色は思案の外
天下の不良校、石矢魔の保健室は薬品の匂いよりもシンナーやタバコの匂いが馴み深い。 保険医が生徒に怯えて逃げ出して以降、管理者不在の保健室は今やベッド付き集会場として人気のスポットだった。 とはいえ、使用出来る生徒はほとんどが3年という現状があった。下級生は3年になったら使えるのだと夢みる者、3年生徒に取り入って使う者に別れる。 東邦神姫のように教室を根城にするまでの権威が無い生徒のオアシスである保健室は、授業中であっても盛況を極め、賑やかな事が常だった。 そんな、いつも騒がしいその場所がシンと静まり返っている様子に陣野は足を止めた。 「ここか」 保健室が静かである理由はただひとつ。 そこに東条英虎がいるからだ。 東条がひとたび保健室の戸を開けば割拠していた生徒達は蜘蛛の子を散らすかの如く退散する。 東条の前ではこのオアシスは勿論、例え校外で出くわしても場所を譲る事が生きる術だ。 東条が『場所を譲れ』と言った事は一度も無い。 けれど東条を前に場所を譲る、もとい逃げ出さずには居られない。それ程までに石矢魔最強への畏怖は強かった。 そんな空間へ堂々と立ち入る事が出来る唯一の人間である陣野は、腕一杯に抱えた大学受験用の参考書の山を脇に抱え、戸を叩く。 「入るぞ、虎」 一応は声を掛けてから。 余す所無く下劣な落書きに彩られた戸を引いた。 「虎、携帯忘れたろ。静が連絡付かないって怒って──」 「おお、かおる」 陣野の姿に東条はヘラと笑ったが、反対に陣野は視界に飛び込んできた光景に息を飲んだ。 小脇に抱え込んだ参考書の山が無ければ思い切り頭を抱えていた所だ。 「虎……」 昼寝でもしているのだろうという思惑は大きく外れ、ベッドでセックスに興じていた東条に陣野は頭を振る。 が、セックス事体はさして問題では無かった。 高校生だ、有余る性欲は仕方がない。 家やホテルが使えないのだから学校で。 というのも陣野の許容の範囲だった。 けれどもしかし、その相手が陣野の許容を超えていた。 「なんで神崎なんだ……」 神崎の力ない視線が陣野を見た。 人のセックスをまじまじ見る趣味は陣野には無いが、口に押し込められた布で声を殺され、東条の下で顔を青くしている神崎から目が離せない。 陣野が認識している神崎と言えば、大して強くは無いが嗜虐性の高い恐怖政治で勢力を伸ばし、数の多さで対抗勢力を潰しに掛かる関わりたくない存在だ。 そんな面倒な相手に東条が手を出す事も理解に苦しんだが、何より容姿も体つきも良いわけでない神崎に正常位を選ぶ幼馴染の趣味を疑った。 (神崎なんかの顔を見て萎えないのか?) 脱力のあまり持っていられなくなった参考書の山を近くの机に置き、眼鏡の隙間から目頭を抑えながら「待て待て」と手の平を東条に向ける。 「虎、説明が欲しい」 「む。説明?」 怒りを露にする陣野を袖に、東条は構わずマイペースに神崎の足を抱え直し腰を突き挿れる。 突き入れるたびに頭を振ってうめく神崎を満足そうに見下ろしながら東条は続けた。 「ここで腹出して寝てたんだよコイツ」 「で?」 「で、誰もいなかったし遊ぼうかなって」 「だからって何でそんな厄介な奴と」 腹が出ていたから、と言う名残をそのままに、体に余る大きめの白いシャツは首元まで捲り上げられ、そのまま乱雑に口に詰め込まれている。 露になった肉薄の腹が忙しなく上下していた。 「ん、ぐ……っんんッうう、んうぅ」 陣野が来ようが律動をやめない東条に、揺さぶられるがままの神崎が陣野にすがる目を向けた。 