「な、なあアンタ大人だろ……マジでコイツ止めろって!」 「神崎、蓮井は空気だと思えって」 「ま、まっ……て、泊まる!泊まるから!」 「ん?」 「ホントは、オレも迎え呼んだの失敗だと思ってたし」 「テキトーに言ってね?」 「つーか10分とか、やだ……ながく、してえもん」 上目で見上げる神崎に姫川の脳が揺れた。 可愛い。もう一生帰って欲しくない。緩む顔を必死でポーカーフェイスで隠すも、目の前で生暖かい笑みを浮かべる蓮井の前では無意味だった。 「ではお泊まりになられるという事で承りました。 お家には神崎様からの連絡があると安心なさるかと」 「……オレのケータイどこ」 蓮井から解放された神崎は体を起こし、差し出された携帯を受け取る。姫川以上に読めない表情を浮かべる蓮井を不気味に感じた神崎は姫川に擦り寄って姫川を背もたれにブランケットを体に巻いて電話をかける。 「あーオレ。やっぱ今日帰んねぇ。うん。そー。 姫川が泊めてくれるつってるからやっぱ泊まる。 だからァ昨日のは関係ねえって。姫川は大丈夫だから。 え?いやそれはそーだけど……はぁ?うん、うん……」 話す神崎を横目に蓮井は『作戦成功です』と小さくガッツポーズを見せた。一連の流れが泊まりを引き出す誘導だと察した姫川は小さく笑う。 「あー執事のおっさん。うちの者帰ったわ」 「ご伝言ありがとうございました。 ではゆっくりお休みください」 「……お宅の坊ちゃんが休ませてくれるならな」 「ふふ、お二人とも、早く寝ましょうね」 蓮井が去り、ドアが閉まるとほぼ同時。 神崎を押し倒す姫川の髪が、神崎の首をくすぐった。 「さてと」 「ん」 「朝までエッチしよーか神崎くん」 「朝、校門で親父と待ち合わせたからそれまでな」 「はー?お前んち過保護なー」 「マワされたとでも思ってんじゃね。ほぼ合ってるけど」 「いーね。人数そろえてマワすか」 「は?オレを?」 「うん。多分お前それでもオレの事好きそーだし」 「言ってろ」 呆れる神崎の首をズリと舐める。 チェーンピアスを人差し指でよけながら唇を撫で、 小さく開いた唇にキスを落として口淫に耽る。 「俺と付き合ったからには、いっぱい泣かせてやる」 姫川が神崎を見下ろし言う。 その表情は興奮に染まり、ただただ神崎しか視界にない。 神崎は生唾を飲んだ。 言葉で感情を伝えられるより何より分かりやすい。 姫川がオレに興奮してる。 姫川がオレに落ちた。 泣かしてやると言う宣言も姫川らしい。 「それクズすぎて好き」 「ふ、だろ?大事に泣かしてやる」
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