提灯に釣鐘
敏感だった感覚が衰え、まるで宇宙から地球に戻ってきたかの様なズンとした重力を感じた。 普段使っていないゲストルーム。 どこに時計があるのか分からなかった。 ブラインドの隙間から差し込む光は無い。 夜か朝かも分からなかったが、 視界が冴えているのはクスリが抜けていないからだった。 姫川は眩む頭を抑え、状況を見下ろし驚きに目を丸めた。 セックスの最中だったからでは無い。 その相手が神崎だったからだ。 組み敷いている神崎をただただ呆然と見下ろした。 かろうじて呼吸をしている。 ぐったり横たわる一糸纏わぬ身体は身じろぎしない。 力を使い果たしたようで、虚な焦点の合わない目は繋がった部分をぼんやり眺めているだけ。 頬には幾筋も涙の乾いた跡が残っている。 首筋には血の跡すらあった。 そこで初めてシーツに散る血の跡に気付いた。 身体もアザが多い。 両手首も擦り切れ、内出血で赤黒く変色している。 右手首にはその要因であろう手錠が垂れていた。 キングサイズの広いベッドだ。 自分達より先にも充分な広さがある。 恐る恐る視線をベッド端へ流せば、スタンバトンと一緒に転がるバイブや道具の数々。 それから錠剤の殻と精液が溜まる無数のコンドーム。 そんなベッドの惨状を見るに、合意のセックスで無い事は明らかで姫川の頭痛を深くさせた。 クスリに流されて覚えの無い女遊びをする事は姫川にとって日常茶飯事だった。 相手が女で、かつ普通のセックスであれば『またか』程度で続きを楽しむ所だったが、まったく覚えの無い状況に脳裏には疑問符が尽きない。 いくら覚えが無くとも男、それも神崎に手を出した自分を疑ったが、そこかしこにある使い捨てられたコンドームが確かに神崎に興奮していた事を証明していた。 姫川はうんざりと目を反らした。 神崎がいつものように学校終わりに家に来て、それからどういう流れでこうなったのか。 意識が混濁した今は分からない。 どのぐらいの時間こうしていたのかすらも。 いつも明け方に聞く鳥の声が聞こえない。 だとすると夜ではあったが、今までクスリの効果が数時間で切れた事は無かった。 だとしたら、ああ……まさか。 姫川は二度目の夜が差し掛かっているのだと悟った。 クスリが薄れて痛覚が戻り始めると、セックスし続けたろう性器がわずかに痛む。 勃起したままではあったが姫川は腰を引いた。 (うげ……ナマかよ……最悪) 神崎の体内から半分抜いた性器にコンドームは無い。 中で混ぜられた精液がクリーム状に白くネットリ性器に絡んでいる様は姫川に頭を抱えさせた。 「う、あ……」 体内を埋めていた圧迫感が消えた神崎から声が漏れる。 憔悴しきり生気も無い。 それでも逃れようと姫川の胸を押し身じろぐ。 このまま終わろうと思っていた姫川だったが、初めて聞く神崎の上ずった声に悪戯心が沸いた。 クスリの効果も完全に切れたわけでは無かった。 クスリに抗う気を捨てれば興奮の成すがままになる。 どうせ殴られ、最悪殺されるかもしれないのだ。 ここまで来たらいつも通り楽しんでもいいだろう。 姫川は神崎の震える足を腕に抱え、性器をヌプと根元まで埋め直し訊いた。 「うぐ……っ、うぅ」 「抜いてほしい?」 「…………え……?」 それは神崎にとって久しぶりに聞くまともな姫川の言葉だった。これまで動物の交尾さながら淡々と突き入れられ続け、姫川が果てると道具で休み無く身体を遊ばれ嬲られる。 そして姫川が回復すればまた無遠慮に使われた。 それが丸1日続いた。 神崎に出来る事は姫川が正気に戻るまでを耐えるのみ。 何度か気絶していた事もあった。 それでも少しすると腹の中で蠢く性器の圧迫感やスタンバトンの電流で強制的に起こされる。 ようやくそんな拷問が終わる。 神崎は安堵して力なく姫川の問いに何度もうなずいた。 うなずく度に涙が流れた。 「もしかしてもう声出ない?」 神崎の髪を鷲掴み、上向かせ訊く。 喉はかなり前から焼けるように痛かった。 イマラチオやコンドームの中の精子を飲まされて何度も嘔吐して喉が傷ついた為でもあるが、何より神崎が絶叫のような悲鳴を長くあげていた事を姫川は記憶していない。 神崎はゆっくり瞬きをして意思表示をした。 『もうやめてくれ』と訴える神崎の悲哀の目はけれど悪い事に姫川の嗜虐心を煽ってしまった。 見た事の無い弱り方をする神崎に姫川の喉が鳴った。 「あ、抜けた」 「…………~ッ」 体を動かした拍子に性器が神崎から抜ける。 反射で逃げた神崎の腰を、姫川の節くれだった長い指が捕まえると大げさにビクと跳ねた。 長時間のセックスで過敏になったからでもあったが、それよりも恐怖で体が萎縮してしまう。 そんな拒絶もかまわず、姫川は神崎の膝裏に腕を掛け尻を上向かせた。体の柔らかさが災いして、姫川が力をいれるがままに大きく開脚させられてしまう。 「うっわー穴閉じねーし。中ヒクついてんのえっろ」 あられもない格好で秘部を覗き込まれる恥辱に神崎は目を背けた。拡張され続けた場所はぽっかり穴が拡き、薄桃の肉がヌメ光りヒクヒクと収縮する。 「う、う……も、やえ、て」 掠れてざらついた震える声が制止を求めた。 逃れようともがき力を入れると直腸に溜まった姫川の精液が穴から泡だって噴いてしまう。漏らしたかのような感覚に神崎は顔を青くさせて体を硬直させた。 「う、うぅ……」 体内から流れ出る液体の感触。 尻を伝い流れる液体は姫川の精液なのか。 それとも自分の血液なのか。それとも……。 恐る恐る穴に伸ばした手は姫川に弾き落とされた。 「うわ、すっげぇ出る。ヌルヌルすぎると思ったわ」 「ひっ……」 神崎とは反対に、弾んだ声の姫川は嬉々として神崎のヒクつく穴に指2本を無遠慮に埋め、グニグニ左右に拡げた。 覗き込めば、収縮する肉が蠢き視覚に興奮を与える。 「すげー。奥まで脈打ってんの見えてんぞ」 「うぅ……こ、わい、……な、に、」 青い顔と怯えた目が姫川を見上げる。 体内をじっとり見られる恥辱に加えてこれまでとは明らかに違う姫川の行動。本能だけを追ってくれるならまだいい。 理性を取り戻した姫川からは何をされるか分からない。 姫川の嗜虐を受け続けてきた神崎は恐怖に息を飲んだ。 「も、うやだ、……か、えり、たい、こわ、い……」 掠れた声を振り絞り姫川にそう伝えるも、姫川は喉で笑い更に足を左右に割り神崎に羞恥を追わせた。 「お前の穴、ちゃんとまんこに仕上がってんじゃん」 「っ、うう、や、め……もう、痛い、の、つら、い」 「知るかよ見せろ」 女とは違う。けれど女のように蕩けた性器に変わった穴。 それも神崎の穴だ、興味は尽きない。 入り口にある精液の塊を指で抉り出してみた。 「うぅっ……」 かき出された精液がボタと落ちる。直腸の奥深くに残る精液にも姫川の長い指が伸びて、くの字に折れては抉り出る。 「ンっあ、ぁっや、だって……~ッ!」 体内で遠慮なく動き回る指に神崎が首を振った。 痛みはもうない。けれど蠢く姫川の指は身体が震えてしまう程怖い。涙が散った。 「うぅ、うう……」 指の腹が肉ヒダを擦り前立腺をかすめた。 長い挿入で強引に開発させられた性感帯への刺激。 一瞬走った性感に神崎は唇を噛んで顔を反らした。 「うわ、まだ出てくんぞ」 姫川の指と一緒に腸道を精液が滑り落ちていく。 後から後から掻きずり出される精液に神崎は喉で声を弾けさせた。声を出して姫川の興奮を煽る事はなんとしてもしたくなかった。 「なんで声我慢すんの?声出る事は出るんだろ?」 そんな神崎の思惑に気づいた姫川がイタズラに笑む。 神崎を見下ろしながら薄い腹に手を乗せ体重をかけた。 「はい、腹式呼キュー」 「うぐっ……ぅうう、痛、姫、川っ」 腹の上に乗るガシりとした姫川の太い腕に弱弱しい神崎の指が絡まる。どかそうともビクともしない。 襲う痛みと苦しさに神崎は押しどける事を諦め、 「痛い、苦しい」と情に訴え何度も姫川の腕を叩く。 けれど、ペチンペチンと乾いた音が鳴るだけで、無常にも腕は深く沈んでいった。 「やめ、やめ、て、……ッいだ、い゛ぃ」 神崎のくぐもった声と共に、腸に溜め込まれた精液が姫川の体重に押し出されていく。ぐぱぐぱと空気と一緒に泡を作って流れ落ち、尻を伝って水溜りを作った。 広がる強い臭いに神崎はきつく目を閉じた。 「おー色んなもんが出る出る」 「うっ……うぅ」 「すげぇ中出したんだな俺。我ながら引くわ」 呆れて笑う姫川は、ベッドサイドに落ちていたティッシュケースを拾い上げ、乱雑に重ね取ると体液に汚れた神崎の穴を拭った。 「ん……っ」 ティッシュ越しの親指の力に神崎の体が震える。 ぬる付いて気持ちが悪かったその場所が空気に触れる。 セックスの終わりの予感に安堵が訪れた。 と、同時に疲れと睡魔が襲ってくる。 限界に近いまぶたの重みに任せ、意識を手放そうとする神崎の頬にバン、と強い衝撃が走った。 次いで火のように痛む頬。神崎の目が涙が滲む。 「な、に……す」 恐る恐る見上げると、無表情で冷たく視線を落とす姫川がさらにもう一度平手を振り下ろす瞬間だった。 反対の頬にも衝撃が走り涙が散る。 「ッうっ、ぐ、痛っ……」 「寝るなよ、咥えろ」 「も、う寝た、い、つ、らい……」 殴られた痛みと恐怖。それから姫川の氷の様な目に、意思には関係なく涙がただただ零れた。ポロポロと大粒の涙が忙しなく溢れて後頭部へ流れていく。 姫川への恐怖で心臓がバクバクと早鐘を鳴らしていた。 「はい、あーん」 「うぅ……」 姫川は頬を赤く腫らし泣く神崎の胸元にまたがって神崎の口元へ性器を宛がい腰をついた。 神崎の唇が姫川の亀頭で押されて開く。 目の前に突きつけられる性器は同性であるがゆえ見慣れてはいたが、勃起し体液にぬめ光り血管の浮く性器はまったく別のもののようで、神崎の心に冷たいものを走らせた。 それでも植え付けられた恐怖心は震えながらも口を開かせる。亀頭を舌に乗せ吸ってみる。 上目に姫川を見上げれば、冷えた目が見下ろしていた。 「何それ。掃除しろって」 「……ふっ、う、ぅ」 「お前のまんこ綺麗にしてやったんだから、  俺のも喉までつっこんで掃除しろよ」 「ンぐっ、ぅ」 ぐいぐいと性器で頬を押され催促される。 喉まで来ていないという事は散々やらされたイマラチオとは違うらしい。掃除というからには舐めればいいのだろうか……。どうしていいか分からないまま、とりあえず神崎は口の中の肉の形に沿って歯を立てないよう一生懸命舌を這わせた。 「下手だなー。早く終わりたかったらもっと工夫しろよ」 「ンッう、う」 よかった、これで終わりなんだ……。 神崎の目に幾分か生気が戻る。 早く終りたい、寝たい、風呂に入りたい。 その一心でカリ首に舌を這わせ、亀頭はパクと咥えて唾液を絡めて形に沿って舐める。 滲んできた尿道のカウパー液は口をすぼめて吸った。 不安定に動いてしまう性器を両手で支えると、手錠が揺れて傷ついた手首を擦る。痛みがあったが今は姫川の命令を先にこなさなければまた殴られる。痛みと呼吸の苦しさに涙を流しながら神崎は必死に舌を這わせ続けた。 「おー最高。あの神崎が泣きながらフェラってんの」 萎え掛けていた性器がまた角度をつけはじめる。 口の中でまた硬さと大きさを取り戻していく性器に神崎は悲痛に眉根を寄せ、恐怖で鼻を啜った。 「何?そろそろガチ泣きしちゃう?」 咥えたまま、スンスン鼻をすすらせ肩を震わせる神崎の頭を姫川は優しく撫でる。 「大丈夫。これで終わらせてやっから」 姫川の言葉に神崎の表情がわずかに明るくなった。 「フェラに夢中な所、ちょっとごめんねー」 姫川が腰を上げた。 抜けた性器に神崎がどうしたのかと、見上げる前に姫川の両手が神崎の頭をがっちりと掴んだ。顔を上向きに枕に押し付けられ、神崎の口が苦しさに大きく開く。 「オェ゛……ッ!エ、ウうう!」 喉に杭を打ち込まれたような衝撃を味わった。 奥まで届く姫川の太長い性器がガポガポと音を立て狭い喉口を往復する。 「んん゛んぐぅー!ン゛ンンぅ゛!」 あまりの苦しさに大きく見開かれた目から涙があふれ、鼻水も零れた。バタバタ暴れる神崎の足がシーツを蹴る。 息が出来ない上に、喉を叩く凶器に何度も嗚咽した。 逃げようにも強い力で頭を固定され、なす術なく涙を撒く。 「あー……イケそっ、」 胃袋に叩きこむ勢いで射精があった。 食道伝って精液の塊がずり落ちていく感触。 「はっ……なんとかイけたわ」 「がっ、げほっげほっ、う、ぉ゛えっ」 「おいしかった?」 「はっは、はぁ、はぁっ、あっ、は、ぁっ」 乱れたシーツの上、神崎が体を丸めて激しく咳き込んでベッドに沈む。喉にへばりつく精液が吐き気を催し続けるがもう吐く力もなければ、すでに吐き尽くして吐くものも無い。 なにより限界だった。もう指一本動かせそうにない。 息も絶え絶えのまま、ただ虚に目を開け放心する事しかできなかった。 「聞いてんだろ?おいしかった?」 神崎の短い髪を掴んで上向かせると、頬を平手でパンッと叩いて訊いた。 限界を超えた神崎にもう答える力はなかった。 殴り叩いても無反応な神崎に姫川は舌を打ち、既に赤く腫れ上がった頬を今度は拳で手加減無く殴る。 ゴキンと骨のぶつかる鈍い音。衝撃で神崎の体が跳ねた。 殴られた事で起こした脳震盪が意識の混濁が深まらせ、恐怖に震え続ける神崎から涙が一塊で零れ落ちる。 声無く涙する神崎は姫川の自虐心を満たし続けた。 「妊娠しちゃうかなー?奥まで精子入り込んでんぞ」 「う……あ……」 ツプ、と身体に滑り込む指を神崎は感じた。 もはや今自分がどこにいるかすら定かで無かったが、姫川の2本の長い指が直腸に絡み残った精液をかき出すように蠢いている。 さっきので終わりにしてくれるんじゃなかったのかよ……。 なんて抗議を起こしたい所だったが、声を出す力もない。 荒く呼吸を繰り返す神崎は姫川に腸壁を指で弄ばれながら終わりを願って天井を見上げた。 「なぁ神崎。このバイブ入んの?お前」 姫川の問い掛けに弱弱しい視線を向ける。 視界に姫川が手に持つバイブが映った。 先端だけでも痛みに絶叫した規格外のバイブだった。 「前にAV嬢と遊んだ時ハメた最高記録つって  持ってきてな。俺んち置いてったんだよコレ」 こどもの腕程もあるそれは、無理に入れててもすぐに出てしまうほど。 神崎が痛みで、失禁して失神するまで散々試した。 だから姫川も諦めて投げ捨てたのだったがそれを覚えていない姫川は青ざめる神崎をよそに、拡きっぱなしになっている神崎の穴へあてがった。 「はい、んな、無理、そ、れほんと、に痛……  いや、やめ……やだ、やだ、こわ、いぃ」 掠れた声で必死に静止を願った。 もう後ずさる事も首を振ることも出来ない。 ベッドの上で姫川に脚を開かされたまま恐怖に泣くしか出来ない。姫川が一瞬手を止めて、それから優しく笑んだ。 「お前はクスリ使ってねーんだろ?」 「?う、ん」 「いやーよく1人で俺の相手したな。がんばったよお前」 同時、言い知れない圧迫感が神崎の腸道を埋め尽くした。 内臓が質量に押し上げられ込みあがる吐き気。 「……ッ!?ぐ、……ッア゛ぎ」 麻痺したはずの身体が裂けるように痛む。 あのバイブが埋まってしまったのは明らかだった。 どうあっても入りそうになかったサイズのものが埋まるまでに肛門が拡がってしまった事への恐怖と鋭い痛み。 ボロボロと大粒の涙が神崎の頬を落ちていく。 「ひ、ぎ……ッぬ、ぃ……でぇ!」 「あー?つーかすっげぇ。これ入んのかよ」 「は、いんなぁ……いッ痛い、痛ぃ、いぃ゛おね、がッ  も ぉ助げ、やめ、でくだ、さぃ、い゛」 「はは、敬語使い出してんじゃん。何でもする?」 「す、るが、らァ゛」 「じゃあ両手でピースして笑え」 「………な、に゛?」 戸惑う神崎に姫川がため息を漏らしバイブに手を掛けた。 慌てた神崎は震える指で崩れたピースを作り姫川を見た。 「笑えつってんだろ」 神崎の手を顔の両脇に移動させながら無表情が言う。 言われた通り神崎が口角を上げると姫川が喉で笑った。 「ブッサイクだなーお前。よくお前に勃ったわ俺」 ベッドに落ちるスマホに手を伸ばしてシャッターを切る。 それから動画に切り替えると、尻肉を左右に拡げてバイブを咥える穴を撮った。 「『エッチ楽しかったです。ありがとうございました』  って言え」 「…………」 「言えって」 「え、ち、楽しかったです、ありが……ございました……」 スマホの小さなレンズを眼前に向けられた神崎は半ば意識を手放しながら口を開く。 もう何を言わされているかもよく分からない。 姫川はスマホをベッドに投げ小さく笑った。 「覚えてねーけどこれレイプだろ?ごめんねー」 「…………」 「でも神崎クンもエッチ楽しみました的な素材あっから。  お家のこわーいオジサン達連れてこないでね?  始末メンドーだから」 謝る形は取ってみたものの、『抵抗しきれなかった神崎が悪い』が姫川の本心だった。 「あれ?死んだ?」 無反応な神崎の顔を覗き込む。 焦点の合わない目に姫川は映っていなかった。 「もしもーし」 「………」 「かわいそーだからせめて洗ってやるよ」 姫川が痙攣する神崎の腕を引き体を抱き起こすと、人形のように神崎の身体が姫川に倒れた。 「あ?テメーで歩けよ。立てねーの?」 頭上のため息に神崎の心臓が跳ねた。殴られる。 気力を振り絞るも、力の入らない足では体重を支えきれず床に崩れ落ちてしまう。 ただ、バイブが抜け落ち足が震えただけに終った。 「だる。やっぱお前テキトーに帰れ。俺もー寝るから」 「…………」 「ああ、慰謝料とか治療費なら言い値でいーよー」 床に倒れ込んだままの神崎へ言い捨てる姫川は、脱ぎ散らかした服を羽織って部屋を後にした。 パタンと無常にしまるドア。 もう何を言う気力も無い。 とにかくもう終わった。開放された。 神崎は床の冷たさを感じながら意識を手放した。 * 翌朝。 タワーマンションのエントランスに白金に輝くロールスロイスのリムジンがあった。姫川の登校のための送迎車だ。 億ションであるマンション内では高級車も珍しく無い。 しかしそんな目の肥えた住民も、通常の3倍長くカスタムされたリムジンには流石に振り返る。 それも車の前で礼をする運転手に迎えられるのはリーゼントの高校生なのだ。 前のマンションが焔王に破壊され、投資用に所有していたこのマンションに姫川が越して来て半月。毎朝の光景として馴染むにはまだ早く毎朝注目を買っていた。 しかし姫川はそんな注目もどこ吹く風、我関せず車に乗り込むとスマホを開いた。 あれから一夜。 姫川が起きた頃には神崎の気配はなかった。 恨み言のメールの1つもない。 どうやって帰ったのか、報復はいつしにくるのか。 想像をすればするほど神崎の反応が楽しみだった。 怪我も精神ダメージも深そうだ。学校にはしばらく来ないだろう。城山と夏目が見舞いに行くのなら2人に一緒について行くのも面白い。手が付けられないほどキレるだろか。 それとも城山と夏目の前で怯えてくれるだろうか。 姫川がそんな想いを馳せている内に車は停車した。 「竜也様」 校門の一区画前に車を停めた運転手が姫川を振り返る。 「今日は別の車が停まっておりますのでこちらでも」 「いーよ、別に」 「恐縮でございます」 聖石矢魔は上流家庭の生徒も多いが、送迎付きで登校する生徒はいない。稀に親の通勤ついでや怪我などで車登校する生徒はいるが姫川が登校する始業間際の時間に鉢合わせた事は初めてだ。 姫川は前に停まる車へ目を向けた。 お坊ちゃん高校らしく黒塗りの高級車だ。それも車会社が自社の重役用に作るハイグレードなセダン車で街中でもあまり見ない。それもスーツの男が後部座席へ回る様を見るに運転手付きだ。 このレベルの生徒が聖にもいるんだな、そう姫川がぼんやり見つめる先。降りてきたのは予想外にも神崎で、姫川はドアに手をかける運転手を止めた。 「待て。前の車が行ってから降りる」 神崎の後を追って車から降りたのはスーツ姿の男。 白い派手なスーツは遠目にも目立つ。よく見れば運転手もエンジ色と金の縦縞スーツで明らかに堅気ではない。 朝日に反射した金バッチが襟元で光る。 神崎に2度振り払われても心配そうに後を追う白いスーツの男が3回目に駆け寄った時、いよいよ神崎に蹴られて車に戻った所までを見届けた姫川は感心した。 しつこい保護者のような男にではない。神崎にだ。 昨日、あれだけ憔悴仕切っていたのにも関わらず、人を足蹴にできるタフさを感心すると同時に普段車登校しない神崎が送迎されている事が引っかっかった。 