苦しそうに呼吸を乱し、助けてほしいと言わんばかりに陣野へ力無い手をウロウロ伸ばす。 「なあ虎。まさかだけど」 自分に向かって伸ばされた神崎の手首を掴み、ぐいと目の前の東条の眼前に差出し訊く。 掴む力の痛みに神崎の眉根が寄った。 「合意無しか?」 「その何だ、溜まってたし」 「答えになっていない」 「コイツが珍しく一人で寝てたからヤった」 「一人で寝てた、ね」 東条の言い分に陣野は目を細めた。 神崎が根城である自分の教室から滅多に出ない事は陣野も知る所だった。 ソファから何から持ち込んでいる根城はこの荒れた保健室よりも居心地がいいはずだ。ベッドを使いたかったのだととしても護衛がいない事は不自然だ。 神崎の根城があるのは4階だが、2階の踊り場からすでに神崎一派は跋扈している。 その人数は階を上がるにつれ増え、教室の前にはもうヤクザ事務所さながらの警戒ぶりだ。 移動ともなれば側近の城山と夏目はもちろん、数人を引き連れ威光をふるう。まず神崎が一人になる事は無いのだ。何より東条の嘘を決定的にしているのは、神崎の腹に残る赤黒い跡と血が滲む口端。合意どころか無理矢理である事は容易に察しがついた。 が、実は付き合っていて今回は少し強引にしただけで、普段から関係があるのなら問題は無い。 それなら後日、神崎一派がお礼参りにくる面倒も無い。 神崎の口が塞がっているのも、首を振って嫌がっている素振りもプレイの一環なのだろう。 陣野はそんな淡い期待を持ったが、青ざめて本気で嫌がり、助けを求める神崎の姿に期待は打ち砕かれた。 「一人だったって所までは本当だけどその後は違うな?」 図星を突かれた東条は、ようやく腰を止めた。 バレたかと頭を掻き笑う。 腹の中を突いていた律動が止まり、神崎が安堵に大きく息を吐いた。 「こいつ一年校舎の自販機前にたまに一人でいるだろ。 そこで拉致ったんじゃないか?」 神崎の頬に残る幾筋の乾いた涙の跡に下には、紅く腫れる頬と切れた唇があった。 いつもの腰巾着さえいなければ訳もなくねじ伏せられる。 きっとそんな所だろうと、ベッドにぐったり沈む神崎を見下ろし陣野は思う。 「ハハッ当たりだ。殴ってここに持ってきた」 神崎を肩に担いで現れた東条に、それまで保健室にいた生徒はさぞ恐怖しただろう。 陣野は心の中で合掌した。 しかし、他の生徒へ同情していられるのもここまでだ。 陣野が神崎が厄介な相手だと思う理由は二つ。 まずひとつに、家庭環境で培われた嗜虐性と巨大勢力。 そしてふたつ、神崎が姫川と懇意にある事だった。 「姫川にバレたらまたモメるのわかってるか?」 「また?」 「まさか忘れたのか」 * 東条のバイト終りと陣野の予備校終りが重なる日は、公園の街頭の下で他愛もない話をしながら、東条のバイト先の残り物で一緒に遅い夕食を摂る事が定番だった。 そんな二人の前に、神崎を連れ立った姫川が現れたのはつい最近だった。喧嘩をふっかけに来たにしては、神崎は既に片目を腫らし、姫川の背後に半ば隠れる様子に陣野は首をかしげ用件を訊いた。 『テメーん所の大将が俺のオンナを犯した』 静かに怒りを燃やす姫川はそう簡潔に投げた。 『うん?そうなのか、虎』 『女?なんだっけ』 『人違いじゃないのか?』 『かおる、お前の焼きそばも食っていいか?』 『というか報復の加勢が神崎一人じゃ虎には勝てな──、』 『カンザキ?ああ。オンナってそういう意味か』 そこでようやく東条が焼きそばから顔を上げ、姫川の背に隠れ気味の神崎を視認した。焼きそばを陣野に渡し面倒臭そうに頭をかきながら、すまんと姫川へ頭を下げた。 『付き合っていたとは知らなかった』 『あ?彼氏がいるつって逃げたのに ボコられてヤられたつってんだぞ!』 『すまんすまん。でも顔は殴ってないぞ』 『それは浮気と思った俺がやった』 『虎、話が見えない。これはどういう』 言い終わる前に繰り出された姫川の右ストレートと、それを黙って受ける東条。それから姫川を恨めしげに見つめる神崎という図に陣野の背筋に冷たいものが走った。 姫川が言うオンナは神崎だ。 その神崎に何故だか幼馴染が手を出して、神崎は神崎で恐らく浮気を疑った姫川に殴られてのこの状況だ。使いたくない所で頭を回転させてしまった陣野は自分を呪った。 『最後にもう一回訊くぞ。浮気じゃねーんだな?』 神崎を問いただす姫川に、自分は女をはべらせておいてよく言うと陣野は他人事ながら思う。 だから言ったろとむくれる神崎はさておき、素直に強姦だと認める東条に陣野が呆れたのはつい最近だ。 * その出来事を東条はすっかり忘れているのだ。 頭を痛めるだけ損だ。 陣野は頭を振って深く突っ込む事を諦めた。 「まぁあれだ。人のモノに手を出すのはよくない」 「でもコイツだってそこまで嫌がっちゃいねーだろ」 「そうは見えないが……」 と言い掛けて言葉を止める。 会話のせいで止まった東条の律動に、もぞもぞと東条の下で体をよじり腰を自ら押し付ける神崎を陣野は冷めた目で見下ろした。 「レイプされて感じてりゃ仕方ないな神崎も」 ため息と共に陣野は神崎の両手首を掴み上げ、 万歳の形で布団へ縫い付けた。 両手の自由を奪われた神崎の怯えた目が陣野を見上げる。 「静が呼んでる。放課後手伝いに来てくれって」 「お、そーか。よし神崎、あと少しガンバレよー」 「んッ!んんんっ!ううっ、ぐっ、んぅ……!」 神崎の足をぐいと左右に割り開き、繋がりを力任せに奥まで貫き入れる。それから腰を掴んでただただ自分の気持ちのいいように猛った性器を叩き付ける。 イくためだけの遠慮のないピストンに神崎の喉から悲鳴が上がり目に涙が滲む。 苦しい。息も出来ない。 身体の奥深くに叩きつけられる性器が擦れて痛い。 圧倒的な力で道具のように乱雑に揺さぶられると恐怖が増して痛みの中にあるわずかな快楽も感じ取れなくなる。 そうなるとただただ暴力が続くだけ。 焦る神崎はなんとか快楽に集中しようとするも、強い力への恐怖が勝ち呼吸が上がる。 「んっぐ、ううっ……ッ、んんぐッぅ!」 「ん、過呼吸なるぞ。落ち着け神崎」 苦しそうに上下する胸にさすがに哀れに感じた陣野は両手の拘束を解き、口に詰まったシャツを引きずり出す。足りなかった酸素が一気に肺に入ると、神崎の焦燥も幾分か落ち着き、震える手で自分の胸を撫で下した。 「あっ!はっァあっハァ……ッ」 「ん?何で外すんだ?騒がれたら面倒だぞ」 「神崎だって今やめられても困るだろ。なあ?」 陣野は神崎の耳元で囁きながら、カウパーを滲ませヒクつく神崎の性器の先を指でいじる。 「あっ、だめ……やめろっ触ん、なァ!」 「何で。さっさとイった方が楽だろお前も」 先走りを塗り込むように亀頭をなじる陣野の手に神崎の目が釘付けになる。ニュルニュルと、まるでローションを塗るかのように滑りよく走る節くれだった手。 耐えきれず上ずった声をあげた。 「ちがっ、だめ、だって……ば、やっマ、ジ離せ、ッて」 「暴れんなよ神崎」 逃げる腰を東条は掴みなおし、さらに深く力任せに怒張を貫き挿れた。腸壁を押し拡げながら深くまで上ってくる勃起にビクンと神崎の体が大きく弾み揺れる。 「あぐっ……あああ!あ、あ!