心配されるという事は家の人間に話したのだろう。 一体どう話したのか。もしくは悟られてしまったのか。 ガタイのいい強面の男2人が車の側に立ち神崎の後姿を心配そうに見つめていた。 神崎の姿が見えなくなると、後ろ髪を引かれる様子で力なく車に乗り込み走り去って行った。 「いーね、面白くなってきた」 笑みを浮かべる姫川は好奇心に胸を躍らせ降車した。 * 姫川が神崎に追いついたのは教室だった。 マフラーを外しロッカーに投げ入れる神崎の肩を叩く。 「よ、神崎クン」 声で相手を悟った神崎は肩に乗る手をしばらく身じろぎせず見たが、姫川に視線を上げ別段表情を崩さず返事をする。 「おー。はよ」 まるで日常だった。 無視をするでもない、殴りかかってくるでもない。 さっさと自分の席に落ち着いてしまう。 いつものように気だるく腰を滑らせて座り、隣の席の古市が読んでいた雑誌を当たり前のように取り上げパラパラめくる。まったくの日常だった。 何事もなかったかのように振舞う神崎に期待の外れた姫川は神崎の背中を冷ややかに見ながら、神崎の斜め前である自席に鞄を下ろし神崎を振り返った。 「なぁ神崎」 「んー?」 薬のキメすぎで幻覚でも見たかと疑うほど。 けれど神崎の掠れた声は昨晩を現実付ける。 姫川が神崎の隣に立つと、雑誌に落ちた影に神崎が顔を上げて小首を傾げた。 「さっきからオレになんか用か?」 「昨日いつ帰ったのお前?」 「……多分11時ぐれーかな。家のに迎えにこさせた」 「蓮井に送らせたのに。気づかなくてごめんなー?」 出来るだけ優しい声で皮肉に聞こえるように。 姫川は神崎の目を見据えて言った。 目を伏せ押し黙った神崎は古市の後頭部に雑誌を投げ返してからチラと周りがそれぞれの会話に夢中な事を確認して姫川のシャツの裾をクイクイと引く。 「あ?何」 「いや、屈んで」 「何で」 「耳かせ」 ならそう最初から言え、という視線を送りながらもオーダー通り屈む姫川に神崎は耳打ちした。 「オレ、お前んちにピアス忘れた」 「あ?」 何を言うかと思えば。 改めて神崎をしげしげと見つめれば確かにいつもジャラジャラしている耳元が涼しい。 透明のシリコンピアスがいくつか付いているだけだった。 「放課後、お前んち行っていー?」 「……は?」 「ピアス探すついでに遊んでく」 殴りすぎて記憶とんだか? 『今日お前んちで遊ぶ』と言って来た一昨日と同じ。 まったく警戒心のカケラもない神崎に姫川の眉根が寄る。 「もしかして覚えてねーの?昨日の事」 そんなわけないだろと思いつつも訊いてみれば、 「は?そんなわけないだろ」 まったく同じ返事があった。 「ん……アレってもしかして合意?」 「…………ちげーけど」 「え、おかしくね?普通あれだけされてまた家くる?」 「いい。気にして無い」 「は?何お前頭大丈夫か?」 「いや、だって謝ったじゃん。お前」 「謝った?俺が?」 「覚えてねーけどごめんねーつってた」 「は?あれで許すの?」 「え、うん」 姫川は首根を掻いた。 散々殴られた場所を青黒く腫らして何を言うんだ。 皮肉で言った事を謝罪と受け取って一切怒りもせず、ただただ受け流す。意図の見えない神崎に不気味さを感じた。 「ま、とにかく今日はお前んち行くから。  オラ、早乙女来たぞ。散れ散れ」 殺されでもするんだろうか? それとも物的証拠でも挙げて法に訴えてくるか。 どちらにせよ金の前ではどうにでもなる些細な事だったが腑に落ちない。その日一日、ただただ変わらぬ日常を過ごす神崎を姫川は観察した。 休み時間には、いつも通り城山と夏目との下らない話で盛り上り、昼休みには烈怒帝瑠女子会の輪に巻き込まれる。 大森と邦枝に挟まれた席ではよくある事で、最初こそ最後列の城山夏目の席に避難していた神崎だったが、焔王事変の馴れ合い以後は自席に留まり大森の机に広がる菓子をつまむ事も多い。 女子側も女子側で、いつしか神崎がいる事を想定して持ち寄る菓子に甘めの物が増えた始末だ。 避難したとしても姫川の席に寄る程度に変わっていた。 そこに城山と夏目が加わりゲームに興じる。多くはモンハンだったが、城山が根を上げた時は谷村が代打に入る。もはや神崎を中心に境界はあやふやだった。 今日は、神崎がゲーム機を持ってきていないと言う理由で城山と夏目は自席で談笑していた。 男鹿と古市は昼休みはずっと屋上にいる。不在の古市の机から、朝の雑誌を我が物顔で引き抜いた神崎は続きをパラパラ眺めつつ大森の机から菓子をつまむ。 これがいつしか違和感のない特設クラスの日常だった。 改めて振り返れば随分馴れ合いが濃くなったものだ。ここの所、毎日続いたモンハンの介護のような手伝いも無い久しぶりの自分だけの時間に姫川は観察を止めスマホを開いた。 「やっぱ単車は最低限改造しててほしーわね」 「あー下川の単車見た?あのクソだせーカスタム」 「アハハ!見た!マフラーデカすぎだろアレ!」 「ケツに乗る女の事も考えろってな」 「えっ!下川先パイって女いるんすか!?」 「前に乗ってるの……見たかも」 「あーそれアイツん所の族女ってだけだぞ」 「いたらしつこく葵姐さんに粉かけないでしょ」 「あんなのと付き合うならいねぇ方がマシっすよ」 「じゃあどんな男なら付き合うのよ?」 烈怒帝瑠女子会の声量は議題がヒートアップすればする程激しくなる。今日の議題である『理想の彼氏』は過去に何度も上がった話題だが何度でも白熱する話題であった。 とても静かに読書する環境では無くなった神崎は議題に茶々を挟んで楽しむ事に切り替えた。 そもそも『女子モテ!エスコート秋冬ファッション』を特集に組んだ雑誌は神崎の興味を引かなかったようだった。古市の机に雑誌を投げ捨てながら神崎が鼻で笑う。 「お前らの理想のカレシとかどーせATMだろーが」 「それは旦那っす!カレシは一途に想われてーっスね」 「そうね。最低腕に名前彫ってほしいわ」 「いやそれ別れたらどーすんだよ」 「だからぁ別れないって誓いなんじゃねえっスかあ!」 「おい姫川。テメー、たらしの立場で現実教えてやれよ」 「あ?巻き込んでじゃねーよ。知るかよ」 一瞬いよいよ行動に移して来たかと身構えた姫川だったが、よくよく思い返せば神崎のこの絡み方も日常だった。 「姫川先輩は女替えすぎで体中名前だらけ……かも」 「アハハ!あれっしょ?体にお経かきまくるヤツ」 「あー寿限無な」 「それそれ!神崎先パイマジ博識~!」 「まあな常識だ」 耳なし芳一だろ、そう突っ込むか一瞬迷った姫川だったが盛り上がる黄色い声に得意気な神崎の上機嫌を藪蛇する事も無い。もういっそ早く要求を教えてくれれば楽なのに。 様々な思慮を浮かべている内に放課後になった。 * 「姫川ぁ、帰ろーぜー」 「……ああ」 放課後のチャイムが鳴りざわつく教室。 城山と夏目に手を振って別れを告げ、席を立った神崎は斜め向かいに座す姫川の肩を叩いた。 呼ばれた姫川は席を立ち神崎を振り返らず教室を出る。 さくさく進んでしまう姫川を神崎は歩きづらそうに追った。 『神崎君、足怪我したの?』 最初に気づいたのは夏目だった。 2時間目の終わり、夏目の指摘に姫川は思わず神崎を振り返った。姫川と目が合った神崎はふいっと逸らしながら寝違えたとあしらい、夏目の好奇心と城山の心配を振り切った。結局神崎はトイレ以外ほとんど席にいた。女子会の渦中にいたのもそういう理由だ。 「待てって、早い」 あわよくば撒いてしまおうと思っていた姫川だったが、 神崎にグイと腕を引かれて足を止めた。 「今日ゆっくり歩いてくんねぇ?てかいつもより早くね」 肩で息をする神崎の姿は昨日の姿を彷彿とさせた。 クスリが効いていた間の記憶はハッキリしないが、理性が戻ってきてから見た神崎はそれなりにそそるものがあった。 その姿を思い出させる神崎を見下ろしていると、視線に気づいた神崎が顔を上げ訊いた。 「あ、どっか寄りたいとこあんの?」 「別に」 「あ、お前!昨日オレにピアス買ってくれるつったろ?  もしかしてそこ?」 「は?なんで俺が」 「え、覚えてねーの?」 姫川はうんざりと、首を振った。 「んだよ、しらばっくれやがって」 口を尖らせる神崎に、それはこっちのセリフだと姫川は心内に呟いた。何故普通で居られるのかが分からない。 神崎の歩幅に強制的に合わせられながら辿り着いた昇降口。靴箱から自分の靴を投げ捨て、ついでに一段高い場所にある神崎の靴も足元へ置いた。 多少の罪悪感からついやってしまった行動だった。 「こんな偽善じゃ誤魔化されねーけど。  てかお前オレの事チビ扱いしたろ今の!」 神崎は姫川を支えにローファーに足を入れ、姫川を睨みながら自分で内履きを戻す。 「……別に。ピアスぐれえ俺が買うつったなら買うけど」 「どこで売ってんの?」 「あ?テメーの欲しいもん、場所ぐらい知っとけよ」 靴箱の扉をバンと乱暴に閉めて構わず先を行ってしまう姫川を小走りで追いかけた神崎は姫川の袖口を掴んで訊いた。 「姫川?何で機嫌悪いのお前」 「……ああ?」 「昨日の事ならお前謝ったし、オレも許したじゃん」 「普通は許すもんじゃねーんだよ。  お前の意図が分からなくて不気味なんだよ」 「意図?」 「写真と動画か?俺の隙ついてケータイ奪いてーんだろ?  もう欲しけりゃくれてやるよ。  だから気持ち悪ぃ態度とんのやめてくんねー?」 思ったままをぶつければ神崎は姫川から視線を落とし黙り込む。しばらくの沈黙があった。目を泳がせ言葉を探す神崎は、おずおず姫川を見上げ口を開いた。 「ピアスなんだけどよー」 「話逸らすな」 「そらしてねーけど。これ、昨日お前が開けたんだぞ?  オレ何度も嫌だつったのに無理やりよぉ」 「あ?」 言われた姫川は目を細め、神崎の耳にあるシリコンピアスを訝しげにひっぱる。 痛いと神崎が声を漏らすも構わず見た。 確かにそこには赤くなった新しそうな穴が3つある。 「オレ、こっちの耳1コしか開いてなかったんだぞ」 「知らねーよ」 「痛かったし穴増やされて面倒なのも、  ピアスくれるっつーから許してやったのに」 「開けた所のピアス買ってやるつったの?俺が?」 「うん。お前が今してるハイブラのなんとかって奴。  俺はお前と同じのでもいーんだけど、  そのなんとかって奴がオレには似合うつってた」 「え、で、お前はそれが欲しいだけ?」 「?うん」 姫川はますます混乱した。意味が分からなかった。 いつもの神崎ならブランドに拘るどころかブランド物なんて女々しいだのなんだの言うくせによりによって自分のしているものと同じものが欲しいという。 高価と言われれば、確かにそれなりだが詫びの対価にしては安い。すぐ売ったとて神崎にとっても端金だ。 いよいよ不気味が極まる。 姫川は半ば神崎を引きずるように大通りへ出るとタクシーを止め、神崎を押し込み自宅を運転手に告げた。 「買いにいかねーの?」 「日本にねーし」 「……結局買ってくんねーんじゃん」 「さっさと自分の探してそれでもつけてろ」 「………わーったよ」 * 「お邪魔しまーす」と靴を並べる神崎を玄関に置いて、姫川はリビングのソファに寝転んだ。 なるべく関わりたくなかった。 タクシーの中でうとうと眠気にまどろむ神崎にもたれ掛かられていたのすら居心地が悪かった。玄関から届く神崎の、「探していーか?」という声に適当に相槌を打つ。 (そういえばあの部屋そのままだったな) 部屋の掃除は3日に1度ハウスキーパーが入る。 元の家ほど部屋数は多くないが最上階は一戸しかない。 それもメゾネットの為、住居としての広さに申し分は無い。 だが、フロアごとに用途を別けて使えた前の家程の利便さが無い事を嫌って使っていなかった。女を連れ込む部屋を別けられなくなった為に、もっぱら家に連れ込む頻度も減った。 そうなると毎日の掃除も必要無くうっとおしいだけだ。 低めに設定した頻度がここで功を奏した。 使用済みコンドーム、吐瀉物、血痕、手錠その他諸々。 凄惨な状態の部屋の掃除を他人へ頼むのは、さすがの姫川も人に気が引けた。何より通報されかねない。となると身内しか頼めない。姫川は蓮井へ連絡する為スマホを取った。 「電話、いやメールでいーか」 慣れない寝転んだままの操作で姫川の指が目的のメールではなく、動画フォルダを選択した。 脅す用途以外、別段使わないそのフォルダがやけに容量を食っている。 なんだ、と開けば撮った覚えの無い昨日の動画がいくつものファイルに分かれて収まっていた。 「……え」 薬を使って理性が飛んでいる時に撮ったのだろう。 中でも神崎の表情が恐怖に染まり涙に濡れているサムネイルのファイルを開けば、確かに嫌がる神崎に無理やりピアスを開けていた。片手にスマホを持っているのだろう。 バチンと一際大きいピアッサーの音と同時に画面がぶれた。ベッドの上に全裸で座らされた神崎の両手首には手錠がはまり、腕はガムテープで巻かれている。 ベッドの上の血に塗れたティッシュと針を見るにすんなり事は進んでいない。神崎の首筋にはダラダラ流れる耳からの出血がへばり付いていた。 『もう1個いくよー』 『え、な、んで、もう2個もあけ、たろ……』 『ニードルやめてやったろー?  つーかお前が動くから痛ぇんだろーが』 『穴、あけんの……もうやめて、くれ』 『んじゃ耳これで終わりな。次は乳首いくかァ』 『い、嫌、頼むから……セ、セックスでいーから、  ピアス、もうやめ、』 神崎がきつく目を閉じるとぼたぼたと涙が落ちる。 うめき声と貫通音の3度目が鳴った時、そのファイルは再生を終えた。 思ったよりも酷い事をしている。 姫川は額を抑え、他のファイルを再生した。 スタンバトンで電流を流し、腕を捻り上げ、腹を何度となく蹴り吐かせ、首を絞めて喉の奥まで性器を埋め、鼻をつまんでフェラをさせ、道具と一緒に性器を突っ込んで遊ぶ。 そんな動画があった。 どれも記憶に無いが、かつて敵対する人間やその女を拉致した際に配下に指示した手法だった。 神崎が高い声を上げている動画もあれば、おおよそ快楽とは程遠い絶叫に近い悲鳴をあげているものもある。こんな拷問まがいの事をされてたった一言の雑な謝罪で許すか? 姫川の疑念は益々強まった。目的は何だ。 「あいつ、何してる……?」 一向に戻ってこない神崎に姫川はソファを立った。 昨日、ゲストルームもといヤり部屋に腕を引いて連れ込んだ記憶はある。クスリがキマりだした頃で、頭が痛いからと神崎を騙して付き添わせベッドに投げ飛ばした。 それからは思い出せなかった。 わずかに開いたドアを押せば何かに当たる。 姫川が覗き込むと同時、室内からドアが引かれドアのすぐそばにいた神崎と目が合った。 ブラインドを締め切った暗い部屋でただ立ち尽くす無表情の神崎に姫川の心拍が上がった。 ここ最近の表情豊かな神崎からは思い出せなくなっていたが、見る者を威圧し畏怖させる氷のような黒く沈む目。斜視も相まって視線の先が定かでない目は動かない。 「……ピアス、あったのかよ」 神崎は無言でなくしたというピアスを嵌めた耳を指差した。 神崎の耳元で揺れるいつもの赤い石が黒く鈍く光る。 「じゃあもう帰──」 姫川が神崎の腕を引いて追い出そうとした所で視界にベッドの惨状が映った。昨日のまま。 血が黒く染まり臭いも籠る。こんな所に居たくは無い。 加害側でもそう思うのに、ずっとこの部屋でピアスを探していた神崎の真意が読めない。 姫川の背筋に冷たいものが走った。 「本当に覚えてねぇの」 呟いた神崎の掠れた声が低く訊く。 冷たい視線でベッドを指して、それから姫川を見た。 「悪いけどマジで覚えてない」 「この部屋見ても?」 「しつけーな。分かんねーって」 なぜ、あそこまでしたか見当が付かなかった。 単にノリで強引にセックスした程度に思っていた姫川に今になってようやく罪悪感が湧いた。 神崎の目的が金なら言い値に色をつけてもいい。 うつむいて、今にも泣き出しそうになっている神崎を横目にそう思った。 「まあ……さっき動画は見た」 「撮ってたもんな、お前」 「ピアスのくだりもあったんだけど」 「うん」 「開けた所で終ってた」 「……じゃあ何でオレに穴開けたかも思い出せねえ?」 「何が言いてーの。示談金でも何でも出すっつってんだろ」 「そうじゃねぇだろ」 「はあ?わけわかんねえ」 「もういい」 神崎は舌打ちをして姫川を押しのけ部屋を出る。 「帰んの?」 「何でそう帰りたがらすんだよ。体だるいから休ませろ」 リビングに戻ると、神崎はそれまで姫川が寝転んでいたソファに深く座り、離れて座ろうとしていた姫川を、 「姫川、となり」 ポンポンと座面を叩き隣に座らせた。 「はあ……。『もういい』んじゃねーのかよ。何?」 「何って?」 「金じゃねえんだろ?動画消して謝ればいーの?」 「まあ消してほしーけど……。そーじゃなくて」 「うん」 「あーお前、何でクスリ飲んだか覚えてるか?」 「さー?お前と酒飲んでてその時なんかあったよーな」 「あー……うん。そこは覚えてんのか」 「なんとなく」 「オレが冷蔵庫にあったクスリ見つけて、何でも  冷やすなってからかって持ってきたのは覚えてる?」 「いや?」 「どーいう奴?ってきーたら、キメセク用で  単に五感が増すぐれえつーから試そうとしたら、  お前が慣れてない奴は危ないつって奪って飲んだ」 「んー記憶ねーな」 「酒回ってたし効きがおかしくなってたんだと思う。  お前風呂に酔い醒ますつって行ったと思ったら  帰ってきた時にはおかしかったし」 「あー……うん、なんか。うん」 言われてみればそんな気がした。 粉末に砕いていたクスリのパケを神崎が飲み物に混ぜて持って来た。少しだけなら気分がよくなる程度だ。そのまま飲ませても面白いとは思ったが薬に慣れていなければどう作用するかはわからない。暴れられても面倒だ。姫川は神崎からグラスを奪ってシンクへ立った。 そこで半分ほど飲んで捨てたのが姫川の過ちだった。 一包で3、4人分の分量があるそれを神崎が普通の風邪薬の要領で全てをグラスに注いでいた事を知らず、既に十分な量のアルコールが回っていた体で飲んだのだ。 分量のミスに気付いたのは神崎に誘われるまま、オンラインゲームでチームを組んでの一戦目。 間もなくして、BGMが変に鮮明に聞こえている事に姫川は気づいた。ヘッドホンを付けないと聞こえないような重低音が心臓を叩く。武器を構える微かな音が大きく聞こえる。 それから隣に座る神崎から甘い匂いがした。後席の大森から移った香水だ。そんな薄い香りさえ判るという事は──。 「おい神崎。さっきのクスリ、パケ全部入れた?」 「ん?うん。あれ?お前飲んだのかよ」 「……半分だけな」 「んだよーその半分オレにくれてもよかったろ」 「その半分が問題なんだよ。ちょっと俺の分もやっとけ」 「あ?え、おい待てって!」 半分といえど一包全てとなれば通常の濃度よりも遥かに濃い。異様なクスリの回りの早さに気づいた姫川は、洗面所に吐きに行った。記憶を掘り返せるのはそこまでだった。 「でもなんでそっからセックスになんだよ」 「それは、その……だな?お前の反応が面白くて」 「あ?」 「いやお前戻って来てもソファで死んでっし」 「うん」 「最初はつっつくぐれーだったんだけど、  お前がキレてヤりてぇつってきたから……」 「待て待て待て。え、俺がしてーつったからしたの?」 「まぁ……そーなる、けど」 神崎の証言を信じるならば、煽ってきたのも神崎だし、何よりセックスについては合意を取っている事になる。神崎が自分を庇って嘘をついている可能性もあるが、気まずそうにしている神崎を見るにそんな様子も無い。 姫川は神崎の両肩に手を置いてゆっくり訊いた。 「レイプじゃねえ?」 「うーん……。酷い事とか痛い事いっぱいされたけど、  あれがお前の性癖で普段のセックスってなら  違うんじゃね?けど、痛かったし怖かった」 「それだよな……。お前が素直にオッケーしたなら  俺キメててもあんなヤり方しねーはずなんだけど」 「……」 「お前どっか嘘ついてねぇ?」 「……途中で蹴って逃げた」 「だろーなー」 あの時。 セックスがしたいと言う姫川を指差して笑っていられたのも束の間だった。無言で服を脱ぎ、ベルトを外す姫川にどこまでやるんだと笑う神崎の表情が抜け落ちたのは姫川の異常な力だった。腕を掴まれ押し倒されたその瞬間に神崎は反射で姫川の腹を蹴り距離を置いた。 けれどソファに倒れたまま動かない姫川が心配になり、大丈夫かと近寄る。『頭が痛い』そう呟く姫川に、蹴った腹の痛みで無い事に内心ほっとした神崎だったが、その頭痛の原因もそもそも自分が薬を持ち出したからだ。 