深いぃ」 神崎の震える手が『苦しい』と腹を抱え込み、溜めた涙を撒き散らして嫌だと頭を振る。 怯え乱れる神崎を見るに、あの女好きの姫川と付き合っている割にはセックスに慣れていない。 陣野はそんな印象を持った。 可哀想だ。せめて気持ちよくしてやろう。 亀頭をいじるのを止め、竿を擦ると神崎から悩ましげな声が上がる。 「ん?気持ちいーか?」 陣野には他人の男性器を擦る経験は無かったが、どうやら下手では無いらしい事は顔を真っ赤にしてくったり目を蕩けさせる神崎が物語っている。 「手ぇ、手やめっ……こす、んなぁ!」 「何をそんなに嫌がる事がある?」 「い、イくから……!東、条ながっ、いからァ、 先いっ、たら辛、……ッ、あ、あ!ァ」 ああ、と陣野が神崎の意図を汲み取った頃には手の中でビクビク脈打っていた性器を絞るようにシゴいた後だった。 「あっ、アああ!も、だめ、ッや、ア、い、イぐ……」 神崎がきゅうと目を瞑る。 陣野の作る指の輪からジワと精液が溢れにじみ、 神崎の精液がボタボタ腹の上に落ちていく。 「うわ……」 自分の手に乗る神崎の精液に陣野は目を細めた。 思わず神崎の頭で拭う。 ついでに男にイかされた男はどんな反応なんだと顔を覗き込めば、女と大して変わらない。 オルガズムで焦点の合わない目が宙をさ迷っていた。 「おお、かおる凄いぞ。神崎の奴すっげぇ締めてくる」 絶頂に収縮する腸壁。 絡み付いてくる淫靡な肉壁の脈動に東条が沸く。 未だ絶頂で体を硬直させる神崎に構わず収縮する壁にバチュバチュッと性器を叩きつけた。 「い、いた、痛いっ、…う!うう」 尻を高く、くの字に折られた体に怒張を叩き込まれる。 腹に乗った精液がタラと脇腹を伝ってベッドに落ちていく。本能しかない交尾の如くな荒い律動に痛いと泣く神崎を陣野は哀れんだ。 「はーっ、はーッァあ、ううっ、や、やだっ東、じょ」 絶頂に収縮する腸壁を、東条の堅く勃起しきった性器が強引に出入りする。前立腺を押しつぶし、それから絶頂に縮む括約筋を無理やり押し拡げ出て行く。身体の意思を全て無視した東条の動きは、神崎から生理的な涙を溢れさせ続けた。 「イった、もっイった、頼、ちょっとま、てッあうぅ」 「射精しただけだろ?中イキ出来んだろッ、お前」 「ちが、ナカも、いま……ッイっ、……たぁ!」 絶頂後の身体に叩き込まれ続けられてもただ苦しい。 姫川に教えられた溶けるようなセックスとは対極だ。 痛い、恐い。やめてもらえない。 両足が小さく痙攣を始めた。 「まっ、て、ナカくる、しい゛止ま、でぇ」 「やだね。今が一番ナカ気持ちいいし」 「へぇ、この辺か?」 激しい運動をした後のように上下する腹。 陣野はそこに手を置き、ぐっと体重を掛けた。 「いっ……っ!?あぐっアッやめ、やだッ」 「あ、かおる、それすげえイイッ」 より一層狭くなった腸壁に東条が深く息を付く。 一方で神崎は、東条の性器の形がありありと分かるまでに深く味わされ、絶叫し涙声を上げた。 「まだイってるのか?」 陣野の手の下でヒクつく腹。グスグス鼻をすする神崎が陣野を見上げる。真っ赤に染まった顔が小さく頷いた。 「お、れ、中でイ、くと長、くて、」 こんな時、姫川は止まってくれる。 頭を撫でて、気持ちよかったなと優しく笑ってくれる。 それから指を絡ませ繋いでキスを落としてくれてる。 幸福感と溶けるような快楽を膨らましてくれる。 「うう、ア!やだぁ、止まっ……と、うじょアッあーッ」 そんなセックスしか知らなかった神崎にとって、東条のセックスは恐怖しかない。 