寝かしつけて帰ろう。 姫川に肩を貸し、場所を聞いて寝室に向かう。 やっとの思いで姫川をベッドに転がして神崎は気づく。  姫川の脱げかけたズボンの中、勃起した性器が下着を押していた。いたたまれない気持ちで視線を外すも、外した先で脂汗を流し苦しそうに喘ぐ姫川が視界に入った。 罪悪感でいっぱいだった。 仕方ない、あれもこれも自分のせいだ。抜くぐらいなら手伝ってやってもいいかと意を決めた矢先、姫川の拳が神崎の腹にめり込んだのだった。 「で、逃げんなって言われてガチめに何度も殴られた」 「あー……」 一度腹を蹴られ、神崎を殴り返した事でスイッチが切り替わってしまったんだろう。姫川は頭を抱え淡々と事情を話す神崎を横目で見た。 「で、お前は何で怒ってねえの。  それが気持ちわりーんだけど」 「……覚えてねーんだろ。言わねーと駄目?」 「いーから言えよ犯すぞ」 うつむき黙ってしまう神崎に「悪い、冗談」と慌てた姫川が肩に手をかけた時── 「オ、オレが告ったらお前もオレの事好きつったから」 「…………あ?告ったって、え、お前が?俺に?」 追求の答えは聞くまでも無かった。 神崎の顔が見る見る内に顔が真っ赤に染まっていく。 耳まで染まりきる紅潮が答えを教えた。 それだけじゃない。今日何度も見せた表情がまた現れた。 眉根がせばまって、目が泳いで泣きそうな。 その表情は「覚えてない」と言う度に現れていた。 まさかの神崎の反応に姫川は顔を背け口を手で覆った。 「あーお前がピアスにこだわってんの俺が何か言った?」 「うん」 「なんつった?」 「……オレが言うの?」 「何。そんな恥ずかしい事言った?」 「言った……」 記憶が無いというのは言うのはこれほど怖いのか。 口ごもる神崎の先を姫川が急かす。 神崎は深呼吸すると早口で言った。 「1回目が終った時に処女貫通記念つって穴開けられて、  もう俺の物つって抱きしめてベロチューしてきて、  消毒とかゆって耳舐めてきて、  ここに俺と同じピアス埋めて、ケツにはちんこ埋」 「わかった、わかった……。もう喋んな」 自分の口を押さえていた手を神崎の口元に押し付ける。 体重を掛けられてバランスを崩した神崎を追って姫川の体が覆いかぶさった。急に迫った距離。 口を塞がれたままの神崎が慌てて目を反らす。 「あのな神崎。マジに気持ちは嬉しーんだけど」 断り文句の常套句。何となくは分かっていた。 セックスのノリで出た「俺も好き、俺の物」という姫川の言葉を真に受けてしまっただけ。 口をふさがれている事が神崎にとっては逆に今はよかった。 薄々分かっていたものの、けれど今日一日心が弾んでいた。 片想いは終って、これからはもっと近い距離で特別な位置で姫川と過ごせる。 でも、話しかけるほど姫川の機嫌が悪くなっていく。 それどころか、昔のようにそっけない。 覚えてない、と無かった事にされそうで。 分かっていても胸が詰って声が出なかった。 言うんじゃなかった。 姫川に記憶が無いのを利用して嘘で固めればよかったのに、ついつい本当の事を話してしまった事の後悔で、目を閉じると涙が溢れて頬を伝い、姫川の指へ滲んだ。 慌てて姫川の手を払いのけながらぐいぐいと涙を拭う。 「俺覚えてねーし、昨日の事無かった事にできねぇ?」 恐れていた言葉が姫川から出た。 悪びれもない、姫川らしい淡々とした口調と表情で。 今日は雲ひとつ無い晴天のような輝かしい気持ちだった。 世界が輝いて見えたのに、今は雲と土埃に覆われて寸先も見えない暗黒の世界のように感じた。 「友達、は続けてくれ、んの」 喉の痛みを飲み込みながら、途切れ途切れに言葉を押し出す神崎にさすがの姫川も胸が痛んだ。 「いやまぁ、そりゃお前がいーなら」 言いながらふわふわの金髪を撫でた。 身勝手に開けてしまったピアスが目に入った姫川は神崎を抱き起こしシリコンピアスをそっと痛まないように外す。 「穴、すぐ塞がんだろ。跡にはなるかもしれねーけど」 「別、に。いい」 「悪かった、本当」 「謝ん、なよ!むかつく、……らしくないし」 「……」 姫川に振り回された怒りより悲しさが圧倒的だった。 穴を開けられた時は痛かったし驚いたけれど、俺の物という言葉が嬉しかった。どんな事でも我慢ができた。 でも、そのピアスが姫川本人から外されてしまう。 パチンとシリコンが鳴らす小さい音に堰を切ったように勝手に涙があふれた。 「う、わり、なんか、泣く、かもオレ、ごめ」 ぽたぽたと二人の間に雫が落ちソファに染みを作った。 降り始めの雨のような水滴が次第に間隔を早めていく。 頭を伏せ、声を殺して泣く神崎の背中を姫川は撫でた。 不気味であった神崎のおだやかさの正体が分かってスッキリはしたが、それが恋愛感情だった事に姫川は戸惑った。 それも恋愛事に無頓着そうな神崎に。 気に入らない人間は即排除する神崎に泣くほど執着を持たれた事は大きな衝撃だった。 思い返せば最近神崎と遊ぶ事が多かった。 神崎から誘われる事も、自分で誘う事も同じぐらい。 それが当たり前になって、 『今日は用事がある』 と、どちらかが言わない限り放課後は一緒に行動するのが常になってしまっていた。 きっかけはバレーの練習だ。その頃には夏目もいたが、バイトでいたりいなかったり。2人でいる事の違和感に気づかなくなっていた。 気が合い、居心地がいい。お互いに感じていた事だった。 だからと家に泊まる事も、まして神崎の部屋化していくゲストルームを許してしまった事も勘違いさせてしまう要因だったのだなと姫川はぼんやり思った。 * 夕陽が沈んだ。 部屋に射さっていた赤い光が消え暗がりを落とす頃。 神崎にようやく落ち着きが戻って来ていた。 途中、姫川が持ってきたティッシュの箱はすっかり空になっていた。神崎は最後の一枚で涙と鼻水を拭うと顔を伏せたまま立ち上がった。 「顔洗う」 「付いてこーか?」 「いい、顔やばい」 「元からじゃん」 「うるせーな」 いつものようにからかってくれる姫川がありがたかった。 洗面所に行って、顔を洗う。 勝手知ったる戸棚からタオルを出して顔を拭って鏡を見ると昨日よりも目が腫れ赤い。 神崎は腫れた目を撫でながら溜め息を付いた。 1日ぶり、しかも迎えを呼んでフラついて帰ったせいで過保護な家の人間に心配を掛けた。 2日続けてこんな顔で帰ったらもう言い訳も苦しい。復讐心の強い性分の奴らに「何でもない」と言った所で、根掘り葉掘り問い詰められる事は小さい頃から思い知らされている。 かといって姫川に泊めてくれとも言える空気では無いし城山の家は兄弟が多すぎる。じゃあ避難先は、詮索はしまくっては来るが口の堅い夏目の家か。 そう神崎は考えを纏めてリビングに戻る。 「姫川、オレ帰る」 「あーうん。てか うわ、真面目に顔やばくね?」 「うるせーな死ね」 「車呼ぶわ」 「いい。どっかで飯食って夏目ん家行くし。  その頃にはバイトも終んだろ」 「夏目?何しに」 「お前の悪口言いに」 「えー」 「あれオレ、カバンどこおいたっけ」 「玄関じゃねーの。お前いつもほっぽってんだろ」 「あー」 玄関へ向かう神崎の後姿を追って姫川もソファを立つ。 「なぁ神崎」 「ん?」 「キスさせて」 「は、え、ななんで……」 「やたら俺からキスしてたろ。動画で見る限り」 「それがお前の癖なんだろ」 「ダメ?」 「……いーけど」 本当は気乗りがしなかった。 姫川の遊びにこの期に及んで付き合ってしまう自分がいたのはやっぱり好きな奴とはキスがしたいからだった。 惚れた方の負けっていうのは本当だな、と心で泣いて神崎は姫川を振り向いて深呼吸した。 「じゃあちょっとマジなやつ」 神崎の腕を引いて自分へ引き寄せると頬を包んで唇を塞ぐ。 ただ触れるだけのキスだと思って軽く構えていた神崎の体がビクと跳ね、驚きに目が丸まった。 「ん、ッう」 角度を変え、深く口内を弄ってくる姫川の舌使いに声が漏れ足に力が入らなくなる。 気付いた姫川が神崎の腰に腕を回し支えるも、それでもずり下がっていく神崎に合わせて姫川もゆっくり膝を折った。 ぺたんと神崎が床に落ちて息苦しさに姫川の肩を叩く。 「はっ、ひめ、か……はっあ」 廊下の点灯センサーが切れて、辺りが暗がりに落ちた。 日が落ちた薄明かりでは表情が窺い知れない。 「姫川、?」 「神、崎。もう一回だけ」 姫川は戸惑う神崎の唇を柔らかく食んで、神崎としっかり目を合わせてから唇を重ねる。 激しいむさぼるような口淫に息を落ち着かせる間もない。 逃げる神崎をその場に押し倒し、頬から首筋へとキスを落としていく。 「えっ、な、何っ」 わき腹に滑り込む姫川の手に神崎の目が焦りに泳ぐ。 「やっぱ興奮するよなー。軽く勃ったわ」 「ヤ、ヤりてえの?」 「うーん。昨日の今日でカワイソーな気もするんだけど」 「……オレはいーけど。……それにセフレでもなんでも」 「そう?じゃあ今日泊まって行けよ」 「……わ、かった」 いくらセフレでもこんな玄関口の廊下では嫌だ。 神崎は早鐘を打つ心臓を抑えながら姫川の下からもがき逃げた。神崎が立ち上がった事で点灯する廊下の灯りが、乱れたシャツを直す神崎を照らす。 赤くなって焦る神崎に姫川は小さく笑って立ち上がると、神崎の首根に腕を回した。 「何っだ、よ。昨日みたいな痛いのは無、」 「じっとしてろ」 一瞬チリつく痛みが右耳に走る。 小さく金属音が聞こえたと思えば、 右耳に重みが乗った感触に神崎は姫川を見た。 「新しいの買いに行くまでとりあえず俺のしてて」 「は?」 「このピアス欲しかったんだろ?」 「いやもう別に……」 「もう遅い?俺、やっぱお前とマジに付き合うわ」 「はぁ?いいって、そういう同情的なの」 「俺キス嫌いなんだよ」 「何の話だよ」 「だから今確かめたろ。俺お前とのキスで勃つ」 「それはお前が万年発情期だからだろ」 もう何を信じていいか神崎には分からなかった。 姫川はその場その場で嘘を付くし、ただセックス前の雰囲気作りをしているだけなのかもしれないし。段々腹立ってきた神崎は姫川を振りほどいて言った。 「そーゆーのいいからヤるならヤろーぜ」 「今日はやめとかねーか」 「はぁ??」 「だって体だるいんだろ」 「なぁマジ何言ってんのお前?  お前が泊まってけつったんじゃん」 「ヤりたいとは言ってないけど」 「でもセフレつって」 「それはお前が言ったんだろ。セフレでも何でもって。  何でもいーなら俺の本命でもよくね?」 「お前の本命なんか徳川埋蔵金より信じらんねーよ」 「財閥資産の方が埋蔵金より上だし見たけりゃ見せるぞ」 「金額の問題じゃねーだろ。  なんていうかツチノコ的なもんだろ」 「ツチノコより珍しい悪魔がその辺うろついてんだろ」 「お前マジであー言えばこー言うな。だるすぎ」 そんな人間に告った癖に、と追撃したい所だったが姫川は言葉を飲み込み神崎につけたピアスに触れる。 「このピアス、俺のばーさんの形見」 「えっそんなモン、貰えねーんだけど」 「本命だから持ってて欲しい」 目を伏せ、どこか寂しげに語る姫川に神崎の胸が鳴った。 本当に付き合ってくれるつもりなんだ、とピアスの穴を風に晒す姫川を見て神崎はふと思う。 「……おい。お前のばーちゃんピアスなんてすんのかよ」 「あ、ばれたー?しないし、生きてる」 ああ、こういう奴だった。 姫川という男の本質を思い出した神崎は流されそうになった自分を首を振って振り払う。 姫川がヤりたいならそれでいい。 ただ好きな気持ちをからかわれる事だけは嫌だった。 「とにかくあんな事しといてアレだけど、  だからこそ今日は大事にするわ」 姫川は神崎を抱き寄せ頭を撫でる。 その手を神崎は振り払い姫川を睨んだ。 「なぁ、もうマジにやめてくんねぇ?  痛ぇセックスされるより、からかわれる方がきつい」 「いやマジマジ。  そもそも罪悪感が沸いた時点で気付くべきだったわ。  俺、可哀想な事したなぁなんて思った事ねーから」 「……自慢する事かよ」 呆れ果て、やっぱり夏目の家に行こうと踵を返す神崎の腕を姫川がグイと掴み力を込める。 大事にしたいんじゃなかったのかよ、と苛立ち振り返った神崎を姫川の真剣な顔が見た。 「俺と付き合って」 一瞬跳ねてしまった自分の心臓に神崎はうんざりした。 嘘でも姫川の声に甘い事を囁かれると反応してしまう。これでは姫川の格好の玩具だ。 それを悟られまいと無言を貫く神崎に姫川は続ける。 「お前が俺を好きな気持ちにはまだ足りてねーと思うけど、  すぐに俺の方がお前を好きになるから」 「何そのわけわかんねー自信」 「昨日みたいな事もうしねえ。俺の物になってくれ」 「何したか覚えてないくせにか」 痛い所を突かれて姫川は閉口した。 さすがに振り回しすぎたかもしれない。 眉間に皺をよせ不機嫌を露にしていく神崎に姫川は事を性急に運んだ事を反省した。 姫川の告白は本当に本心から出た言葉だったが、今までの行いを省みるに客観的に見ても信じられるものじゃない。自分の重みの無い軽い言葉に焦りが出る。 けれど、本気の告白なんて生まれてこの方した事が無い。 どうすればいいかと拱いているうちに神崎が口を開いた。 「じゃあ聞くけど」 「うん」 「お前、オレをズリネタに出来んの?」 「……ん?は?」 「オレは昨日家帰った後お前で抜いた」 突飛な神崎の問いに力の抜けた姫川の手を神崎は振り払い、姫川の目をガンを付けて見据える。 「あんな痛い事されても、  オレはお前とやったってだけで興奮するし、  お前が目の前に居ても居なくても、  お前の事で頭いっぱいだし、お前の事考えると  嫌な事もしばらく忘れてられるし何されても許せる。  好きってそーゆーモンじゃねえの?」 どういうものかと問われても、今まで一度も恋心を経験した事が無い姫川には分からない。 神崎の演説にただただ口を閉ざすしかない。 けれど世間の人間の殆どを無関心に分類する姫川にとって、神崎を『好意を持つ』に分類しているのは確かだった。 「これ、仕返し」 呟いて神崎は姫川の肩を殴った。 確かに重い痛みはあったが仕返しにはあまりに足りない。 夏に病室が同じだった時、見舞いの品を勝手に食べて殴られた時の方がまだ数倍重い拳だった。 姫川はじんわり熱をはらむ肩を抑え神崎を見た。 「今殴られてムカつくって思ったなら、  お前オレの事なんか好きになれねーと思う」 まったくの真逆だった。 姫川は心底胸をなでおろし神崎を抱き寄せた。 「うん、大丈夫っぽい。俺お前の事好きだわ」 「嘘くせーな……」 「なんだよ、どーすりゃいーんだよ」 「お前がマジにオレと付き合うっつーなら付き合う。 セフレならセフレ。ここきっちりしとこうぜ?」 「仁義って奴?」 「うん」 「しっかり通すわ」 「明日になってしらばっくれてたらマジで殺す」 「わかったから。誓う。キスさせろ」 「おい、殺すってマジに殺すからな」 「るせーな、アホみてーに目閉じてろ」 キスをしようと神崎の頬に触れて気づいた。 また目が赤くなり涙がいっぱいに溜まっていた。 あれだけ強気に言っていた言葉全部、気持ちを押し殺して気丈に話していたのだと気づくと一層胸がしまる。ああ、これが愛しさなのかと理解した姫川は言われるまま素直に目を閉じる神崎に触れるだけのキスをし、唇を撫でる。 「唇ガサついてんぞお前」 「下手クソなセックス、唇噛んで我慢したからな」 「じゃーお詫びにピアス、買いに行こーか」 「いらねぇ」 「え、お前まだ信じてな」 「違う。買いに行こうって距離じゃねーんだろどうせ」 「パリだけど」 「つーかオレ、お前のばーちゃんの形見のがいい」 そう言って姫川の胸に収まり笑う。 姫川はそんな素直に神崎を抱き締め、ほわほわの金髪に顔を埋めて訊いた。 「付き合うってさ、何すんの?」 「お前の得意分野だろ」 「俺、誰かと付き合った事ねーから」 「いちいちしょーもねー嘘付くなよ」 「マジで。彼女いない暦年齢だから」 「ふーん。姫川クンって童貞?」 「ボクの童貞、神崎君の処女に捧げちゃった」 「うるせーな」 姫川の茶番にぺちんと頭を叩いた神崎が柔和に笑う。 「で、具体的に何すんの?」 「あー?飯食いにいったり、遊んだり?」 「いつもと変わんねーじゃん」 「変わんねーな」 「んー?変わる事もあるだろ?」 「……お前その急にエロい声だすのやめろ」 「嫌い?」 「いや、好き」 笑う姫川に神崎も笑う。 姫川は神崎の頭にキスを落とすと、玄関で脱ぎ捨てられている神崎の上着を拾い投げ渡す。 「出かけよーぜ」 「は?え、どこに?」 「パリ。自家用機で」 「はぁ?」 「ウソウソ。メシ食いに行こう」 「だからまめに嘘つくんじゃねーよ。  つーかオレもう外出たくねー」 「だるいなら車呼ぶから」 「無ー理ー。大体お前ヤる雰囲気作ってたじゃん」 「作ってねーし。つーか俺の方が無理だから」 「何でだよ、体だるいのはオレじゃん」 「ちげぇ。正直ムラつくの。家いると手出しそうになる」 「だから別にいいって。ヤりてーならヤろうぜ?」 「駄目」 「何紳士ぶってんだよ下半身脳」 「うーん……そうだ城山と夏目呼ぶか」 「なんで」 「あー夏目ってこの時間まだバイト?とりあえず城」 「泣くぞ」 「ん?」 「オレを泣かしてーの?」 「は?外に出なきゃいーんだろ」 「いっかい座れ、ばか」 泣くという割には怒りを露にする神崎は姫川の腕を引いてリビングに戻る。ソファに誘導して腰を下ろした。 「お前よくそれで女はべらせてられんな」 「だから、あーいう女は彼女じゃなくて遊びだって」 「腹立つなクソ童貞」 「何、どーしたいのお前」 「だから、今はお前と二人だけでいたいの」 「え、あーそういうもんか」 「ほら、イチャつきたい、っつーか……その」 言葉を詰まらせ黙ってしまう神崎はきゅと目を瞑ると勢いに任せて姫川を押し倒した。 「姫川と、してえ……」 恐る恐る目を開けて姫川の反応を見た。 じっと見つめてくる姫川の目にすら興奮する。 でも、と口を開く姫川の言葉をぎこちないキスで塞ぐ。 「2日もヤられ続けたら……覚える……」 「覚えるってお前……エロすぎ」 「今日も抜いたけど、もう無理。  してぇ、中うずく、挿れたい。頼む、ヤろ?」 「じゃあフェラってやるからそれで我慢し」 「犯すぞ」 「は?」 「逆レイプすんぞつってんの」 「悪いけど弱ってるお前になら余裕で勝てるわ俺」 「じゃあお前が寝たら襲う」 「うーん……」 煮え切らない姫川に抱きついて耳元で囁いた。 「お前が欲しくて欲しくてたまんねぇの」 初めて聞く声色だった。 上ずって、必死で、色気がある。 そのまま耳を甘く噛んでくる神崎に姫川は観念した。もとい我慢の限界だった。 自分に覆いかぶさる神崎の腕を掴んで体を起こす。 掴んだまま二の腕を握り、揉みしだいてみる。 女と違う柔らかみの無い体に興奮が揺らいだのは一瞬。 姫川に腕を掴まれて、揉まれる。それだけで息も絶え絶えに興奮で上気する神崎に息を呑んだ。 「ひめか、わ……それ、エロい」 「いや、お前もな」 眉根を寄せながらも嫌がるそぶりは見せない。 それどころか揺らぐ腰は先を急かす。 「なあ、早く…」 「神崎クンは俺とエロい事するの好きなんですねー」 二の腕から手首へ。 揉み、撫で下ろし指を絡めとるように手を繋ぐ。 「姫川ぁ」 ただ手を繋いだだけ。 それだけで、顔を赤らめ切なげに眉を寄せる神崎に姫川は自然と唇を重ねた。 「ん」 舌が触れ合うとピクと神崎の指が姫川の手の中で震えた。 その手を優しく握り直し、舌を進める。 水音が口内で響いて頭に反響する。 神崎の方から、もっとと絡ませてくる舌に姫川も応えて神崎が満足するまで貪りあった。 「ッ、くるし……っ」 少しばかり咳込みながら、神崎が距離を取る。 荒い息遣いに姫川は小さく笑った。 「だってがっつきすぎなんだもん、お前」 「え……」 「ああ、嫌とかじゃなくて。食われるかと思った」 「当たり前だろ。今からオレ、食うもん。お前のこと」 「俺がお前を食うんだけどね」 姫川の目が妖艶に笑んで、悪戯に舌を出す。 神崎の好きな姫川の表情だった。 いつも退屈そうに日常を過ごしている姫川だが、時に獲物を狩りとるような眼になる。 それが自分に向けられているというだけで背筋から腰にゾクゾクと電流のような痺れが走る。 神崎は生唾を飲み込み、じっと姫川を見た。 「すっげぇメス顔。  お前、自分が今どんなツラしてるか分かるか?」 「え、わか、んねぇけど……変、か?」 「『東邦神姫の神崎さん』といえば、  ドブみてーに濁り切った面してたんだけどなぁ」 「……」 「今はそのかーわいい発情顔だけで、こーなるわ」 ニヤと口角をあげた姫川は、神崎を抱き寄せ自分の上に座らせるとすでに主張し始めた性器を神崎に当てる。それだけで先を期待した神崎の心臓は鼓動を早めて呼吸を荒げた。 姫川は小さく笑い、今にも唾液が垂れそうな神崎の口に自身の中指を咥えさせた。 唾液を絡めとるようにかき回し舌を弄ぶ。 「ん、ふ……っ」 見る見る内に神崎の目が蕩ける。 ぼんやりまどろみ、自制を失い始めた神崎の唾液が姫川の腕を伝った。 「指より太いの、この口に入れてえ?」 舌を弾きながら訊いた。 返事の代わりに、ちゅう、と指を吸う。 姫川は喉で笑い、神崎を自分の上から下ろしソファの下に座るよう視線で指示をした。 神崎も素直に腰を下ろして足を開く姫川に収まった。 「はい、いっぱい気持ちよくしてねー」 神崎の髪を掴むとズボン越しに性器へ押し付ける。 髪を掴んだ事で少しは怒るかと身構えていた姫川だったが、 最早目先の快楽しか映らない神崎の目は蕩けきり、期待に震える手で姫川のベルトを外し、ズボンをくつろげ性器を取り出し頬ずりし、ちゅうと茎根に吸い付いた。 「さすが分かってんじゃん。いい子、いい子」 「ん、へへ」 いい所を強めに吸う神崎の頭を撫でる。 撫でられる気持ちよさと、褒められた嬉しさ。 それと、舌を這わせる都度、 ピクピクと反応を返してくれる姫川の肉に神崎の胸の内は幸福感で溢れかえっていた。 亀頭をぱくんと咥え、歯を立てないよう強く吸った。 舌で尿道をクリクリ転がしてからカリ首にも舌を沿わせて、それから一度口を離す。 「きもひ、いい?」 「フェラ上手いじゃんお前」 褒められるとまた一段と脈が早まった。 ドッドッドと胸が鳴っているのを感じながら、裏筋をひと舐めずりして竿を顔に載せながら玉へ吸い付く。 姫川が正気でなかった頃、何度も殴られながら教えられただけに、やっぱりそれは姫川がイイと感じるやり方のようで神崎の頬の上で肉茎がピクピク脈打ち、硬くなっていく。 嬉しくなって竿に手を伸ばして軽くシゴけば、カウパーがトロと溢れて神崎の眉間を濡らした。 「いや、きもちーわ。お前うますぎ」 「飲、む。まって」 もったいない、と慌てて口いっぱいに頬張る神崎に姫川は目を丸くした。 かつて自分に気に入られようと、媚を売りに売りまくったセックスをしてきた女でもこんな嬉しそうに、大好物を食べるかのように悦びに浸ったフェラをした女はいない。 「もう、でねぇ?」 上目でおかわりを求める神崎の艶めかしさに、姫川の喉仏がゴクリと大きく上下に動いた。 「さすがに昨日お前で絞りきったかな」 「ええ……」 「飲みてーの?精液」 「飲みたいってか、口の中で出されたい」 「はぁ?」 「あ、でも中出しもされたい」 「お前Mっぽいと思ってたけどガチMじゃん」 「姫川限定な」 そうか? 日常を見る限り、『姫川限定』では無さそうではある。 姫川にそんな疑念は残ったが、 「喉使うなー」 「ん、ぐっ、……おぇ、ンぉ!ンン゛」 金髪を掴み喉を使って腰を振ってみても、嫌がる所か太ももをもじもじと擦り合わせる神崎に姫川は満足した。 とはいえ、生理的にはやはり苦しいのだろう。 手が震え顔色も悪い。 溢れる唾液がだらだらとあごから垂れ落ち、ポタポタ床に水溜りを作る。鼻水と涙もその水溜りに落ちていった。 「喉に直か、舌でテイスティングどっちがいー?」 神崎からすればどちらも魅力的だった。 でもまだやった事がない方といえば後者だ。 上目で姫川を見上げ、あまり自由の利かない舌でツンツンと姫川の竿を叩いた。 「舌の上?」 伝わった嬉しさで、神崎の目が綻んだ。 「いーか?テイスティングってのはまず匂いを味わえよ」 ズルっと神崎の口から唾液にぬめった肉茎を引きずり出すと神崎の鼻に亀頭を押し付ける。 「ッん」 「お前えづいてたからな、  テメーの胃酸の匂いもあるかもしんねぇなぁ?」 それでも神崎は一生懸命スンスン匂いをかいだ。 胃酸の匂いの中にもやっぱり精子の匂いはする。 言われた通り胸一杯吸い込んだ。 「はい、次。口開けろ」 「あー……」 「もっと開けろ、で舌出せ」 命令通り、レロと素直に出て来た舌を姫川の長い指が更に引っ張り出しそこに亀頭を乗せた。 「ここに出してやるからシゴいて」 「あ、う」 神崎の指が血管の浮いた肉茎に輪を作って激しく擦った。 舌の上でじわじわカウパーが滲み出す。 すぐにでも飲み込みたい衝動に駆られたが、見下ろす姫川の視線がそれを許さない。 「あ、出そ。いーか?すぐには飲むなよ」 眉根を寄せた姫川が神崎の手ごと性器を掴み、さらに激しくシゴく。すると間も無く。 びゅっびゅると神崎の舌の上に生暖かさが乗った。 「あーやべ、手コキなのに結構イケた」 神崎の指ごと最後の一滴まで搾り取って舌の上に精子を注ぎ落とす。それから従順に口を開けて精液を受ける神崎の頭を満足そうに撫でた。 「はい、じゃあ次は噛んで精子を味わってみよーか」 「ん」 うなずいた神崎の頬が膨らんで、縮まって、また膨らむ。 クチュクチュと頬の中で音が鳴って口端から泡になった精子が溢れ出した。 「俺の種うまいー?あーん」 口を開けさせると、泡だった精液が口一杯に広がっていた。 味わった?と姫川が訊くと頷きが返って来る。 「じゃあ、飲め」 神崎の喉仏が2回上下した。 ゴクン、ゴクンと嚥下した音が聞こえるほど、大きく飲み込んで最後に舌が唇を舐めた。 「どう?」 「ん。飲めて嬉しい」 「すげーなお前」 「てかお前、俺の体がどうの言う割にイラマさせんなよ」 「嫌?」 「いや、別にいーけど。フェラしたかったのオレは」 「じゃあ今度な。で、次はどうされたい?」 「え、どうって……?」 昨日は成すがままだったのだろう。戸惑う神崎に、サド気に火のついた姫川の攻撃が始まる。 「特にねーならやっぱり今日はやめとくか。  俺出したしもういーや」 「え、やだ、だめ」 「じゃあお前が今日俺オカズにシコった内容言え。  その通りにしてやるから」 「ええ……」 神崎の目が泳ぐ。 耳まで赤く染まった頃、視線を姫川の手に落とした。 「その、指で……」 「ん?お前も手コキでいいの?」 「いや、あの、だな?昨日してくれたみたいなの……」 「いや覚えてねーから。何?はっきり言えよ」 おずおずと神崎が姫川の指を引く。 大きい、がっしりとしたでも細長い指。 姫川の中指と薬指を握った神崎は、上目で訊く。 「わかんだろ……?」 「さぁ?」 「えぇ……」 「言葉に出して言ってくんねーとなぁ」 再び目線を落として困り果てる神崎を喉で笑うと、姫川は神崎の手の内を指の腹で擦ってみる。 それだけでビクンと神崎の肩が大きく跳ねた。 「こーゆーことー?」 姫川は目を細め、握られた2本の指をくの字に折りグリグリ擦る。うん、うんとうなずく神崎はそれだけで息を上げ物欲しげに姫川を見上げた。 「オレの、なか、でそれして、中こすって、中ァ」 「うんうん。ローションとか準備するから待ってろ」 「や、昨日のあの部屋でやろ」 神崎の頭を一撫でし、ソファを立つ姫川の腕を待てと引いた。あの部屋、と神崎が言う部屋は確かにヤリ部屋として使っているだけに大抵の準備は出来ている。 けれど、凄惨たる状態の部屋は衛生的にどうなのか。 そう懸念していた姫川だったが──。 * 「あーッ、あ、あああッ、ああ゛う、あ゛ッ!」 「うわ、またかよお前」 キングサイズのベッドの上。 姫川に組み敷かれた神崎が3度目の潮を噴きベッドを盛大に濡らした所だった。 姫川の腕に担がれた片足がビクビク小刻みに震えると神崎の性器からジョロッと失禁が続いた。 「確かにこの部屋選んでくれて助かったわ……」 もう蓮井に掃除させるのも後ろめたい程だった。 姫川はあっという間にグショグショになったバスタオルを丸めて部屋の隅に投げた。部屋の隅には既に役目を果たしたバスタオルの山が出来ていた。 「お前まだ指マンしてるだけだろ?すげーなお前。  俺の挿れたら死ぬんじゃねーの」 「だ、て 自分でやるの、と全然ちが、きもちい……」 「そりゃ俺がしてんだから当たり前だろ」 「うん……てか、手、よごし、てごめん」 「いーけど。お前これ女優でもこんな噴けねーだろ」 姫川は神崎の中から指を引き抜いて、しげしげと自分の手を見つめた。これ、といわれて神崎も恐る恐る姫川の手を見上げる。滴るほどにビショビショだった。 姫川が指を一本一本舐めながら神崎を見下ろし口角を上げた。妖艶な仕草に神崎の喉が鳴った。 「じゃあそろそろ俺もヨくしてくれなー」 バスルームから束で掴んできたバスタオルも最後の一枚。 ベッドに敷いて神崎をその上に仰向けに寝かせて、細い足を左右に割る。ローションを勃起した性器に塗りたしながら、姫川は神崎の様子を見た。 表情は少し硬い。けれど穴はヒクついて期待をしている。 「挿れるな」 「う、うん」 本気の勃起だった。 姫川自身も驚く程に神崎に挿れたくて挿れたくて血が集まり脈打っていた。 挿れたら終わりそう、マジで童貞みてぇ。 姫川は小さく笑い、先走りでぬる付く先端をさっきまで散々いじめた神崎の穴に当てがった。 「あっ、ま、まて ひめかわ」 「ん、なに?」 「わか、んね、怖い、やっぱ、今日はもう……」 「は?知るかよ」 至極どうでも良さげに言い捨て腰を進める。 少しの抵抗だけでヌプと先端が神崎の中に姿を消した。 「あ゛、いっ、」 「何?痛い?」 言いながらも止まる気配が無い姫川は神崎に覆い被さり、肩を抱いてゆっくり埋めていく。 「あ、うぅ……おねが、いっ、かい、待っ」 「はあ?何、どしたの」 「も、う……い、れな、いでぇ、やだぁ」 「はいはい、もうすぐ全部入るからねー」 「きけ、よお、たの、むからぁ」 「騒ぐ、んじゃねえ!」 「ああッ、や、やだ、かえ、帰るッ、かえ、して」 逃げる腰に一気に突き入れた。 あったかい、溶けそう。キツい。締まる。 神崎の中を味わいたい所だったが錯乱に近い取り乱し方をする神崎に姫川は小首を傾げた。 青い顔をして手も震えている。 萎えてしまった神崎の性器をフニフニ弄りながら訊く。 「あーフラバしちゃってる?」 「ぬ、抜いて、か、え帰る、もう、お、わりた、い」 「うーん勃たねーなぁ。フニャったまま……て、うわッ」 ジョロッ。 姫川の指を神崎の失禁が濡らした。 驚きに肩を揺らしたものの性器をシゴく手は止めない。 呆れ顔が笑いながら言った。 「俺どんだけ酷いレイプしたんだよ」 「ひ、めかわ、頼む、から、抜い……てく、れ」 笑う姫川を震える手で押し返す神崎の懇願。 顔を青くして、姫川を見上げる目からは涙がとめど無い。 「こ、わい、こわい、から」 「ったく。わーったよ、酷い事したねーごめんねー」 怯える神崎というだけでそれなり来るものがある。 今日はここまでにして1人で抜くか、と諦めた姫川が神崎の頭を撫でた時だった。 キュウゥゥとキツい締め付けがあった。 同時に神崎が海老反り、はくはくと口を震わせる。 それから姫川の手の中に温かい精子がトロトロが流れた。 「あ、あっ、アァ、はじ、まっ、ちゃ、ぅ」 「ん?え、何?お前これイッてる?」 「う、う゛ん、だ、から、抜い、は、やぐぅ」 「え女役って勃ってなくても射精出来んの?」 手の中にある薄透明。 姫川はニチャニチャ手で弄びながらイタズラに笑んだ。 「なあ、『はじまっちゃう』って何?」 荒い呼吸で忙しなく上下している胸に精液をなすりつけながら訊く。途端、神崎の体が跳ねた。 「ひっ、ィあ、っあッ~~ッはぁッ、あ!」 「気持ちよくしてやるよ」 もう言葉無く、性器から逃れようと体をよじって暴れる神崎に姫川は覆い被さって腰を振った。 姫川の性器を締め付ける肉が、動き出した性器に強引にかき分けられる。 絶頂に膨らむ前立腺がゴリゴリ堅い血管浮立つ陰茎に擦られ始めると神崎の身体が硬直した。 「っや、やだぁ、やだアァ!アア゛や、めでぇええ!」 頬は真っ赤で、鼻水も、涙も、涎も流れるまま。 小刻みに震えている。 大袈裟な反応、でも演技でもない。 一突きごとに声が出る。 普段からは想像もつかない色のついた高い声。 どうやら恐怖はセックス自体ではなくその先だ。 そう推察した姫川は神崎をうつ伏せに返し、腰の位置を調整すると舌をなめずった。 「ちょっと俺、本気出すからな」 「だか、ら、待ッ」 神崎が口を開く前に、 ズンッ、と圧迫が前立腺を直撃した。 「…………ッ~~!」 瞬間。神崎から声が消え、全身に電気が走った。 足の指が開き切り、全身が痙攣しピクピク跳ねる。 「はっあ、あっ、あっ」 「フッ、何おまえ。小刻みにイクなよ」 「たのむ…………まっ、てぇ」 「じゃ、俺も気持ちよくならせてもらうなー」 「お、ねが、やだ、ひ、め、」 神崎の意識が途切れたのは、姫川が舌なめずりをしてから程なくだった。たった一度直撃した前立腺の位置を一度で覚えた姫川は、神崎の耳裏を舌でネットリなぞりながら、神崎の弱い場所を亀頭でズリズリ擦った。 「ひっ、う、ああッあ~~ッ」 少し動かれるだけでも全身に電気が走る。 神崎の腰が無意識に姫川から逃げた。 「逃げるなよ。お前の中、今から壊してやるから」 「あっ、あ、あ、う、こわ、い、いや、だ、ぁ」 腰に響く声。 それだけで神崎からまだ涙がこぼれた。 まずはゆっくりと姫川の律動が始まった。 「あっ、あ あ、ひめ、」 シーツをぎゅうと握る。 的確に、気持ちいい所にゴリゴリ固さが当たる。 男としてのセックスでは一生経験出来ない。 体の芯を打ち込まれる圧倒的存在。 タンタンタン……。次第に速さが増してくる。 姫川が本気、と宣言しただけあってもう手加減は無い。 姫川がただ荒く呼吸をしながら神崎をえぐり突く。 リーゼントが乱れてパラと前髪が落ちた。 「ン……吸い、つき、最高……」 「ひ、い、ぐっ、き、もぢ、ィい、ナカがぁ、」 ごりごり擦られて。 あの姫川がオレできもちよくなっている。 姫川がオレを抱きしめて、オレを気持ちよくしてくれてる。 耳元で聞こえる姫川の上がった息にすら感じる。 というかイっている。 だいぶ前からイってる。 イキながらさらにイかされて、 それでも中の気持ちいいコリコリしたのを 的確に1秒に何突きもされて、さらには耳元で、 「神崎、イイ……好きだ……」 なんて、囁かれる幸福感。 姫川にどこをさわれてもイってしまう。 昨日とは違う、姫川のセックス。 恋人として、特別な相手として抱かれてる。 胸に溢れた気持ちが、 ゾクゾクした強烈な性感として神崎の全身を襲った時、 「う、ああア゛~ーッ!ああッア」 耐えきれない絶頂に悲鳴を上げ意識を手放した。 ガク、と神崎の体が折れてベッドに沈む。 姫川は体を仰向かせ頬をペチペチ叩いてみるが反応は無い。 「落ちるのはえーよ」 姫川は小さく笑い、神崎の足を抱え直すと性器をグリグリ神崎の奥深くまでねじ挿れ無茶苦茶に揺さぶり始める。 気を遣わず、力任せに神崎の肉ヒダに擦り付ける。 失神してもなお、狭さも締め付けも気持ちがいい。 ポロと神崎から涙がこぼれて、それがまた興奮を煽る。 このままイこうか、それとも神崎が起きるのを待つか。 迷ったのはほんの一瞬で。 神崎の中に射精したい。 深い所で射精したい。 「神崎、中、だすな、」 そう思った時には、 これまでのセックスとは違う体の疼めきがあった。 ゾクゾクと背筋に快感が走って声が出る。 「イ、くっ、神、崎!」 腰が砕けそうだった。 神崎と繋がったまま倒れ込みながらも、射精が続いた。 しばらく、ただ粗い呼吸でまどろんでいるだけだった。 髪を解いてより神崎の身体と密着した。 動けない、動きたくない。 神崎の中にずっといたい。 そんなセックスは初めてだった。 痛かったのか、気持ちよかったのか。 怖かったのか、嬉しかったのか。 早く神崎を起こして聞きたい。 射精後の心地よさにまどろみながら、 神崎を撫でていると涙に濡れたまつげがシパシパ動く。 「起きたか?」 姫川は体を起こして神崎の頬を撫でる。ぼんやり自分を見る神崎の目が段々と明瞭になったかと思いきや、 「あ、あ……や、やだ、きゅ、うけい、したい、」 「ん?どーしたー」 どうやら混乱の最中にあるようだった。 顔面が一気に蒼白になる。 繋がったままの性器を無意識にギュウウと締める。 「休憩なんて体はいらなそーだけど?俺もお前も」 「うう゛あ、あ゛家、が、えしでぇ、もうやだぁ」 「なになに。どーしたよ神崎クン」 しゃくりをあげて、本気で泣き始める神崎は先程の錯乱とはまた違う。姫川は神崎の背に腕を入れ優しく体を抱き起こすとギュッと抱きしめ頭を撫でた。 「ん、髪のせいか?フラバで昨日の俺にいじめられてる?」 「うっ、うう、な、なに?」 「今日はお前のペースで気持ちいい事だけするから」 言いながら、優しく神崎の萎えた性器を上下に擦る。 すぐにきつい締め付けが返ってきた。 密着する事で聞こえてきた痛いほどの心臓の脈動。 それが段々と落ち着いてくる。 「姫、かわ、あっ、ま、って」 「抜く?」 「う、ん……」 神崎は姫川の肩に手を置き、自らゆっくり腰を上げた。 「んっ……は、ぁ」 神崎の中からその全長がぬらっと姿を表して、 それからすぐにボタボタと精液が後を追う。 「えっ中出し、したの?おまえ……」 「ん?あダメだった?」 「あ、え……オレ、でイけたの?」 「?うん。バカみてーにヨかったから我慢出来なかった」 姫川の言葉にまた神崎から涙がこぼれた。 「は?ええ……お前どんだけ泣くの」 「だ、て、昨日のおまえ、ぜんぜ、ん、イかなくて、」 「うんうん」 「でも、オレだけ、なんども無理矢理イかされ、て」 「えーひどー。どんな?」 ぺたんとバスタオルの上に座り込む神崎は、近くのブランケットを頭から被って涙を腕で擦りながら続ける。 「イくの、つらくて、でもやめて、くんなくて、  奥のなんか、やばい奥にずっとバイブいれて、きて」 「あー電池切れてたよなアレ」 「それ、怖い、けど、中、触られると秒でいくし、  中、ぐずぐず、で、イくのおわんなくて、」 「あーうんうん。怖かったねー俺」 「休んでいーの……?」 「うん。だから抜いたろ?見ろよ、ガチガチなんだけど。  抜くの辛いんですけど。早く挿れてーよ」 「ま、まって、まだ中、じんじん、してて、むり」 「敏感って事?」 「う、ん、姫川の、まだ入ってる、かんじして、  それ、だけでいき、そう……」 言うと、ブルっと身震いして身体を折り曲げる。 小刻みに震える神崎の肩を撫でると甲高い声を上げ姫川の目を丸くさせた。 「え……。まさかイった?」 「う、うん……ど、うし、よ……も、何されても、イ、く」 怯えながら自分を見上げる神崎に姫川は頭を掻いた。 『始まっちゃう』と怯えていただだけあって辛そうだ。 「いーよ。待つ」 「あ、ありが……と、うござ、いま…す」 「うん……ん?何で敬語?」 「昨日のお前が……そう……しつけ、たんだろ…」 「えー俺が躾る余地ねーじゃん。一旦それ忘れて」 「……いやシツケんなよ」 「気づいたか」 「ばかにすんな」 コロとベッドに身体を横たわらせながら神崎は続ける。 「でも、オレ……やっぱ、怖い、まだ……」 「俺が?ヤるのが?」 「ど、っちも。ヘンなイき方してるもん……」 「ふーん。ちょっといい?」 神崎が頭から被っているブランケットをめくる。 蒼白のままの神崎が弱い視線で姫川を見て目を伏せる。 「休憩、も、う終わり……?」 震える声で言う神崎に姫川は小さく笑いキスを落とす。 軽く触れて、神崎が口を開いて受け入れると、舌をすべらせ 神崎の舌を絡めとる。 チュ、チュッと音を立て、神崎が苦しくないよう何度も角度を変えて。頭を撫で口淫に耽る。 やがて、神崎の表情が蕩け、怯えが消えた事を確認した姫川は身体を起こす。 「昨日の俺は、こんなキスした?」 「し、してな……い、け、ど……」 「あれ、え、イってる?」 「う、ん……」 真っ赤な顔が泣きそうになりながら姫川を見た。 「う、れし、い、のが、いっぱ、いなる」 「たかがキスだけじゃん」 「お、れ、お前が思うより、お前の、事好きだ、から」 「何それ刺さる。腰にキた。挿れていー?」 「え!?ま、っオレまだ、むり……!」 覆い被さる姫川を押し返し、頭を振って抵抗する神崎の脚を姫川は左右に割る。 射精と汗でベトつく穴にローションを塗り指で中にも塗る。 それだけで神崎の身体がビクビクと跳ねた。 「う、そつ、き、オレのペース、でっ、て、ゆった」 「ごめんな?俺そーなのよ。