もう嫌だと腰をよじって逃げても、すぐに捕らえられ再び深く打ち込まれてしまう。逃げる神崎の身体が浮く程に激しく突き上げるのが東条のお気に入りだった。 中が痙攣するのは元より、そうするとすぐに泣いてしまう神崎が興奮材料になる。 力任せに貫く度に肉のぶつかる乾いた音が派手に鳴った。 「うあぁ、あっ東、じょぉ、いやっ、だ!」 「ん」 「おね、が……やあ、だ、めっだめ」 「おー、がんばれー」 「も、うほん、と、怖……怖、いか、らァやめ、てぇ」 ついには泣き出してしまう神崎に陣野はぎょっとした。 顔を真っ赤にして、ポロポロ涙をこぼす。 それを両手の手の甲で拭って鼻水をすする。 ハの字に狭まった眉が悲哀を誘った。 「ひっ、や、っやだ、ふっ、……ううっうああっ」 普段の神崎からは想像もつかない幼い泣き方は流石に胸をチクと刺すものがあった。 「ふっ、うっううう、うえ、こ、わ、いい」 「ハハッ、いいぞ泣け泣け。震えて擦れる」 「ひ、めか、わぁ、たす、けて、ぇ……!」 「虎、少しは止まってやってもいいんじゃないか」 陣野の親指が頬に伝う涙を拭う。 無意識の行動にハッとしたが、まあいいかと頬を撫でる。 陣野のやさしい指の動きに姫川を感じた神崎がスリ、と頬を擦りつけた。その一瞬、陣野の腰に痺れが走ったが、頭を振って気のせいだと気の迷いを霧散させた。 「お前、普段どんだけ姫川に大事に抱かれてんだよ」 確かに陣野から見ても東条のセックスは乱暴に見えたがレイプというには神崎の快感も拾ってやっている。神崎も気持ちいい所は反応で伝えて協力的だ。 無論痛みから逃れて、早く終わらせる為だがセックスに応じている様に錯覚させてしまう。 男を受け入れる事に慣れているからこその対処なのだろうが、だからこそヤれる相手と勘違いされて2度もターゲットにされてしまったのだろう。 コイツも悪い。 いや神崎をそんな身体にした姫川が悪いのか? 陣野はそう分析しながら、神崎のぷっくり勃起した乳首を指の腹でこね潰しクリクリ指で摘む。 驚いた神崎が目を見開き陣野を見上げた。 「あっ、なっなにすッん、……っ」 「いや、女役ならココも感じるのか気になった」 「揉んで大きくしてやれよ、かおる」 「なるのか?」 姫川の奴、女は牛のような乳をしたのばかりを連れているくせに。陣野は乳首を摘み上げ強引に引っ張りあげる。 「いっいたい、っやだ、やめ、ろっ」 「はは、Aぐらいにはなったんじゃないか」 「は、離……っいたっ、いたいっ……」 神崎の震える手が陣野の腕を掴み、必死に手を引き剥がそうとするも使い果たした微力ではどうにもならない。逆にただ陣野にしがみ付いて、もっとと催促している様にも見える。 じゃあ期待に応えて、と陣野の指が円を描いて突起をすり潰すと姫川に教え込まれた場所は快感を拾い始めてしまう。 「うううっ、助け……ったすけ、てぇ」 「何で?気持ちいーんだろ?」 「ひめ、かわぁ、うっうぇぇ」 逃げ場のない責め苦に姫川の名前を呼んで泣く。 顔を腕で隠して泣く神崎の姿は東条の勃起をますます堅くさせた。 「ううっ、ま、またでかくな……っ」 腹の中でふくらむ性器。 顔を青くした神崎から涙が一塊で零れた。 「そんな泣くなよ。もう俺もイきそうだからよ」 「ほ、んと……?」 「腹に力いれたら早く終わるかもなぁ?」 「うっ、わか、たから、は、や……く」 「かおる。神崎の足、拡げててくれ」 「ああ」 素直に腹に力を入れる神崎に東条の征服欲が膨らんだ。 力が入って閉じてしまった足を陣野が左右に大きく割る。 あらわになった、根元まで男を深く咥え込む神崎のヒクつくアナルに陣野の喉が鳴った。 「ん、最後までやるぞ神崎」 尻を掴み、杭打ちのような叩きつけるピストン。 バチュバチュッ──。 神崎の体を大きく揺らした。 「はっ、アぁ あ、あ、ああッ?!ひ、ぎ」 激しさに神崎の体がガクガクと人形のように揺れた。 目をきつく閉じ、震える両手はふんわり重なって唇の前でカタカタ震えている。 「ま、まだ、ぁ……ッも、や、だぁ」 「ん。がんばれ、神崎」 東条は穏やかな声で囁き神崎を横抱きにかかえた。 陣野の手から神崎の足が外れ、神崎の体がズルと東条に引き寄せられ更に繋がりを深める。 「ううッ、ああ」 深い所に性器を埋め込まれた神崎は思わず繋がりを見た。 見慣れた姫川の性器とはまた違う。 自分の体にずっぷりと打ち込まれそれが乱暴に、ただ獣の交尾のように無感情に動き出した。 「あ゛あア゛!ひ、ぃあ、あ、あ」 前立腺を持ち上げるように奥深くから勃起で揺さぶられると、もはや言葉を作る余裕も無く声だけが漏れる。けれど、痛みと恐怖の中にナカを掻き回される快楽もあった。 相手を姫川だと思えば痛みも薄れるかもしれない。 目を閉じてみる。 機嫌が悪く、怒らせてしまったから乱暴にされてる。 しかしそう思うと今度は姫川に乱暴にされる悲しさが神崎の心を刺して涙が溢れてくる。 「フッ……ふ、ッ!」 東条も東条で、喧嘩の時のようにただただ目の前の興奮に没頭していく。女には手加減してしまって出来ない自分の快楽を優先した杭打ちも、多少は頑丈な神崎なら出来る。 それに加え、自分の腕の中で「ひめかわ」と何度も呟く神崎の健気さに腰が痺れる。 「あ、あッア……く、る……し、」 といっても息も絶え絶えだ。 東条の野獣のような突きに耐えるのも限界だった。 パンっ、バチュバチュッ、パン!パンッ!ズッズッ──。 「あ、ぐッ、いた、こわれ……ひめ、かわっ」 壊れる、もう穴が壊れる。 ローションが無いせいでアナルが東条の性器に引っ張られ、かと思えば深く突き入れられる。 そのチリチリした入口の痛みが穴を破壊されてしまいそうな錯覚に落としていた。 そう伝えたくとも、休みなく打ち込まれ続ける性器が前立腺を叩き続けていて舌が震えて言葉にならない。 ただただ脳裏に描いた姫川の名前を呼んだ。 叩きつけられ過ぎてベッドからズルッと落ちかけた身体を陣野が受け止める。 「うっ、う、あっ、あっア゛~~あ!」 「気持ち……いーぞッ」 陣野から見ても可哀想なぐらい乱暴に性器が出入りする。 混ぜられてクリーム状になった白濁が派手な音を鳴らす。 その手加減の無さはもうオナニーだった。神崎を使い捨てのオナホールとして扱うがの如く。 さらにピストンの速度が上げる。 パンッパンパンッグチュッヌチヌチヌチッ──! 「っは、出る……ッ」 射精が近い。腰を引き、ズロッと全長を一気に引き抜く。 それから神崎の肩を抱き止めながらプレスするように一度にその全長を叩きつけた。 ビキビキに反った血管浮く怒張が、逃げ場なく身動き出来ない神崎の腸壁の肉を掻き分けて内臓を押し上げる。 「あっああッああ、!あ゛──ッ」 「出す、ぞ」 東条の体重が神崎に乗る。 重さに苦しんで身を捩るが、抗う事すら出来ない強い力に抱きとめられて少しも動かせない。 「う、あ、ああ、ナカ、や、だぁ」 逃げる尻を黙らせるようにグリグリ怒張をねじり込む。 濃く、量の多い精液が神崎のナカに勢いよく飛び散った。 ビュクッビュルビュル──ッ! 「ふっ、あ……あ、」 腹の中にダクダクと注がれ溜まっていく精液に神崎は目を細め深く息を吐いた。 