自然に嘘ついちゃうのー」 べっと舌を出して笑う姫川は、確かに神崎の好きな姫川の性分で。胸がぎゅうと高鳴る。 けれどそれ所じゃないのは自分の体だ。 「キモチいーんだからいーだろ」 「ちが、きも、ちよすぎ、るから、つらッ、あ、嘘、」 抗議が終わる前に姫川の先端が、身体に埋まった。 「ううう、はなし、きけ、よぉ」 「きーてるきーてる」 無遠慮にその全身が腸壁に埋まっていく。 グズグズに蕩けたナカはピクピクと小刻みに絶頂し、神崎に行きすぎた刺激を与え続ける。 「ふっ、ふっ、あ、も、ぉ、ううっ」 「はは、すご。中ピクピクしすぎ」 神崎はポロポロ涙を流しながら姫川の首根に腕を伸ばす。 「フ、それ、揺さぶってもらう準備?」 「う……ん、で、でもや、やさしく、し、てほ、し」 「いやー俺思うんだけどさ」 言いながらゆるゆる神崎の奥を小突く。 その度に切羽詰まった声が姫川の耳元で喘いだ。 「あっ、あ、あっ、ア!」 「お前、昨日の俺のセックスが好きなんだと思うよー」 「な、わけな、あんな、ごーもん、みた、いなの」 「でもしっかり躾られた事も出ちゃってるから  体は痛くて怖いのもキモチーって覚えたんだろ」 「やだ、い、いたいの、はほんとにもう、やだ」 やだ、と言う割にキツい締め付けがあり姫川は笑った。 「期待にお応えして昨日のセックス、再現するな」 「ちが、やだ、ふつ、うに、えっち、したいぃ」 「自分で言ってたけどな。昨日してくれたのしてって」 「う、うう、ちが、ふつ、うの、ぉ」 神崎の身体が大きく震えた。 「あっ、ア……~っは、あ!」 「お、また?昨日のセックス思い出すだけでイくかー」 姫川にぎゅうと抱きつき快楽を逃そうと息を吐く。 そんな神崎を姫川は引きはがし、ベッドに倒すと口を塞いでチュと舌を吸う。 ベッドに力無く投げ出された手を取って指を絡めて繋ぐ。 すぐに神崎からも握り返されると姫川は小さく笑い緩やかに腰を動かし始めた。 「んんんっ、ン、ッンン!」 絶頂に跳ねる神崎の身体。 また、だらんと力の抜けてしまう舌を絡めて弄ぶ。 オルガズムに達したままの収縮した腸内。 姫川の勃起しきった性器が縮む肉を強引に突き分け、前立腺をえぐりながら引き抜き、突く。 パチュパチュッ―。段々とペースも早まっていく。 「う、ううっ、んんっ、んっ、んん!」 自分の口内で神崎の悲鳴が反響する様に、姫川の背筋にこれまでに無い性感が走る。口淫から解放すると、半開きのままの口からは高い声が溢れ出した。 「あっ、んん、アッ、あ、あ、う、ン!」 「声、かわい、お前」 「いっ、いい、きも、ちいっ、いぐ、イグゥぅ」 「いーよ、止まんねーけど。勝手にイけ」 「あッ゛い、イく、アっ、は!ああっ~~!」 ビクビクビクッと背中を跳ねさせる神崎の身体を姫川は腕に抱き込み、オルガズムにギュウウゥと収縮する腸壁を堅い勃起が強引に突き上げた。 「ぎっ、あ!!アッ!や、やだ、それぇぇぇ」 「あー今イイから、大人しくし、ろ!」 「やめ、や、ひめ、か、わぁ!!」 姫川の腕の中で神崎の身体が暴れる。 その身体を横抱きにし、さらに深い所へ捩り込んだ。 絶頂で収縮したい腸壁を許さず、構わず押し拡げ、ピストンを続ける姫川の性器が前立腺をゴリゴリ突き続ける。 大きく見開いた神崎の目からボロボロと涙が落ち続けた。 「くる、し、やだ、そこ、ううっ、い、いぐ、ぅぅ」 「お、マジじゃん。すっげ、きもち、この痙攣」 「ま、っでぇ、うご、か、イぐのやめ、てぇ」 「うーん、無理」 真っ赤に染まった顔は、鼻水と涎と涙とが入り混じりぐちゃぐちゃで。さらに必死に懇願をする神崎の表情はこれまでにない征服感を姫川に与えていた。 「ひめ゛かわぁ、頼……おね、が、し、ま゛すぅう゛」 神崎がどうなろうとその先を体験したい欲が勝つ。 惰性のセックスとは明らかに違う興奮。 「おね、が、ひめ、かわぁ!うっうう、や……ひめっ」 神崎が嫌だという痙攣し続ける奥深い腸肉。そこを叩いても神崎は泣くが、その手前の前立腺。 奥を叩くついでに前立腺も性器の根元で激しく擦れば、神崎の身体が浮いてジョロッと勢いよく失禁する。 「うぇ、ええぇ、腹、ナカァ!こわ、れ、やだぁ!」 「壊すって言ったろ」 「いぐっ、いっ、や、だ、いくの、もぉ……やだ、」 「はっ、イきまくってるの最高、きもち。俺もやべーわ」 間隔の早い何度目かの中イキに姫川の精子が登る。 ギュウゥと搾り取るような吸い付くような締め付け。 姫川はたまらず腰を止め、大きく息を吐いた。 「俺もいき、そ、休憩」 「えっな、ん、でぇ、早ぐ、イっ、てぇ」 「ヤダ。長くしたい」 滲む汗を腕で拭い、神崎の汗で張り付いた前髪も後ろに撫で流してやる。それから神崎の首筋をちゅちゅっと吸い、神崎の唇もついばみ、神崎に誘われるままに舌を絡める。 「んっ、ンンッ」 そのキスですらまたキツい痙攣があった。 顔を上げると、涙に濡れた神崎の目が虚に繋がった所をぼんやり見ていた。 「う、ううっ、ツラ、い」 ぐすっ、と鼻水を啜る。 目尻に溜まった涙を親指で拭いながら姫川は訊いた。 「痛い?ローション足すか」 「いたく、は……ない、けど……」 姫川の問いに自分の頭上に転がるローションに神崎の震える手が伸びる。 「で、ももう、やだ、お、終わりにし、て」 怯えているのか、痙攣なのか。 フルフルと身体を震わせながら、言葉とは真逆にローションを差し出す神崎に姫川が笑う。 「ふっ、どっちだよ」 「つ、つぎ姫川がイっ、たら終わり……」 「これ、昨日3つ空っぽなるまでヤったんだろ?」 パキッとローションの蓋を開ける音に神崎の肩が怯えにビクッと揺れる。 「き、のうみた、いなのは、もう、いいからぁ」 「でもその暴力みてーなセックスされといて  忘れらんねーって俺んちのこのこ来たのはお前だろ」 「エッチしに、来たわけじゃ、ねえもん……」 「でも最終ヤりてーつったのはお前な」 「そ、そーだけど……」 「ここ、中イキ覚えたてでうずいてんだろ?」 ローションを繋がった部分に垂らし笑う姫川が言う。 そこに神崎の手が伸びてきて、繋がったままの姫川の性器をヌチヌチ指でなで回した。 「で、も、オレも、うココ、感覚ない……」 姫川の性器を指で存在を確かめ、繋がった所を撫でると2本の指を割って穴を確かめる。 普段の神崎からは想像もつかない、妖艶な手つき。 姫川は生唾を飲み込んだ。 「すご、お前の、入ってる……」 「うん。お前ん中あったけーよ。気持ちいい」 「おれも……溶けて、るみてーで、だからその……」 「なに」 「力、はいん、ねえから……も、漏らすかも、だし……」 「もうさっき漏らしてたけど」 「えっ、う、うそ……あんなに洗ったのに……」 「あー漏らすってそっち?そっちまだねーけど。  小便は俺に怯えてジョロジョロ漏らしてたけど。  潮みてーに噴いてんのは別として」 「ご、ごめ、」 「てかお前、エッチしに来た訳じゃねえつったよな?」 「え?うん」 「あんなに洗ったのにってのは俺んち来る前だよな?」 「あ…………いや、その」 「5時間目の休み時間、便所長かったよなー?」 「なんで知ってんだよ……まあ、そーだけど……」 「抱かれる準備してから俺んち来てんじゃん」 「だってそん時は付き合ってると思ってたし……」 「エッチ期待してのこのこ来たんだろ?認めろや」 「そ、そーだけど。そんな責めなくてもよくね……?」 「いやだってお前夏目んち行こうとしてたよな?  俺が引き止めなかったらどーしてたのお前。  マジで夏目に迫ってた?」 「それ、は……」 反論が消え目が泳ぐ。 姫川に下手な嘘をついてもこうやって暴かれてしまう。 姫川を見て、目を伏せ、深い瞬きをして。 正直に話すしか無い。観念した神崎はゆっくり頷いた。 「だって昨日から体おかしくて、したくてしたくて  しょうがねーんだもん!」 「夏目とした事あんの?」 「ある訳ねーだろ。男は姫川が初めて……」 「フッ、処女開発も中イキ開発も巧いからな~俺」 「お前に変な身体にされた…小便も勝手に出るし…」 「漏されんの慣れてるしコーフンすっから出るもんは出せ」 「うん……」 「それに今更だろ。この部屋」 「ご、め……」 「ははっ、お前が謝んの?いーよ、全部捨てるし。  で、ここお前の部屋にしよ」 「え、いや、いい……」 「なんで?」 「ヤり部屋で使ってたとこだし……」 「あ?お前俺のオナホになりてーんだろ?  ヤり部屋なくしてオナホ収納部屋作ってやる  つってんのが不満なのかよ?」 冷たく見下ろせば、神崎が慌てて首を振る。 目尻に涙を浮かべて、泣くのを堪えゴクんと喉を鳴らす。 「おい」 「う、うん。休憩、終わり?」 「オナホじゃなくて彼女だろー?」 「え?」 「否定待ちだったんだけど」 「うっ、わ、わかんな……」 「俺の中の神崎一はなぁそんな素直じゃねーのよ。  昨日の俺の躾は忘れろつってんだろ」 「……う、ん」 「まだ俺がお前をからかってっと思ってんの?」 「だって、嘘しかつかな、い」 「しか、てこたねーだろ」 「つき、あってる、自信、な……い」 ポロポロ泣き出す神崎の姿が姫川の興奮を煽る。 我慢出来ず、ユルユル腰を揺り始めた。 「ん……うっ、は、あ」 「好き、神崎、わかる?ナカに俺、いるの」 「は、あっ、う、うん」 「また中に出していい?」 「う……うん、」 「お前さあ、中出しできるから  好きだのなんだの言ってると思ったろ」 「ちが、うのかよ」 「それだけじゃ何回もお前に勃つわけないだろ」 「……うん」 「好きだから勃ってんの。分かったか?」 うなずく神崎の頬を優しく撫で、それから両腕を掴む。 察した神崎が不安気な目を姫川に向けた。 「て、かげん……こ、わいのしな、いで」 「んー?」 無意識に逃げていた腰をぐっと腕を引いて引き寄せる。 もうこれ以上進めない。そこをトントン叩く。 するとビクと怯えて青ざめた神崎が姫川を見上げて訊く。 「う、うう、奥……すん、の?」 「うん。あーけーて」 「そこ、やだ、おねが、そこ、こわい、やだ」 「俺もやだ、ここ入りたい」 涙を浮かべて首を振る神崎にキスを落とす。 チュッ、と音を立てて唇を吸って舌を滑り込ませる。 そうしてしばらく舌を絡め合ってから、 トロンと蕩けた神崎の耳元におねだりをしてみる。 「この奥のとこ、挿れさせて?」 腰に響く色に濡れた声。 こんな関係にならなければ聞く事は無かった。 姫川の甘い声に神崎の胸が跳ねる。ドキドキと心拍数があがって姫川の望む事なら何でもしたいとすら思う。 「最後の1回ならここ挿れたいなー?」 小首をかしげる姫川からサラと落ちる髪が切れ長の目にかかる。造形の整った顔にしばらく見惚れた神崎は、姫川のダメ押しに意志とは裏腹に小さく頷いた。 「ゆ、っくり、なら」 「うんうん、約束する」 言い終わるか終わらないか。 姫川にズルっと体を引きずられ腰高く抱え直される。 神崎の柔らかい股関節はされるがままに大きく脚を拡いた。 「痛かったら言えよ」 バクバクと早打ちする心臓。 埋まっていた姫川の性器が壁を叩くのに合わせて力を入れると、わずかに腸壁が拡がる。 そこに身体深く姫川が侵入してくる。 「うっ、うう~っ苦、し、」 「息しろ」 「はっ、あっ、い、そこ、痛、いい」 感じる場所から更に奥。 身体が自然に姫川を拒んで、腸壁がギュウウと押し返す。 それでも強引にねじこまれる肉に神崎が涙を散らす。 「ひめ、かわ!いた、い!やっぱ、やだあ」 「うるせーな、喚くな。狭すぎて俺もイテーわ」 「いた、かったら、言え、って、ゆっ、たぁ…!」 「うん。やめるとは言ってないよねー」 「う、うええ、も、もう、やだ、いだい、いだ、いぃ」 先に進めず引っかかっていた取っ掛かりで、姫川は神崎の身体に乗しかかり体重をかけてみる。 すると、重みで一気にヌプッと粘膜が蠢き、それまで暴れていた神崎の身体がビクっと大きく痙攣して止まった。 S字を描く腸の奥深く、その総身が埋まる。 「ひっ……!?」 「んっ、神崎、入ったぞ、がんばったな」 「~ッ」 声もなくポロポロ泣く神崎の頭を撫でる。 涙を拭って、キスを落とすと虚な目が姫川を見上げた。 「で、かい……へ、び、が、腹に、い、るみた、い」 「フッ、何だそれ」 「ここ、胃ま、できて、るかんじ」 「大袈裟だろ。で、もう痛くない?」 「う、ん……あ、ったか、い」 圧迫感で苦しさを感じたのもわずか。 姫川がユルユルと動くと、すぐに開発されたその場所は快楽を思い出し神崎に伝え出す。 「ひめ、かわ、ァ、おく、奥、……ぅ」 「なー。マジ根元までずっぽり。気持ちいーんだ?」 「う、ん、い、い……姫川、でいっ、ぱい」 全身を貫かれている感覚が神崎を幸福感で満たして、圧迫感を殺す。 「じんじん、痛いの……なくなってきた……」 「だろ?昨日頑張って開発した所、使わなきゃ損だろ」 神崎の身体が性器の圧に馴染んだ事を確認した姫川は腰を抱え直し、細身の体を揺さぶる。 途端。神崎がのけぞり、ギュゥゥゥと強い締め付けがあって姫川に息を飲ませた。 「~ッひ、め、か!」 「っ!う、すっご……お前ッ」 「あっ、あっー~!」 神崎から高い声が上がって性器が奥の奥まで誘われる。 通常は到達しないS字結腸。 たった一晩で開発されて今日もまだ発情したままにするその場所。後はここを叩き潰せばいい。 「神崎、俺、イくまでやるな」 姫川は神崎が一番弱いであろうその場所に、重めに性器を叩きつけ何度も何度もえぐり挿れた。 「ひっ、い、い゛や、いや、あああ゛ア」 パンッパンパンッパンッ──! 海老反る身体。腕を手綱のように掴み逃げる事を許さない。 とにかく一心不乱に叩きつける。 異常な奥の締め付けが亀頭を刺激して普通のセックスの数倍の性感がある。 「うっうう゛お、く、ばっ、か、ほ、らない、でぇ」 「ふっ、ここ、せま、くて最高……ぎゅうぎゅう締まる」 あっという間に精子が昇り我慢の限界だった。 腕を解放して、腰を持つ。 神崎の奥深く。S字を描く肉壁に亀頭をハメ、固定する。 そこを小刻みにトントントントンと叩くと── 「あ、あっ、あっ、あ、あ~ッ、あ、ア!」 神崎から言葉が消える。 嬌声と、よだれと鼻水がだらだら首を伝う。 足も大きく開いていった。 体が自然に姫川を奥へ奥へと歓迎する。 「う、っあ、あっ、ひめ、か、ぁ、す、きぃ」 「俺も、……神崎おまえ、最高…っ」 姫川の切迫詰まった声。 それが神崎の興奮を煽り性感帯に電気が走る。 許容を超えた刺激に神崎は姫川に抱きつき泣き叫んだ。 「う゛~ッ!あッ、アァ゛ひめ、ひめか、わ、ぁあ」 「ん、キモチ、よくなれてんの……可愛いよ、」 「あ、でる、また……ッでるっ、ごめ、ッ」 ヌチヌチッヌチヌチッ──。 ひと突き毎に潮を噴く。 勢いで顔にかかる。 神崎の真っ赤になった顔面は涙や汗でぐちゃぐちゃで。 「あっ、あーーー!」 せめて、まだ手前の前立腺だけの刺激であれば。 奥ばかり突く性器から逃れようとするも──、 「オラ、まてまて」 取られた腕を手綱にまた奥深くへ性器を固定される。 見下ろす姫川がイタズラに笑い、 お仕置きと言わんばかり、ズンッと強く貫いた。 「ううう、あー~ー!!」 ヘソを中から破られるような感覚があった。 昨日は本当に突き破られてしまうのではないか、 そんな恐怖があった。凶悪なレイプで体も硬直していた。 「あ、あっ、ンンン、イく、の、はや、い、ぃ」 でも想いが伝わっている今は安心感も幸福感もある。 処女でもなく、開発され終わってもいる。 ただただ純度の高い快楽が神崎を真っ白にしていった。 「神崎、可愛い……」 トロけた神崎の切なげな表情に姫川がこぼす。 昨日のセックスには無かった甘い空気。 「すっげえエロい顔してるよ、お前」 「っふ、わか、んなっ」 「俺の事、好きですって顔してる」 「う、うん、す、き、すき、ぃ」 「俺も、マジで、今どんどんお前に落ちてる」 胸が締め付けられ幸福感で絶頂が加速してしまう。 ヌチャヌチャヌチッ。 イったその場所を、また擦られる。 それでまたイってしまう。もう何度目かわからない。 「ひめ、かわぁ、もう、も、おれ、ぇ」 声が嗚咽を出して泣いていた。 辛そうな声。眉根を寄せて酷く泣く神崎に腰を止める。 「どーした?もうがんばれねぇ?」 汗ばんで張り付く神崎の短い前髪を後ろに流し撫でながら優しく姫川が訊く。 「う、ん、ごめ、もう、もうでき、ない、つら、」 「いーよ。謝んなよ」 姫川の大きいものがズロッと深い場所を抜けた。 申し訳なさで、でも気遣って合わせてくれた姫川に気持ちが溢れて見上げる。昨日の姫川とは違う。優しい。 目が合った姫川が笑い抱きしめキスを落としてくれる。 チュクと舌を軽く絡め頭も撫でてくれる。幸せだ。 「…………?」 不意に神崎は違和感を覚えた。 蕩けた頭では深くは追求できなかったが、まあいいかとセックス終わりの充足感に満たされたまま姫川の舌へ絡ませた時だった。 「んんんんっ……!?」 身体を真ん中で裂かれた感覚に神崎が目を見開き悶絶した。 「えっ、え、あっ、あ、あ」 姫川の勃起がまた奥深い所にいる。 膀胱が押し上げられてジョロロと失禁が腹を濡らす。 覆い被さる姫川の胸を押し退ける。 戸惑い、泣きながら自分の性器を掴み失禁を隠す神崎は、奥深くを貫いた姫川を恐る恐る見た。 「なん、なんで……お、おわりじゃ、ねぇの……?」 「は?なんで?」 「あや、まんなくて、いいって……」 「うんうん。謝んなくていーよ」 また腰を突き始める姫川の胸板を慌てて両手で押すもその手はベッドに縫い付けられてしまう。 神崎の心拍がバクバクと痛いほど激しく上がる。 「え、っえ、なに、なに、」 「後は俺が好き勝手やるから」 「も、うやだ、やだ、でき、ない、しん、じゃうう」 「俺イくまでつったじゃん」 真顔で言う姫川に違和感の正体が記憶から引き出された。 相手をより窮地にたたせる為の姫川の癖だ。 穏やかに相手を追い詰めて突き放す。 がんばろーか?できないの? その最終確認の後の姫川は容赦ない。 「こんなの、ふ、ふつ、うのセ、ックスじゃ、な、い」 「褒め上手だねー神崎君は」 「ちが、も、もう、ほ、んとにこわ、れるから」 「死んでもいーよ、ちゃんと綺麗にしといてやるから」 「……なぁ……おれ、のこと、すき、なら、やめて」 「お前こそ俺の女ならテメーの男ぐらい満足させろや」 冷たい視線。 それは昨日の姫川と同じ表情で。 神崎からサァっと血の気が引いていく。 「く、口、口でする、ごめん、なさ、口で、」 「いやいや、神崎クンの調教済まんこ使うから」 錯乱に近い神崎を一蹴した姫川は、 逃げる腰をかかえあげ、横抱きに繋がりを深める。 それから抉るようなピストンで宣言通り神崎の穴を使う。 ズッズチッズッズックチッ──。 「うっ゛あ、あっあっ、~~!!」 「すっげー、中、ぐずぐず」 「ううっ、いぐ、また、ぁ、いっ、あア!!」 神崎の背がのけぞってビクビク全身が跳ねる。 焦点もあっていない斜視な瞳は今にも失神寸前で。 「や、めで、やめでぇ……!」 「あー?キモチーだろーが」 「ふっ、えっ、や、あっ、!あ……ッ~」 姫川は勃起のない神崎の性器をクチクチしごく。 くにくにと親指に力を入れてしごけば、 ピクンと素直な反応が返ってくる。 「あ、あアあ、だめ、さわ、んなぁ」 「中イキ疲れたんだろ?射精もさせてやるから」 「いいっ、なか、ナカ、だけ、もう、イきたぐない゛」 言いながらまた、中がギュウギュウと収縮する。 シーツをきつく握る神崎の手を奪い、 すっかり勃起した自身の性器を握らせる。 その上から一緒にシゴくと、 神崎自ら無意識にゆるゆる手を動かし始めた。 クチュ、クチ、ヌチヌチッ──。 「あ、っ、はっ、あ、アッ、あ、」 神崎のオナニーをじっくり見たいと思う姫川だったが、 短い間隔で起こる中イキの収縮がキツい。 限界が近い。本気で腰を動かし始める。 パンッパンバチュッバンッ──。 「!ううっ、だ、めっ、イぐ、ぅぅ、やだぁ」 神崎の中で自分の気持ちいいように動く。 中イキで酷使されて膨らんだ前立腺にカリ首を擦り付ける。 早いピストンを繰り返したかと思えば、重く貫き奥深くに猛りがハマる。その場所を無茶苦茶に揺り突けば、神崎が海老反って絶叫を上げた。 「あっあ゛ア゛!?ふか、深い゛そこ、やめ、てぇ」 「きも、ち……ッ」 「ひっぐっ、うぇ、ナカいく、のツラいぃ、まだ、ぁ」 「ふっ、うん……も、ちょいかな」 「あっ!い、イ゛ぐ!~ッいった、イっだぁがらぁ゛」 うねうね痙攣し続ける腸壁は、 もう長い時間、中イキを繰り返していた。 蹂躙をやめない勃起を追い出そうと肉がウネウネ蠢く。 それが姫川を悦ばせた。 「はっ、はっ!ア、ちん、ちん!も、ぉぬ゛いでえぇ」 「イったらね」 「し、しんじゃぬい、でぇ!うっううひっぐ、うぇえ」 半狂乱で号泣に近い。 涙を拭う手も震えて限界を姫川に伝える。 それでも姫川は神崎に構わず穴を使う。 グチグチ粘着質な音が神崎を追い詰めていく。 止めてもらえない恐怖が昨日のセックスを想起し神崎の顔が青ざめさせた。 「ふっ、ぐ、うぇぇ、っや、やだぁ、こ、わいぃ」 「泣くなよ、うるせえ」 「うっ、……うっ、ぐ、っふっ、~っひっ、ぐ」 うるさいと言われた神崎は慌てて口を塞ぐ。 けれど恐怖にカタカタ震える手では抑えきれない。 その間にもビクビクと絶頂してはポロポロ涙をこぼす。 「い、イっ、だぁ!も、もお、イぎ、だくない、ぃ」 「前、いじってやるから」 「うっ、うう、はや、はやぐぅ、おわ、って、ぇぇ」 ふと神崎のオナニーが止まっている事に気づいた姫川は、 神崎の性器もシゴきはじめる。 「あっああ!い、いらな、あああ!ッああア~ッ」 「おー。いーね締まる締まる」 「や、ヤダァ、ど、どっぢ、どっ、ちかぁ!」 「んー、最高っ、」 「イぐ、あ、いぐぅぅ」 ナカを激しく突きながら竿も大きく擦る。 すぐにカウパーが溢れ出し、ヌチヌチ派手な音を出す。 前も後ろも姫川の律動に合わせて音が増していく。 ヌチッヌチャグチュグチッ、ヌチャグチッ──。 「このエロい音お前から出てんぞ。よく聞ーとけよ」 トロトロ漏れる透明を手の平で亀頭に塗りたくり、 竿を指の腹でシゴく。 バキバキになった神崎の竿に姫川の指がヌトヌト往復して さらに派手な音と刺激が重なった。 「ひっ……う、うぅ~~ッ、あ゛、ま、たッ!イ、ぐ」 「なー聞いてる?てか聞こえてる?」 「あ、っ、あ……い、っ、ううっ、」 「あ?なに」 「も、もぉ、や、だぁ!つ、つか、れたぁ!」 数秒置きの絶頂に足がガグガク震えだす。 姫川にしがみつく力も無くなりされるがままに揺れた。 「ひっ、やめ、うっぅ、おれ、も、やだ、やだぁ」 「んっすげ、痙攣いーじゃん。ナカも震えてるぜ」 「た、すけて、せめ、て、きゅうけ、した、い」 「あーうん……もうすぐ、休ま、せてやるから」 神崎の肩を掴んで、体重をかけてパンッとえぐり込む。 グズグズにトロけた肉壁をメチメチ音を立てて硬く長い性器が奥深くを抉った。 「うあぁぁ、あっ~ッ!ふ、が、ぃぃ」 神崎から悲鳴が上がる。 それから腹が大きく凹む。 と同時に中が痙攣してギュウウと姫川を締め付けた。 「うっ、うぇええ、う、ああ、あ~ッうっううっ」 頭を振って、涙を散らして、号泣して。 もうまともに酸素も吸えていない。 ヒクヒクと薄い胸板が痙攣する。 そんな神崎が姫川の興奮を煽る。 バンッパンッ──。 容赦なく体重をかけて叩きつけた。 「ひ、め゛が、わぁぁ、あっ゛ァあ、やめ、でぇぇ」 「ん……ッ、は、も、すこし」 「うええ、ッええ、うっ、え、ひっぐうっ、ええ」 ギシギシとベッドが激しく揺れ続ける。 その音を掻き消す声で本気で泣く神崎は性器を叩きつけられる度に嗚咽して涙を撒く。 可哀想。姫川の興奮に刺さる。腰が痺れる性感が流れた。 「神崎、っ、中、出すな、」 「う゛ん……早、ぐぅぅ」 一緒にイけそうだ。 神崎の肩を抱き支え、律動さえも全て神崎に受けさせる。 パンパンッ、バンッ! 杭打ちの如く強く性器を叩きつけると、 神崎の身体が姫川の腕の中で跳ねて仰け反る。 「あっ、あっ、あっ~ッッ!ひめ゛……ッい、イぐ、」 「ん……ッ、っは──かんざ、き……」 ビクビクと身体を震わせて中イキしたばかりの神崎が、朦朧とした目で姫川を見上げて泣く。 「い、っ、たぁ、なか、ぁ゛、あづ、い」 「かわ、い……最高……っ、」 「あっ、アッ、~ッ!ひめ、かわぁ…!」 寸間、ほとんど色の無い精液が神崎の腹に飛んだ。 そのほぼ同時。 ギリギリまで抜いてからバンッと乱暴に突き入れる。 姫川の固い総身がイき震える内壁を擦り上げ奥を突いた。 神崎の身体が跳ねる。 もうこれ以上入らない深い場所。そこで吐精した。 「か、ん……ざきっ」 「ひっ、ん、はぁっ、はっ、はッ……!あ、!」 「っは、や、っば、すげぇイった」 「あっ、あっ、ナカぁ、で、てる……」 「中……わかる?」 「あ、ここに、すご、い……おれ、の、ナカ、」 神崎の震える指が自分の腹を撫でる。 自身の射精が塗り伸ばされているのも気づかず、 蕩けた表情がまるで受精を確認するように力無く撫で、 そしてフッと意識を飛ばした。 「え、おい。神崎」 息をあげたままの姫川が神崎の頭を撫でる。 目を覚ましそうにない。 でもまだ神崎の中で性器は勃起したままだ。 息を整えた姫川は、意識の無い神崎の足を腕に抱え直し、腰を動かし始める。 ダメだ、猿すぎる。 姫川は止められない神崎への興奮を無遠慮に叩きつける。 それこそオナホールのように。尻を掴み乱暴に。 「あっ、は……なにこい、つ、きもち、い」 パンッパン、パチュッ──。 意識の無い神崎は涼しい顔に見えた。 それでも中の締め付けはいい。 「はっ、……ン」 気遣わず、乱暴に。 ただ気持ちのいいように打ちつけた。 神崎の体がガクガク粗雑に揺れる。 グチュ、グチュッグパッ──。 中出しが激しく泡立ち始めた。 少し止まって自分を一生懸命咥え続ける神崎の穴を見る。 ギリギリまで性器を引き抜くと、 ドロッと精子が落ちヒクヒク穴が喪失感にうごめく。 「ん……最高……」 拡ききった場所はまたなんとも煽られ、たまらず姫川は神崎を抱きしめながら奥深くその全身を埋めた。 神崎の体温が心地いい。 気持ちいいように腰を振るとすぐに射精まで来てしまう。 神崎に気遣うこともない。 そのまま3回目の中出しを奥深くへ叩き注いだ。 「あっ、はぁ……はっ、マジイキした……」 ようやく姫川の性器から幾分か堅さが抜ける。 とはいえまだヤれと言われれば余裕で出来そうだ。 ここで初めて姫川は壁掛け時計を見上げた。 日付けももう変わる。 姫川は名残惜しさを残しながら神崎から性器を抜いた。 まだ反った性器がヌポと姿を出した。精子が穴から垂れる。 「ふ……がんばったな、神崎」 散々抜いて抜いてと叫んだ神崎本人とは違い、穴はハメてくれるものを探してパクパクと淫靡にヒクついている。後ろ髪を引かれながらも姫川は脱ぎ捨てた服から携帯を取った。 夜も深い。 それでもワンコールで繋がった先は専属執事。 後始末を任せた姫川はバスルームへ向かった。 * バスローブ姿がバスルームにあった。 ドライヤーに吹かれた長い銀髪が舞う。 ブローまできっちり終えた姫川がスイッチを切ると、絹のような銀髪はサラと肩に落ちた。 それから慣れた手つきで髪を後ろ手に纏め上げ、長い前髪をクリップで挟む。 次に洗面台のトレイに並ぶ美容液のボトルから数滴。 頬を包み込むようにハンドプッシュすれば染み入るように肌に馴染む。それもそのはず、そのどれもが財閥企業の製薬会社が姫川の肌質に合わせて製作したフルオーダー製だ。 最後に、髪をほどいてヘアオイルを手櫛で銀髪に馴染ませるまでが毎晩のルーティンで、香る薔薇の匂いにリラックスするこの時間が姫川は好きだった。 感知式の蛇口に手を差し出し、ヘアオイルを洗い落としながら鏡を見た。 神崎に好きだと言われた顔。 パーツが整っている事は元より、手入れの行き届いた肌は囲いの女も羨む程で。幼少から容姿を褒められる事は当たり前だったと言うのに── 『あと、顔』 神崎のその一言は思い出すだけで姫川の頬を緩ませた。 かなり表情が明るい。童貞を卒業したかのようなキラキラした雰囲気をまとう鏡の中の自分に、姫川は失笑した。 「坊っちゃま」 不意に背後からかかった声。姫川の肩が跳ねた。 「うわ、何。いつからいたんだよ」 「鏡をご覧になってニヤけておられる辺りからですが」 「別にいーだろ」 「否定などしておりませんよ。微笑ましいものでした」 鏡越しに薄い笑みを浮かべる蓮井にため息をこぼした。 「で、思わずニヤけが出る程の俺の初彼女の様子は」 「先ほどお目覚めになりましたが泣いておられます」 「は?え何で。今も?」 「おそらく。怯えておられるようでしたが」 「おいおいおい、そんな奴を独りにすんなよ」 蓮井を押し退けようと肩に手を置いた姫川を蓮井が制す。 「お待ちください」 「あんだよ」 「寝室に移動しました」 「寝室?俺の?」 「はい。神崎様と寝られるのでは?」 「誰も入れるなつってあるだろ。神崎だけはいーけど」 「はい。神崎様だからこそ寝室へお連れしました。  有象無象の女性方は案内致しません。ご安心を」 「有象無象とは言うね。まーもう遊ばないと思うけど」 「それは大変結構かと。では私は清掃に参りますので」 「あー頼む」 「明日も学校ですからね。早く寝ましょうね」 「うるせーよ」 何かありましたらすぐお呼びください、そう頭を下げる蓮井にヒラヒラ手を振りながら早足に寝室へ向かった。 マンションの中でも一番景色のいい方角に位置する寝室は他の誰も入った事の無いプライベートな部屋だ。 それは、マンションの所有権を共にする久我山ですら。 ジャンケンで姫川が勝ち取った日から天岩戸だった。 そこへ蓮井が神崎を入れたと言う事は、既に神崎が特別な相手になったと察しているのだ。どこまでも思い通りに動く蓮井を改めて評価しながら寝室のドアを開けた。 ドア対面の壁一面が窓であるガラスウォールには見渡す限りの広大な夜景が広がっていて、照明がなくとも薄明るい。 部屋の中央に置かれた黒で纏められたベッド。 そのベッドの上、頭からブランケットを被ってへたり込む神崎は景色をぽけっと眺めていた。 もう泣いていない。 姫川は胸を撫で下ろし、ナイトテーブルに置かれた水のボトルを取りキャップを開けた。 パキっと鳴った小さな音に神崎の背が揺れる。 「調子どー?」 ブランケットを深く被り直すだけで反応のない神崎に姫川は首を傾げ、ベッド端に腰掛けた。 「なに?眠い?」 ブランケットに隠れた顔を覗き込む。 いく筋も涙の跡がある神崎の頬を指で拭ってみる。 拭かれるがまま無反応の神崎に姫川は訊く。 「泣いてたって?」 「……」 「飲む?」 「……ある」 神崎がぎゅっと両手で握るボトルはもう残りわずか。 姫川は自分のものを取り替えて、残りを一気に飲み干し空き瓶をテーブルに戻すとベッドに体を転がした。 「寝よーぜ」 「……オレ、まだ眠くない」 「いや知らねーけど。お前そこどけ、布団ふんでっから」 「……じゃあ手ェ貸して」 「ん?」 「腰抜けてる。オレ」 「え、マジ?」 体を起こして神崎を抱き上げる。 首根に腕を回してしがみつく神崎に姫川の胸が鳴った。 ゆるむ頬をポーカーフェイスに装うのもやっとだった。 神崎の下からバサっと掛け布団を引き抜いて、ついでに神崎が頭から被ったブランケットも取り払う。 「お、それ着心地いーだろ」 白いベロア生地のナイトウェア。蓮井が着せたのだろう。 客用ではなく、自分の普段使いを身につけている神崎に姫川の胸が鳴る。 迷彩にハマってからあまり身につけなくなった白は、金髪を明るく華やかに見せ、石矢魔時代を想起させた。 「似合ってる。やるよソレ」 「……この服お前の匂いする」 丈余りの袖をスンスン嗅ぐ神崎に、姫川はたまらず神崎の肩を引き寄せ強く抱きしめる。全身から石鹸が香った。 「分かってやってんの、お前」 「あ?何が?嗅ぐの?」 「いやもう何でもでもいーわ」 神崎が姫川の気を引く為に狙ってやっていたとしても、その行動が可愛い事に変わりは無い。 姫川は神崎の首筋に顔を埋め、スンスン鼻を鳴らした。 神崎の匂いは残念ながら石鹸の香りで分からなかった。 「風呂自分で入ったの?お前」 「いや、起きたらもうこーだった」 「いつ起きた?」 「10分前くれーかな。能面執事いてビビった」 「ふっ……能面。お前の名付け、割と的確だよな」 「フランスパンとかな」 神崎は小さく笑って姫川の肩に頭を乗せる。 それから姫川の首を嗅いだ。 「この服も部屋もお前の香水みてーな匂い強くね」 「あー加湿器がアロマ出してるからな」 「……お前、ほんとにここで毎日寝てんだな」 「他人入れたのは初めてだわ。久我山もねーのに」 「誰だよ」 「あー許嫁の」 「ああ……例の嫁か。いーな」 「いいな?」 「嫁さしおいてお前の服着て、お前の隣で寝るの……」 「ん?は?え、だからなんで泣いてんの?」 肩がじんわり濡れる。 気づいた姫川が神崎を引き剥がすと、神崎の真っ赤な目からはポロポロ涙がとめど無い。 「神崎君てば俺の女になった実感湧いて泣いちゃった?」 「うん」 「え、マジかよ。お前俺にガチすぎない?」 「ずっと好きだっ、たから……でも……やめとく……」 「何を」 「つ、きあう、の」 蓮井から聞いた通り情緒が乱れているようだ。 でもきっと今だけ。 寝れば明日には落ち着いているだろう。 姫川はそう考えをまとめると、神崎の背中をポンポンと宥めてからベッドに沈んだ。 「マジかー。残念だわ。じゃあもう寝ろ」 「いい、帰る……」 「はあ?なに、ダルいって」 寝ろよ、と腕を引くも払われる。 苛立った姫川はため息を付き神崎に背を向け布団を被った。 取り合わなければ諦めて寝るだろう。そう思いきや── 「あ、オレだけど……今動けるやついるか」  「おい」 「いや、1人でいい。車出してくれりゃいーだけ」 「おいって」 「おー頼む」 姫川が体を起こし、神崎から携帯を奪う頃には通話は途切れていた。『通話終了』の文字に舌打ちした。 姫川は苛立ちに髪をかきあげ神崎の胸に携帯を突き返す。 「掛け直せ。で、車断れ」 「やだ」 「めんどくせーよ、何なの?お前」 「……帰る」 声を殺したまま泣く神崎はただ首を振って、つきかえされた携帯をぎゅうと握った。帰りたいと泣く神崎を見据える姫川は大きくため息をついて座り直す。 「悪かった。聞くから」 面倒なのも本心だが、神崎が理由もわからず泣いている事も胸に刺さる。帰ってほしく無い。 隣で寝て欲しい。本当は抱きしめて寝たい。 「泣くなよ」 神崎の頬を包み込んで親指で涙を拭う。 されるがままの神崎にとりあえずはほっと胸を撫で下ろす。 「久我山の名前出したから?」 「ちがう」 「あーもしかして蓮井?世話させたの怒ってる?」 「……ちがう」 蓮井を呼んだ事を怒られるのかと思ったが、そこは自分の家にも世話係がいるせいかすんなり受け入れている。じゃあ蓮井に何か言われたのかと訊けばそれも違うと首を振る。姫川は長い前髪をかきあげながら頭をかいた。 「俺はお前と付き合いたい。お前は違うのかよ?」 イラ立ちから神崎を睨み向けながら言う。 神崎は困り顔のまま首を振った。 「もうわかんね……」 「俺のセックス下手だった?」 「いや……そこ、……じゃねえかも。たぶん」 「多分?」 「お前、上手いとは思うけど、……怖いのしてくる」 「奥入れたやつ?」 「うん、あれ、オレやだつったのに……」 落ち着きを取り戻しつつあった神崎からまた涙がポロポロ溢れ出す。姫川が肩を撫でると大袈裟にビクついた。 「漏らすのがやなんだろ?」 「イくの、おわんないのもやだし……あとこわい……」 「ずっと言ってっけど怖いって何?」 「ひ、めかわが……」 「今日は酷い事してなくね?」 「そーじゃない……」 「はぁ?なに、めんど」 姫川のため息に神崎は膝に顔を埋めて泣いてしまう。 声は殺していてもヒクヒク跳ねる背中が姫川の罪悪感を刺した。背中を撫でてなるべく穏やかに神崎に問いかける。 「悪い。マジで聞くから俺にわかるよーに教えてくれ」 「……き、昨日は、わかる。めちゃくちゃしてきたの。  つきあってない時だし……クスリあったし」 「うんうん」 「でも、今日も失神するまでヤるとか普通じゃねえ」 「うんごめん、やりすぎたな」 「好きな奴にそんな事しねーから、だから……」 「ん?いやするだろ」 「え……」 「つっても好きな奴ってお前が初めてだけど」 顔を上げた神崎の赤くなった頬を撫でる。 「あー分かった。あれだろ。お前途中言ってたやつ」 「……なに」 「オレの事すきならやめて~みたいなの。  それを俺が無視したのが嫌、ってか  『オレの事好きじゃ無い』って変換したんだな?」 「………ふっ、うぅ、そ、う……だ、とおも、う」 どうやら神崎本人が言語化出来なかった要因をピンポイントで刺せたようだった。ポロポロ涙が止まらなくなった神崎に姫川が「枯れるぞ」と水を飲ませながら背を撫でる。 「お前あの一瞬、顔凍り付いてたしな。  好きだけどやめらんなかったんだよ、マジで」 「……こわ、かっ、た」 「回数やりゃトラウマなくなるって」 「ちが、う、また……お前がしらば、っくれる、から」 「いや、ねーって。好きだし付き合うつってんじゃん。  信用なさすぎねえ俺?」 「あるわけ……ねーだ、ろ。すぐ……うら、ぎる」 「うーん。何でそんな不安なの」 「だ、って女、じゃねーし……オレ」 「神崎、こっちみろ」 腕で涙を拭う神崎の手首を掴む。 それから頬を包んで上げさせて唇を重ねる。 チュッチュと角度を変え、それから舌を入れる。 逃げる舌を捕まえて絡ませると、おずおず神崎も応じる。 次第にトロと神崎の目が緩んでいく。 「んっ、ん……」 神崎の息が上がり出した所で姫川は口を離した。 物足りなげな神崎の蕩けた目の色気に姫川の胸が鳴る。 「怖がってんのに無理なセックス続けたのは悪かった。  お前が好きすぎて止まんなかったんだよ」 「……好、きなら、いたわるもんじゃねーの」 「あ?この俺がここまで折れてんのに」 髪を掻き上げる姫川は至極気だるげな目で神崎を笑った。 「神経質で女みてーなァお前。いーよ別れる?」 「ええ……なんなのお前。やっぱヤりたかっただけじゃん」 「ちげーって。性格なの、いじめたくなるの。  つーかお前は俺のどこが好きなの?」 「……自己中で偉そうでコーカツでクズなとこ……」 「だろ。諦めろよ」 さもどうでも良さげに気だるく言い切る姫川を神崎はぽかんと見つめて、しばらくして呆れ顔でため息をついた。 そうだった。 卑劣であったり傲慢なのに、それを自信満々に相手へ押し付け曲げようとしない。 確かに姫川に大切に労られ優しくされて、蝶よ花よと可愛がられたいかといえばそうではないし、それは好きになった姫川では無い。 腑に落ちたのか、姫川に言いくるめられてしまったのか。 でもその口の巧さも惚れた所だ。 神崎は肩から流れる銀髪に手を伸ばして指ですいてみた。 サラと手入れの行き届いた髪を指に絡めながら呟く。 「あと顔も好き」 「うんうん。俺もお前の泣き顔でイったわ」 「中で出されんの幸せだった」 「いやマジ、キメセクも含めて過去イチ気持ちよかった。  好きな奴とのセックス最高ってこれかーって」 「次も死ぬまで無茶苦茶ヤられて能面に世話されんの?」 「そーじゃん?」 「じゃあ別れる」 「そっか。じゃあ明日はピアス買いに行くか」 「別れるつってんだろ」 「ペアリングにする?」 「………どっちもくれ」 「うんうん。素直でいーね」 「もーいーよ。お前に口じゃ勝てるわけなかったわ」 「力でも勝てねーだろ」 「えーいや、そこは今度ガチろうぜ?」 「テメーの女殴るほどクズじゃねーから俺」 「言ってろ」 「あとすぐ泣くしなお前」 「いやこれはメンタルお前にぶっ壊されてるだけだし」 「ヨーグルッチで治んだろ」 「そーかも。買ってこい」 「明日な。常備しとくわ」 「うん」 どうやら溜飲の下がったらしい神崎に姫川は小さく笑う。 それから神崎の手に指を絡ませ、握り、キスをした。 ちゅっちゅと唇を啄みゆっくりベッドに押し倒していく。 「お前が本気で嫌がってるかどーか、分かってっから」 「いや……本気でやめてほしかったけど……」 「まだあれは本気じゃねーから」 「なんでお前がオレの本気を決めるんだよ」 「お前に詳しーから俺。中学の頃から狙ってたしな」 「手駒にだろ」 「うん。弱みとか調べてた時期あったなー」 「あーなんか、お前ん所の奴がしつけー時期あったな。  毎度半殺しにすんのダルかった」 「情報いっこ手に入れんのに苦労してたのが今や  テメーでテメーを差し出してくんだもん。感動だわ」 「で、差し出されたもん毎回めちゃくちゃに出来ると」 「うん。征服感ヤバすぎてもうお前以外イけないかも」 「ウソつけ」 「いやもうマジで好き」 力強く抱きしめ、首筋にちゅうと吸い付いてみる。 神崎から色のある声がこぼれて、それがまた腰に響く。 目を泳がせた神崎が姫川を見上げて訊いた。 「ん……ヤんの?」 「ダメ?」 「つーかアイツいるだろ、能面。人がいんの無理」 「能面はセックスぐらいで動じねーから」 もう一度したい。 神崎への発情が止まらない。 きっともう昨日からそうだったんだろう。 神崎に魅入られて、取り込まれたのは自分の方。 気付けば神崎の上でマウントを取りキスを繰り返している。 腕も舌を絡めて相手をしてくれる神崎に姫川の胸が高鳴る。とても寝られそうにない。 そんな姫川の興奮に染まった目に神崎も頬を染めた。 「姫川……オレ、まだがんばれる」 「お前、マジで……。そういうとこ」 結局、神崎は人の扱いが上手いのだ。 長く側にいればいるほど神崎に心酔してしまう。 「えオレ……なんか、ダメだった……?」 この不安気な表情も俺の前でしか見せないはず。 そう思わせる神崎の手練手管なのかもしれない。 勝手に思考が巡ってしまう。 いつもは納得出来る所まで考え込む姫川だったが、 「あーもうどーでもいー。ヤらせて」 思考を放棄して興奮を取った。 「姫川……」 それは神崎にも十分すぎるほど伝わった。 いつも姫川がまとっている余裕が無い。 顔も赤い。自分を見る目も獣のよう。 息も上がって、表情も切ない。 自分がそうさせている確信に神崎の胸が跳ねた。 「いくらクスリでも男に発情したり、  しかも2日続けてなんて効果ねーんだよ」 「ん?」 「最初っから俺はお前に落ちてたんだな」 「あ、え、へへ……」 神崎が照れて柔和に笑う。 初めて見る神崎の表情と仕草は姫川の興奮を煽り続け、神崎が着ている自分の服も剥ぎ取るように脱がせた。 「姫川、そんな急がなくてもオレ逃げねーから」 「俺が、いますぐ、お前にいれたいの」 「あ、そ、そう」 メンチを切って言われた神崎はあまりの姫川のゆとりのなさを笑った。 姫川の手を抑えて、自分から下着ごと服を下ろす。 下着から足を引き抜くと、それすらも姫川を煽情したようで姫川の喉仏が上下する。 足だけでそこまで新鮮に興奮してくれるとは。 姫川の興奮に、自分の興奮も上がっていく。 女であれば十分濡れて、すぐにでもという興奮はあったが、 穴に手を這わしてもその気配はない。 ローション無しで姫川の大きさは入らない。 「姫川、あっちの部屋からローション取ってき──」 そう神崎が言いかけた時。 ノックと同時、蓮井が姿を見せた。 「神崎様、お迎えの方がロビーにお見えです」 「えー。てかお前ノック意味ねーだろ。返事待てよ」 姫川に組み敷かれたままの神崎が固まったのは一瞬。 慌ててブランケットを手繰り寄せ身体を隠す神崎に蓮井が追い打ちをかける。 「あと、ローションを持って参りました」 トン、とナイトテーブルにローションが置かれる。 頬を瞬時に赤く染め、頭からブランケットを被ってしまう神崎に姫川は「あーあ」と嘆いた。 「神崎さー。だから電話掛け直せつったろー?」 「神崎様、お待ち頂くようでしたら  お迎えの方々へはラウンジを案内致しますが」 「……帰る」 「は?ヤらせろよ」 「能面がいるの無理つったろ!」 「私の事でしたら空気とお考えください」 「そーだぞ、俺の女になるならフツーだからこれ。  つーかお前の体も蓮井が洗ってるから今更だろ」 姫川がブランケットを剥ぎ取ろうとするも、強い力が許さない。視線で蓮井に合図すると──。 「失礼します。神崎様」 白い手袋がブランケットに潜り、素早く神崎の両腕を掴む。 その隙に姫川がブランケットを剥ぎ取った。 「テメッさすがに人前じゃしねえ!離せ!殺すぞ」 「お、いーね。やっぱ神崎といえばそーゆー目だわ。  イキり倒してるお前をヤってこそだよなー」 「うるせえ帰る!」 「蓮井。このまま神崎押さえといてくれ。10分で済ます」 「かしこまりました。  神崎様のお迎えの方の対応は別の者が致します」 「は?え、なに」 神崎の両手首を頭の上でまとめる蓮井は淡々とインカムで連絡を指示する。 涼しい顔であるのに神崎が力を入れてもビクともしない。 冗談だよな?と姫川を見つめれば、ニコと似合わない笑顔を浮かべた姫川は神崎の足を割開き指を秘部に這わせた。 神崎の背筋にゾクゾク刺激が走る。 「あっ!」 思わず出た声も蓮井に拘束された手では抑える事は出来ず、青ざめた神崎が蓮井を見上げる 「な、なあアンタ大人だろ……マジでコイツ止めろって!」 「神崎、蓮井は空気だと思えって」 「ま、まっ……て、泊まる!泊まるから!」 「ん?」 「ホントは、オレも迎え呼んだの失敗だと思ってたし」 「テキトーに言ってね?」 「つーか10分とか、やだ……ながく、してえもん」 上目で見上げる神崎に姫川の脳が揺れた。 可愛い。もう一生帰って欲しくない。緩む顔を必死でポーカーフェイスで隠すも、目の前で生暖かい笑みを浮かべる蓮井の前では無意味だった。 「ではお泊まりになられるという事で承りました。  お家には神崎様からの連絡があると安心なさるかと」 「……オレのケータイどこ」 蓮井から解放された神崎は体を起こし、差し出された携帯を受け取る。姫川以上に読めない表情を浮かべる蓮井を不気味に感じた神崎は姫川に擦り寄って姫川を背もたれにブランケットを体に巻いて電話をかける。 「あーオレ。やっぱ今日帰んねぇ。うん。そー。  姫川が泊めてくれるつってるからやっぱ泊まる。  だからァ昨日のは関係ねえって。姫川は大丈夫だから。  え?いやそれはそーだけど……はぁ?うん、うん……」 話す神崎を横目に蓮井は『作戦成功です』と小さくガッツポーズを見せた。一連の流れが泊まりを引き出す誘導だと察した姫川は小さく笑う。 「あー執事のおっさん。うちの者帰ったわ」 「ご伝言ありがとうございました。  ではゆっくりお休みください」 「……お宅の坊ちゃんが休ませてくれるならな」 「ふふ、お二人とも、早く寝ましょうね」 蓮井が去り、ドアが閉まるとほぼ同時。 神崎を押し倒す姫川の髪が、神崎の首をくすぐった。 「さてと」 「ん」 「朝までエッチしよーか神崎くん」 「朝、校門で親父と待ち合わせたからそれまでな」 「はー?お前んち過保護なー」 「マワされたとでも思ってんじゃね。ほぼ合ってるけど」 「いーね。人数そろえてマワすか」 「は?オレを?」 「うん。多分お前それでもオレの事好きそーだし」 「言ってろ」 呆れる神崎の首をズリと舐める。 チェーンピアスを人差し指でよけながら唇を撫で、 小さく開いた唇にキスを落として口淫に耽る。 「俺と付き合ったからには、いっぱい泣かせてやる」 姫川が神崎を見下ろし言う。 その表情は興奮に染まり、ただただ神崎しか視界にない。 神崎は生唾を飲んだ。 言葉で感情を伝えられるより何より分かりやすい。 姫川がオレに興奮してる。 姫川がオレに落ちた。 泣かしてやると言う宣言も姫川らしい。 「それクズすぎて好き」 「ふ、だろ?大事に泣かしてやる」 * 「神崎様、おはようございます」 朝からよく通る声量が神崎を揺り起こした。 「ん……うるせ、」 「学校の時間ですよ」 「休む。つかオレの部屋、入ってくんなつってんだろ」 「ふふ、こちらは竜也様のお部屋ですよ神崎様」 「たつや、さま……て誰………」 ウトウトまどろむ目がハッと覚める。 いつもより柔らかく体を包むベッド。 体にかかる布団は恐ろしくサラサラで肌触りがいい。 部屋に漂う知った香りは学校で香ってくるよりも濃い。 姫川の香水だ。 薔薇を原料とした香水で、微かに感じるスパイスが風格と色気を醸す。神崎に言わせると、 『薔薇を金で煮詰めた金持ちアピールのヤラシー匂い』 だったが、残り香でも美人を想像させ惚れさせてしまう。 心地よい余韻の香りは石矢魔では一際浮いていたが、けれど姫川には似合う。 石矢魔では、たまに廊下で残り香に出会う程度だったが 聖石矢魔に転校してからは、窓から風がそよぐたびに香る。 身近になった香りだったがそれが今やその只中にいる。 部屋の隅で加湿器が蒸気を出している様子を眺めながら、 改めて自分の状況を思い出した神崎は姫川がいない事に気がついた。 「姫川は?」 神崎は目を擦りながら体を起こし、ベッド脇に立つ蓮井を見上げた。下半身に特有の倦怠感があったが無視をした。 「3階にあるジムにおられます」 「朝から?」 「珍しい事ではないですが。神崎様も行かれますか?」 「いや、だりーわ。つーか今何時?」 「7時です。お着替えとアメニティ類は洗面所に。  30分にダイニングで朝食を摂って頂き、  8時10分に私の運転で学校へお送りする予定です」 朝食と聞いて神崎の腹が鳴った。 セックスに夢中で夕飯を抜かしていた事に気づけば急激に空腹を覚える。 「姫川は朝メシまで戻ってこねーの?」 「いつもの流れでしたら恐らく」 「ふーん……」 「ふふ」 「あ?何」 「坊ちゃまは神崎様の事をよく理解しておられるなと  感心してしまいました」 だからなにがと睨む神崎に微笑む蓮井が続ける。 「『起きた時に隣にいるのが神崎のして欲しい事   っぽいけど、神崎にムラつくから体動かしてくる』  とジムに行かれました」 「元気だな……」 「神崎様は喉の調子以外で困り事はございませんか?」 「ねむい」 「左様でございますか。であればこちらを」 「なにこれ」 サイドテーブルに置かれたグラス。 並々注がれたとろみのある中身に神崎はいぶかしんで蓮井を見上げた。 「ヨーグルッチをメインに喉にいい蜂蜜や  睡眠不足を補う食材で仕上げたスムージーです。  お召し上がりください」 「マジ?姫川のオンナんなるとこんな労われんのかよ」 蓮井からグラスを受け取り、ストローを咥えてみる。 それだけで香る甘い匂いがもう美味しいと分かる。 飲んでみると、予想通りの甘さに加えて、身体が求めていたかのように染みわたる。 冷たさが眠気も醒まして身体も軽く感じさせた。 「うま。回復アイテムみてえ」 「ふふ、お気に召して頂けたようで。  他に私にお手伝い出来るはございますか?」 「んー。ない」 「では何かございましたらいつでもお呼び下さい」 「おー」 音なく閉まるドア。 飲み干したグラスをテーブルに戻すと神崎は伸びをした。 朝の快晴、陽射しが部屋に降り注いでいる。 自分の部屋のカーテンごしの日差しとは違う開放的な光と 目覚めの良さ。それを共有できる姫川が隣にいない事が余計寂しさを感じた。 朝食を待たずに姫川の所に行こうかな、と重い腰を上げた所で荒々しくドアが開く。振り返るまでもない。 「おー起きたか」 いつもより早く切り上げたのだろう。 シャワー後そのまま上半身裸で、タオルで濡れた髪を拭いながらベッドに腰掛ける姫川に神崎の心が跳ねる。 「姫川何お前、朝からエロ」 「あ?お前だろ。早く着替えろ持たねーわ」 「なにが?」 「理性」 「元からねーだろ」 「ねーな。だから早く着替えろって」 神崎の胸元を姫川の長い人差し指が引く。 それから器用に片手でボタンを外していく姫川に神崎が生唾を飲んだ。 「ん?どーした。顔赤いぞ」 ニヤリと口角を上げる姫川は、神崎の反応を楽しみながら 神崎の目をまっすぐ見据え最後のボタンを外した。 ハラッとシャツがはだける。 「…………。姫川、しねえ?」 「え、いーけど」 「すげえエロい気分んなった」 「親父いーの?待ち合わせしてんだろ?」 「……どーしたらいい?」 「あぁ?」 困り顔で見上げてくる神崎を腕に抱きながら、姫川も首を捻る。ちら、と時計を見る。 朝飯は包ませるとしても、髪のセットは蓮井の手が欲しい所だ。ポリシーを捨てれば間に合わない事もない。 ……まあいいか。 神崎の要望の方がもはやポリシーより重い。 そう姫川が思える程に、目の前の神崎は据え膳だ。 むしろこのまま学校に行っても、抑えきれていない神崎の色気もとい発情は周りに悪影響だ。 自分の目がおかしいのか、神崎が本当に色気を纏っているかはもう姫川には分からなかった。 「ナマじゃしねーけどいーか?」 「……やだ」 「あー?シャワー浴びてる時間そんな残せねーかもだぞ」 「うるせーな、どーでもいーからさっさとしろよ」 神崎が姫川を押し倒す。 ペロっと舌を舐めずってニヤと笑む神崎は姫川の胸板に指を這わせ、そのままツツとベルトまで指を撫で下ろす。 「ん。お前が挿れる方すんの?俺処女なんですけど」 「んー?オレにされてーの?お前。オラ腰浮かせろ」 「あ、はい」 慣れた手でベルトを外し、下着ごと白のスラックスを下げる。既に半勃ちになった性器に喉仏がゴクと動く。 「オレだって女にエッチうまいって言われんだからな」 「あー、昔お前と被った女が言ってたわ。  お前意外と前戯なげーんだろ?エライわ」 「キモチよくなってんの見んの楽しーじゃん」 髪を耳にかけるように、 チェーンピアスを指で避けながらパクと口に咥えた。 「時間ねーかからいーよ俺は。お前見てりゃ勃つし。  お前の穴解すのに時間使うぞ」 神崎の頭を抑えるも、余計深くまで飲み込んでいく。 喉を使ってフェラをし出した神崎に姫川の腰が震える。 気持ちいい。 朝の日差しの中で神崎が一生懸命フェラをしてくれる。 昨日までは想像すらしてなかった光景にあっという間に血が集まる。 「おいって、わかんだろ。もう充分バキバキだって」 「ん……」 れ、と舌を出しながら神崎が顔を上げる。 「クンニもフェラもうまい神崎さんって名乗るか」 「名誉な事なのか?それ」 「モテるだろ」 ふふと笑いながら自分の下着をずらす。 「あ?モテる必要ねーだろ、他見たら殺すぞ」 「あれ、お前遊びの女やめんの?  なんならフツーに女作られる覚悟してたわ」 「だからお前が初彼女だつってんだろ」 「は?オレ以外ともうヤらねーって事?」 「え、いやそーだろ」 「へーすげえ。セイジツじゃん」 神崎はそう淡々と言い捨て、サイドテーブルの上のローションに手を伸ばす。パキッと蓋を開け、自分の手の平でヌチヌチと温めてから姫川の性器に塗りつける。 「……神崎お前、俺以外にも男で相手いんの?」 「処女だったろーが」 「慣れすぎてねえ?」 「お前のシツケなんですけど。  最初冷たいままやったら腹殴られたからなァ」 痛かったなあ、と腹をさするとローションが薄く付く。 テラテラとぬめる神崎の腹に姫川の欲情が煽られた。 「いや、おかしーって。エロすぎだろ。  お前俺が覚えてない事をいー事に捏造してねえ?」 「はー?あんな乱暴で非道なセックスしてよくゆーわ」 姫川の首根に腕を絡ませベッドへ倒れる。 首根を引っ張られて、神崎を押し倒す形になった姫川は誘導されるがままに神崎の穴へローションを垂らした。 「んっ、」 ローションと一緒に指を入れる。 少しの抵抗でツプと飲み込んでいく。 もう覚えきった神崎の気持ちいい場所をコリコリ擦ると、神崎が大げさに喘いだ。 「あっ、あん、きも、ち」 「なにそのわざとらしー喘ぎは」 「えー?エロいだろ?」 「いやいらねえ。いつものお前をヤるほうがエロい」 指を増やす。痛みは無いようで、けれど神崎の表情からそれまでの余裕が消えていく。 「ん、大丈夫か?」 「うん……、きも、ち、だけ」 「時間ないからもう挿れるけどいーか?」 「うん、はやく、ほし、い」 指を引き抜く。 ピクッと揺れる身体に先端をあてがうと、 神崎の身体に緊張が走った。 「どーした?力抜けよ」 「え、ぬ、いてるけど」 「ん?いや……」 改めて神崎を見下ろすと小さく震えも見える。昨日と同じ。 下手な喘ぎ声とは違って演技には見えない。 記憶が無い事をいい事に無理なセックスに持ち込ませて責任を取らせた筋もあるのか?と訝しんでいた姫川だったが、その疑念は彼方に飛んだ。 神崎の心は落ちている。 けれど身体は手酷い暴力を覚えていて怯えてしまう。 そのアンバランスさに神崎本人も違和感はある様だが、よく分かっていない。身体に言い聞かせるように「気持ちいい」と言葉にするものの、いざ、という場面ではやっぱり硬直してしまう。 「ごめんな」 顔も青い。 ずっと片思いだった好きな相手としたい気持ちと、セックスを恐怖と捉えトラウマとして覚えてしまった身体。 「姫川?……え、挿れてくんねーの?」 「二度とお前の嫌がる事はしねーから。女も作らない」 「は?う、うん。いや時間ねーからそんなの後で」 「遅刻したら俺も一緒にお前の親父に頭下げる。  だから急がずヤる。髪もこのままでいい」 「何お前、優しくて笑う。  そんなに好きんなったのかよオレの事」 「うん。多分もう俺の方が好きかもな」 「は?それはねーだろナメんな。オレのが好きだし」 身体が強張って嫌がっていても、押し殺して隠す神崎の健気さに愛しさが溢れる。 そんな気持ちでセックスをするのは初めてだった。 「んっ、あっ、!ぐ……」 先端を埋める。すぐにキツイ締め付けがあった。 気を抜いただけですぐに終わってしまいそうだ。 神崎の身体はのけぞり鳥肌も立っている。追い出そうとする締め付けを、ゆっくり体重をかけて埋めていく。 「ん、っ、はっあ、で、かい、ぃ」 「痛くねえ?」 「い、たくねえ、けど……んっ、はァ」 怖い、という言葉を飲み込んだ神崎に姫川の胸が締まる。 「も、はい、った?」 「んー……」 半分も入っていない。それでも苦しそうな神崎にそのまま伝えた所でまた恐怖を与える。 「動いていーか?」 答えを濁してゆるゆる腰を振る。 全てを入れずとも、前立腺には当たっている。 今はとにかく神崎だけを気持ちよくさせてやろう。 そう決めた姫川は半勃ちの神崎の性器に手を伸ばす。 「あっ、まえ、きも、ち、んっ、ん、」 「ふ、かわいい……」 ぬちゃぬちゃと先走りが音を鳴らし始める。 神崎の腰が揺れて、ズロッと性器が深くナカに飲み込まれると、大きく神崎が息を飲んだ。 「~っ、はっ、あ、うそ、つ、き」 「あ?」 「ぜんぶ、じゃねーじゃ、ん」 「あー?そーだったかな」 姫川にメンチを切って神崎が体を起こす。 「ん、なになに」 「体勢かえんの」 気づいた姫川が手伝って、神崎のなすがままに合わせると座位で神崎の身体が止まる。 「まだ動くなよ」 姫川の目を真っ直ぐ見据え、それから視線を繋がった所へ下ろすと、ゆっくり腰を落としていく。姫川の肩を掴む神崎の手が震え、目尻に涙が浮かんだ。 「あっ、あ、うう……」 「おい。別に深く入れなくてもいーって」 「っ……オレが、やだ」 昨日、姫川が神崎の奥まで挿れた時に言った言葉だった。 「オレで、気持ちよくなってほしーもん」 「……お前、あんま可愛い事言うな……」 「んっ、あ、すげ、おまえ、まだでかく、なんの、」 中で質量を増した姫川にクタと身体が折れる。 どれぐらい入ったのか繋がった所を見る。自分の中に埋まる性器は恐怖よりも興奮を煽った。 「すご……姫川のが、オレんなかに入って、る……」 「はあ?うん、なに今更」 「………しあわせ」 呟いた神崎がコテンと姫川の肩に頭を乗せる。 「神崎……」 思わず抱きしめる。 たった一晩でここまで心を持っていかれるとは。 神崎が人心掌握に長けている事はわかっていたが、まさか自分がここまで取り込まれるとは思っていなかった。 もうこれがハニートラップだったとしてもいい。 この後身包み剥がされるほど騙されていたのだと分かっても、神崎にこうして貰えるのならなんだっていい。 姫川の胸に充足感が満ちた。 気持ちが昂って自然と腰が揺れ出す。 気づいた神崎も姫川に抱きつきながら、前立腺に当たる姫川を感じる。 「あっ、あ、ん、んっ、はっ」 「どこ、いちばん、きもちいーの?」 「て、まえ?あ、でもふかい、とこも、なんか別格で」 「この体勢だと、そこは入んねえ、かなぁ」 「そこ、されると、漏れるから、今しねーで、いい……」 少し怯えが混じった声。 しまったと姫川が神崎の背をさする。 「また夜な」 「ふっ、オレ、らエッチばっか、猿じゃん」 「付き合いたてだからな」 「うん……夢み、てえ」 笑顔でもない。泣きそうな、でも幸せ。 そんな表情を浮かべた神崎が姫川を見た。 「きも、ちい、ひめ、かわぁ」 極まった神崎が腰を振る。 神崎がやりやすい様に、姫川が背をベッドにつける。 神崎も追って、ベッドに手をついて自分が気持ちいいままに腰を振った。 「あっ、あ、アッ、あた、る、きも、ち、い、とこ、」 「うん……俺も」 姫川の勃起で前立腺を擦る。 姫川に主導されている時も姫川は的確に当ててくるが、自分だともっと細かく気持ちいい所を追える。 「ん、あ、ひめ、か、わぁ、オレんなか、きも、ち?」 「最高」 「ふ、おれも、きもち……」 自分の上で腰を振って快楽に耽る神崎に精子が登る。 ピアスのチェーンが揺れる。 反対の耳につけた赤い石のピアスもユラユラ。 男の狩猟本能を刺激する。 朝日にキラキラ反射するピアスの赤い石に煽られ続けた姫川は、たまらず神崎の腰を掴んで思い切り突き上げた。 「~~アッ、あっあ!!」 神崎がのけぞって、涙を散らす。 そそりたつ肉がメチメチと腸壁を掻き分け奥に埋まる。 「ひ、ん……お、くぅ、」 「まだ手前だろ」 そのまま神崎の腰を掴む手を軸に下から激しく前立腺を狙って何度も何度も突き上げる。 「あ、あ~あっ、あ!ら、んぼう、にっ、す、んなぁ!」 肉がパチュパチュぶつかって、ピアスから伸びたチェーンがチャリチャリと激しく音を立てる。 「悪い、おさえらんね、え」 「き、もち、い……きもち、い、から、ッもっと、」 「ん……俺も」 身体を支えていられなくなった神崎が姫川の胸板にくたぁとしなだれかかる。 ピクピク震える身体は絶頂が近い事を教えた。 「神崎……中に出して、いい……?」 散々狩猟本能を刺激された姫川に、今度は種付けしたい欲が襲う。姫川の切羽詰まった切なげな表情に神崎の胸がキュウと鳴った。 「オレ、のこと、孕ませ、たくなった?」 イタズラに笑う神崎に素直に姫川は頷く。 素直な姫川に、たまらなくなった腸壁がギュウと収縮した。ぎゅうぎゅうに締め付けられた姫川が小さく喘いで、神崎の身体を横抱きに転がした。 「あー……俺ダメかも。悪い、やっぱ我慢でき、ねえ」 「う、ん、だ、いじょ、うぶ」 ヌプッ。深い所に亀頭が減り込んでくる。 精子を欲っしてうねる肉壁をメチメチ引き裂き擦り上げ神崎の中を犯す。 「あ、う、う、あ~ッ、あ、」 頭を振って過ぎた快楽を逃す。 それでも本気で動き始めた姫川からの責めが勝つ。 震える手がシーツをキツく握って大きく息を吐いた。 「怖い?一回抜く?」 「や、やだ、抜くの、だめ、も、っと……もっとぉ!」 汗ばんだ真っ赤な顔が、そう叫んだ。 「あー……だめだ、可愛い……顔、見たい」 「おれ、もぉ」 正常位に神崎の身体を動かすと、大きく足を拡げて杭を打つように深く何度も性器をぶつける。 「あ、きも、ぢ、い!ナカ、中イ、き、し、そぉ」 「うん、すげえ、ウネって……吸いつい、てくる」 ヌプッヌポッズッズッ! 神崎の狭い輪を激しく出入りする血管浮立つ性器。 一際深く中に埋まると神崎が喉で悲鳴をあげて、 大きくのけぞった。 「い、ぐ、イくっ!ひ、めかわぁ、!」 「んっ……俺、も……」 神崎を肩を掴むと、キツく抱きしめ、 のけぞる神崎の身体の奥深くに性器を埋め射精した。 ビュルッと身体の中に吐き出された感覚に、姫川の腰に足を絡めて全身で姫川に抱きついた。 すぐ近くにある姫川の匂いに腸壁がギュウウと締まる。 身体が勝手に姫川から精子を搾り取ろうと締め付ける為に、その大きさを敏感に感じてしまう。 「あっ、あーッ、あ、お、っき、いい」 「すい、ついて、はなさねえ、じゃん」 息を荒げながら姫川が笑う。 透明なカウパーを垂れ流したままの神崎の性器をシゴくとすぐにトロトロと精子が垂れた。 「あ、あ……い、く、のなが、い、い……」 「ん……中、ふるえ、てる」 「まだ、いれ、ててぇ、」 「言われなくても居座るつもりだったわ」 長く続く絶頂が神崎を荒く呼吸させる。 足がガクガク震えて、トロトロにまどろむ目からは涙が溢れ続けてシーツを濡らす。 ナカにとどまった姫川の性器も時折りピクピク跳ねて、それもまたオーガズムを後押しする。 「もう、うごきた、くない」 神崎の枯れた声が切なげに伝えた。 「今日もずっとエッチしてたい……」 「俺も」 手を重ねて繋いだまま。しばらく余韻に耽る。 何を話すでもない。 ただ、互いの胸の鼓動が、心地いい。 体温が気持ちいい。 匂いが近い。 お互いの早い鼓動が段々落ち着いてきた頃。 コンコンとノックと共にドアが開いた。 「もうすぐ8時ですよ……お二人とも」 「だからさぁ、ノック意味ねーだろ」 呆れ顔の蓮井に辟易と姫川が顔を上げた。 その下で組み敷かれたままの神崎も、もはや慣れた様で構わず姫川の胸に顔を埋め戻した。 「朝食は車で摂って頂きます」 「おー」 「メイドは帰しましたので。  私は神崎様のお手伝いをしますから、  坊っちゃまの身支度はご自身なさって下さいね」 「フ、神崎。お前の声スゲーから空気呼んでくれてんぞ」 「んー……」 「神崎様、身支度をお手伝いします。起きて下さい」 「神崎、蓮井がうるせーから抜くぞ」 「ん……っは」 ヌロッと総身が抜ける。 追ってトロトロと溢れる中出しに神崎が足を閉じた。 「ん……これ、漏れたの姫川の中出し?」 「うん。漏らしてねーから安心しろ」 「坊っちゃま……」 その会話に普段感情を露わにしない蓮井ですら頭を抑えた。 気づいた神崎がイタズラに小さく笑う。 「お宅の坊っちゃまァ、すぐ中出しするんですけどぉ」 「許可取ったじゃん」 「避妊努力がねーなぁ。どーゆー教育してんだ。あー?」 「申し訳ございません。神崎様」 「おい蓮井、申し訳なくねーだろ」 「謝罪されたからには慰謝料の権利が発生すんなぁ」 「邪魔されたからってダル絡みすんなお前も」 「はいはい。じゃあ中出し洗ってくるかー」 神崎がゆっくり体を起こす。フラついて揺れた体を、姫川と蓮井が同時に抱き止め支えた。 一昨日から睡眠不足が続く上に、暴行に近いセックスのダメージはまだ癒えていない。 神崎越しに視線で責める蓮井に姫川は珍しく反省した。 今日こそ神崎の休息を心に誓う。 「神崎様、歩けますか?」 「いーよ。シャワーぐらい自分で入れる」 「私がお支度手伝いますが」 「いらねーって」 「かしこまりました。では私は坊っちゃまのお支度を」 「ん姫川、お前も風呂使う?」 「時間ねーし体拭くだけでいーわ」 蓮井が運んできた廊下にあるワゴン。 準備のいい数々を視線で指した。 「蓮井。俺の髪、時間までにいけるか?」 「問題ございません」 「あ?諦めるんじゃなかったのかよ」 「お前の親父に会うならキめて行きてーから」 「フランスパンのが変だろ」 垂れる精液を軽くティッシュで拭いながら笑うと、神崎はよたよたと部屋奥のドアに向かった。 スライドドアの軽い戸を開けると、黒の大理石の洗面とガラス張りのシャワールームがあった。 寝室専用のパウダールーム兼シャワールームは、バスルームほどでは無いがビジネスホテル程度の十分な広さがある。 「こっちヤリ部屋にすりゃいーのに」 洗面に几帳面に並べられた未使用のアメニティの中に、いつも使っている置き歯ブラシがある事に気づいた神崎は、細かい仕事もこなす蓮井に感心しながらシャワールームのドアを開けた。 壁のボタンを押すと、天井から心地よい温度のシャワーが落ちてくる。ローションと汗でベタついた身体を洗い流してから、壁に付いた黒い陶器のディスペンサーからシャンプーを手に取ってふと神崎は思う。 「ん。これ姫川と同じ匂いなるよな……」 風呂場にはいつも使っているものを置かせてもらっていた。流石の蓮井もそこまでは気が回らなかったのか、もしくはそれでも良しと判断したのか。 「ま、いーか。付き合ってんだもんな」 もうワンプッシュしてみると、それだけで強いローズの匂いが蒸気に混ざる。どうやら姫川の香水と同じ香料のようだった。財閥企業が姫川の肌質に合わせてオーダーメイドで作っているそれはこの世に一つとない香り。 それを使っていいのはオレだけ。神崎の心がほわほわ浮く。 ただシャワーを浴びるだけの時間にこんなにも心を浮いてしまう。自然と口角が上がりっぱなしになってしまう幸せを感じてちる内、億劫だった体内の精子処理も簡単に済ますことが出来た。 たった1日前は震えて泣きながら体内の精液を掻き出していたというのに。昨日の自分に教えてやりたい。そんな落差を感じながらシャワーを止めた。 フルフルと頭を振って水気を切ってバスタオルを纏う。 シャワールームを出て、洗面の鏡を神崎はじっと見つめた。 キスマークの類は見える場所には無かった。 ホッとする反面、ガッカリしつつ歯ブラシを咥える。 「んー……」 歯を磨きながらケガを確認してみる。 腹に残る鬱血は中々消えない。 腕や太ももにもスタンバトンで殴られた跡もまだある。 手錠で擦れた手首は少しカサブタになっていた。 目の赤みは昨日に増して強い。 これらを世話役に見られた為に大袈裟にされたが痛みはもうほとんどない。 「昨日はそんな泣いてねーのになあ……」 声も枯れたまま戻らずで、姫川とセックスを続ける限り こうなのかなと思いながら口を濯ぐ。 肩にかけていたタオルで口を拭き、用意されてあった下着を履く。いつも身につけているブランドの新品が用意されていた事に蓮井へ少し恐怖を覚える。 「あ゛~あ゛~」 声は枯れてはいるが、喉が痛いわけではない。 目も赤いが、痛いわけじゃない。 寝不足でクマもある。 「ボロボロじゃん。かわいーとか何……」 鏡の中の自分は満身創痍な見た目であるのに、姫川はずっと可愛いと囁いてくれていた。平素で可愛いと言われても嬉しくはない。それが姫川に言われると心がぎゅうと締まる。 「ほんとに好きになってくれたんかな……」 「神崎様」 「うわっ、あんだよ、1人で出来るつったろ!  つーかいつからいたんだよ!」 「ご自身の可愛さを鏡で確認されておられる辺りからです」 「殺すぞ」 「坊っちゃまもおられます」 「あ?なんだよ覗くなボケ」 「ボロボロでもかわいーしホントに好きだよ。神崎クン」 すっかり支度が整った姫川が蓮井の背後からニヤニヤと笑みを浮かべて現れる。 「ボロボロにしたのお前じゃん。これお前がやったって  親父にバレたら夕方には山に埋まってるぞ」 「あれ、今日カレシとして紹介されんじゃねーの?  強姦魔として突き出される感じ?」 「どっちでもねーわ」 言いながら、シャツを広げて右腕を通す。 左腕の袖口を見失ってもたつく神崎に姫川が背後から手を伸ばしてシャツを支えた。 「お前、これ1枚?」 「と、あとセーフク」 「薄着すぎねえ?  蓮井。俺のでいーから羽織れるもん取ってきてくれ」 「かしこまりました」 「ふっ、何だよ過保護」 「体冷やして腹くだしたら俺のせいにするだろお前」 「する。罪悪感で支配したい」 「はい出たーヤクザの人心掌握」 「お前も似たよーな事仕掛けてくんだろーが」 「俺のは帝王学っつー立派な教育なんですー」 言いながら姫川は、いつの間にか当たり前に神崎のシャツのボタンをプチプチと止めさせられている事に気付き、神崎の術中にハマっている自分を笑った。 「ん、かっこいい……」 「あ?」 「顔。オレ、姫川がニヤニヤしてる顔スキ」 「褒てんのソレ」 最後のボタンを留めて、ポンポンと神崎の頭を撫でる。 撫でられたまま神崎はじっと姫川を見た。 「あんだよ、そんな好き?俺の顔」 「何でクマも何もねーの?寝てないの同じじゃね?」 「美容に気ぃかけてっから。あと彼女出来たからかな」 「顔、触っていーか?」 「ん?おお。フッ何?」 パーカー片手に戻ってきた蓮井が、すっかり出来上がってしまった二人の世界に眉をあげ呆れ果てる。声をかけるタイミングを失った蓮井は暫く二人の劇場を観劇する事にした。 「顔いーなー。お前」 「なんだよ、なんか買って欲しーの?」 「いや別にそんなつもりじゃねーけど。あーでも」 「ん、なに」 「学校着いたらグルッチ買ってきて」 「いーけど。グルッチの自販機、聖側にあんのダリーな」 「そーなんだよ、だから自販機いれてくれ」 「ん、おう。だってよ。手配しといてくれ蓮井」 「かしこまりました」 作られたきっかけに、蓮井はホッと息を吐いて神崎にパーカーと学ランを羽織らせ頭を下げる。 「さてと、神崎くんパパに会いに元気に登校するぞー」 「だる。行きたくねー」 「お、なに不登校?」 神崎の手を引いて寝室を後にする。 素直に繋がれたまま廊下を歩く神崎は口を尖らせ訊いた。 「つーか姫川お前なんで真面目にガッコー来てんの?」 「リーゼントの居心地を求めに」 「聖じゃ浮くだろ」 「石矢魔程じゃねーけど、お前らいるし」 「ふーん。オレはお前がいるから行ってた」 「何それ可愛い。卒業したらどーすんだよ」 「え?」 「ん?」 玄関。 姫川の腕にもたれかかりながらローファーにトントンと踵を収めていた神崎は姫川を見上げて、それから背後で神崎の鞄を拾い上げていた蓮井も見る。 「え、オレここ住んでいーんだよな?」 「住んでくれんの?」 「あれ、部屋作るって」 「通い妻かと思ってたわ。え、マジで住んでくれんの?」 「うん。てかもう今日もここ戻ってくるつもりだった」 「うんうん、最高」 「承知しました。神崎様のお部屋、急ぎ整えておきます」 「うぇーい、なんだっけ?姫川の肉オナホ部屋だっけ?」 「彼女部屋な」 くつくつ笑う神崎の頭を撫で姫川も小さく笑う。 駐車場に降り車に乗ると、神崎が肩にもたれかかってくる。 昨日のタクシーと同じ。けれど感情が180度違う。 「神崎」 「ん?」 繋いだ手。 指を絡ませ、ぎゅうと力を入れると神崎も力を返す。 「学校でもイチャつきそ」 「別に、いーんじゃね?  石矢魔ん時お前いつも腕に女巻いてたじゃん」 「お前そのポジションでいーのかよ」 「姫川にくっつけりゃなんでもいーわ」 「ふ、お前超俺のこと好きじゃん。可愛い」 「お前はどんぐれーオレの事好きなの?」 「教えてやるから、口開けろ」 「ん?あー、え、ちょ、ま能面執事いるー……ンッ」 財閥企業が世界に誇る車造りの技術は、静音を特に売りにしている。特にVIP用の高級セダンはエンジンを掛けても分からないほどだ。 常に最新車種を運転できる特権を蓮井は誇りに思っていたが、後部座席から聞こえてくる、チュッチュと艶めかしいリップ音を前にその静音性の高さを初めて恨んだ。 「出発致します。到着は8時28分予定です」 ギアをドライブに入れ、流れで見たバックミラーには腕を首根に回してキスに夢中な二人が目に入った。今日は時間が無い為に小回りの利くセダンを選んだが明日からは叩き起こしてでも後部座席に仕切りのあるリムジンにしよう。 いや、運転席が見えないと車内で始めるかもしれない。 「ん、ひめかわ、さすがにソレはまずい、って」 「ちょっと触るだけだろ」 見えていてもか……。 呆れ果てた蓮井はアクセルをいつもより深く踏んだ。 * 蓮井の安全かつ安定した運転は、けれど少し法定速度を上回りながらも無事、待ち合わせ時間に聖石矢魔校門前に車をつけた。 「神崎様、坊ちゃま。到着しました」 声をかけると、頬を熱らせてぐったりした神崎が姫川の腕から解放された。 「続きは帰ったらな」 「じゃあ帰ろ」 「いやいや、お前あれ見ろよ」 あれ、と姫川があごでさす先には校門の少し先に停まる3台の黒塗りの高級車があった。 そのうち1台を守るように立つスーツの強面二人は明らかに 朝の登校風景にはそぐわない。 「六騎生に追い払われる前に行ってやらねーとだろ」 朝から高級車が複数台乗り入れる校門前は物々しい。 生徒だけでなく通行人をも振り向かせていた。 神崎が乱れた服を直しながら渋々降りると、追って神崎の家の車もそれぞれバタン、バタンとドアを鳴らした。 明らかにカタギでないスーツ姿の男達に守られながら、最後に降車した着物姿の凛としたオーラの男。神崎無玄、神崎の父であるその人が姫川の車に歩を進めるとさらに周りの生徒からどよめきが上がる。姫川の車から降りた神崎は、大袈裟な茶番の様相にうんざりとため息を吐いてガンを飛ばした。 『え、あれ恵林気会かよ!スカウト貰いて~!』 『なんで姫川の車から神崎が?』 『きゃー銀髪イケメンの人、朝から見れた~!』 周りの生徒がざわつき、すっかり衆人環視が出来上がった中で── 「親父、この子が姫川クンですよ」 「昨日若を泊めてくれた親友の!」 そう紹介される姫川に神崎は思わず噴いた。 隣に立つ姫川が元凶とも知らず、 『一晩中、メンタルケアをしてくれた良き友人』として 恵林気会の面々に頭を下げられる姫川も思わず笑う。 「初めましてー。ご紹介に与りました姫川です」 「息子が世話になったね、どうもありがとう」 「神崎クンとは昨日から付き合──」 「昨日今日の付き合いじゃねーんだよな!  クラスが同じになったんは聖石矢魔きてからだけど」 「ああ、石矢魔の子なのか。礼儀も気品もあるから  聖石矢魔で出来た友達なのかと思ったぞ」 「こんなフランスパン、石矢魔でしか見ねーだろ」 「いやいや、気合の入ったいい髪型だ」 パンと姫川の肩を叩いてからから笑う無玄は、けれど眼底では姫川をじっと見定めていた。 心内を射抜かれるような鋭い眼光。下手な嘘は通じない。 意を決めた姫川は神崎の肩を抱き寄せ言う。 「俺と神崎の希望で今日から俺の家にいる事が増えます。  俺も旧家の跡取りなので下手な遊びはしません。  もちろん神崎にもさせません。  執事やメイドが生活のサポートにつきますので、  そちらの家ほどではありませんが困り事はありません」 「うお、なに。真面目」 「それは長期的に君の家に泊まると言うことか?」 「はい」 「………」 「え、なに、ダメなんかよ?」 黙りこくる父親に神崎が慌てる。 姫川を見て、それからもう一度表情の硬い父親を見た。 無玄も姫川の目を見て、それから神崎を見る。 「……姫川君に任せよう。はじめもバカじゃないだろう」 「あ、なに?」 「お許しありがとうございます」 「必要なものがあれば何でも支援しよう」 「恐縮です」 もう一度、強い力が姫川の肩を叩いた。 「はじめをよろしく頼むよ」 「これからも若をよろしくお願いします!!」 無玄が踵を返す。見守っていた構成員達も声を揃えて礼をし、車に乗り込み連なって発車した。 蓮井も去るとギャラリーの生徒も日常へ溶けていく。 「ヤクザこわ」 「あ?」 「お前もさ、昔っからいい目してんなと思ってたんだよ」 「ん?おう」 「でもまあ本職の、しかも親玉ともなると桁違いだな」 「何の話?」 「どこかのバカと違って誤魔化しは通用しねーって話」 「ふーん?よくわかんねーけど」 「そのままのお前でいてくれ」 大きくため息をついた姫川は神崎の頭を撫ながら思う。 ──恐らく神崎の父親は俺達に何かあった事は見抜いた。 息子がボロボロになって帰ってきた原因ではあるが、今は本人が望んで嬉しそうに仲良く一緒にいる。目だけで全てを悟って赦した度量に姫川は感心した。 「おい、アタマ撫でんな。学校だぞ」 「こんだけ見せ物になってんだ。もーなんでもいーよ」 「いつかバレるから?」 「なんなら今日バレるだろ」 「なんで?」 「俺の事見過ぎ、俺にくっつきすぎ」 「……ダメなんかよ」 「いいや?教室でセックスしてもいーね」 「ふ、退学なんぞ」 「そしたら毎日ヤれんな」 「てか帰ろーぜ、さっきの続き」 「あーうん。ラブホいく?」 「え、行きてえ!おごり?」 「奢り」 「うえーい。もうオレ財布いらねーな」 「そのうち上納金も納めさせられそーだな」 「お、いーね。骨までしゃぶってやる」 「喉まで突っ込んで吐かせてやる」 「それは昨日散々したろ。今日は優しくしてくれ」 「どーかな。努力はする」 「期待してるからな♡」 姫川の腕に抱きつき、肩に頭を乗せる。 登校中の生徒にチラチラ見られても気にせず、ぴったりくっついてタクシーに乗り込んでいく様は案の定、その日のうちに二人付き合い始めたという噂が広まったのだった。 ──そして翌日。 神崎からふんわり香る、姫川の匂いは周囲を紅潮させた。 加えて姫川と神崎の薬指に堂々輝くペアリングは、烈怒帝瑠女子会の格好の話題の的だった。 「理想のカレシとかどーせATMってそーゆー事すか!  メガバンク、や、大蔵省じゃねーっすかぁ!  神崎先パイ、パねえ~!」 「いや別に金目当てじゃねーしオレ」 「あそっか!神崎先パイんちだって城みてーすもんね!」 「でも神崎アンタそれ指輪。貰ったんでしょ?」 「そのブランド……車買えるぐらいのかも……」 「これは俺が神崎にハメさせたくて押し付けたんだよ。  ねだられてもねーし、買わされてもねーから」 「ぎゃ~!しかもめっちゃ愛されてる~!  先パイすげぇ~!いーなー!」 「おー羨め羨め~」 姫川の隣で機嫌良く柔和に返す神崎は、周囲もフワフワした気分に誘った。 これまでに以上に和気あいあいとなったクラスの雰囲気は、教室でイチャつくようになった二人を当たり前の景色として溶け込ます事に成功したのだった。 END




・ブラウザバックで戻る・