「はっぁ、おっ終わっ、たぁ……」 「お、結構出るな」 残る最後の一滴をも注ぎこもうと、 小便を振り切るように神崎の腰を掴み振った。 「っあ、ああ!」 不意打ちの刺激に神崎から高い声が漏れる。オナホどころか便器さながらのような扱いを受けても色のある声を上げるのか……。呆れる陣野に東条が言う。 「かおる。神崎の顔、あげさせてくれ」 「ん?ああ、こうか?」 何をしたいか察した陣野は苦しげに息づく神崎の両頬を包みこむようにして上向かせ、ついでに唾液でベトベトになっている口を指で大きく割り開かせた。 「ン、あっァ!」 腹を拡げ圧迫していた性器が中を擦りながらズルと抜けた。排泄の感覚に神崎の眉根が寄り腰がピクと跳ねる。 ぽっかり拡がったままの穴から、ゴプッと音を立て精液が流れ落ちる。震える足を閉じても流れる精液は止められない。 神崎が羞恥で顔を背けようとするも、頬を包み込んだ陣野の手がそれを許さない。 「離……!?んんっふぐっ?!」 「噛むなよー」 まだ緩やかに角度が付いた東条の性器が口一杯に侵入した。 自分の体液と、東条の精液に濡れた性器に驚いて背けようとする顔を陣野が掴み、親指でさらに深く口を開けさせる。 「ふーっ、ぅぐ、んんんーッ!」 「神崎舌邪魔。どうせ姫川に教育されてんだろ。 早く終わりたいならしゃぶれ」 神崎の顔に座るようにまたがる東条は金髪を掴む。 喉まで突き入れられた神崎の足がバタバタと跳ねた。 「うっ、ううーッんぐゥ」 神崎は涙ながらに姫川に教わった通り、口を窄めて舌を這わせ精液を吸う。きつく目を閉じ必死に舌を動かした。 あごに痺れが走り、飲み込みきれない唾液が陣野の指に伝った頃ようやく東条が掴んでいた頭を離し、優しく撫でながら腰を上げる。 「あー……やべえ。良かったぞ神崎」 「う、うるせ、死ね、よ、強姦っ魔……ァ」 目の前にある赤黒く体液にぬめる凶器。 二度も無遠慮に犯された絶望に神崎は顔を背けた。 抗えない悔しさと、姫川を想うと必死に堪えても緩みきった涙腺からはポロポロ涙が零れた。 「うっうう、う……クソ、が」 「あーあ。泣かせた」 陣野が冷たい視線を東条に投げるも、ヘラッとした笑顔が返って来るだけ。 東条の下では泣いてないと虚勢を張る神崎がグスグスと鼻を鳴らして腕で涙を拭った。 「まったく……。それより急がないと静御前様が怒るぞ」 「あー」 東条は困り眉を浮かべ頭を掻いて、肩を震わせ泣く神崎を見下ろしそれから陣野を見た。視線だけで長年一緒に過ごしてきた幼馴染の言いたい事は嫌でもわかる。 「はあ……。分かった。片付けておく」 「ハハッ悪いな。じゃあな、また頼むわ神崎!」 悪戯気に笑い、乱れた服を調えベルトを締める。 腕で顔を覆う神崎から反応は無い。 その腕を掴み上げ虚ろに開く唇に舌を滑りこませると、神崎の体が固まり、ハっとして東条の肩を叩き押す。これまでに無い神崎の強い力に東条は顔を上げた。 「口は、ホントにヤダっつってん、だろ……ッ!!」 「姫川に操立てしてんの健気で可愛いよなぁ」 「二度とオレに触んじゃねえ!」 「覚えてたらな。じゃあ、かおる。あと頼んだぞ」 呆れ顔の陣野が口を開く前に東条は保健室を後にした。 「最悪……」 乱れた呼吸のまま呆然と天井を仰いで放心している神崎と、どうしたものかと頭をかく陣野。 保健室には見慣れない組み合わせが取り残されていた。 「あー神崎」 改めて見下ろすと、痙攣に震える足はベッドに投げ出されたまま。虚ろな目もトロンとまどろんでいる。ここで落ちられたら面倒だ、陣野は神崎の赤みに熱った頬を軽く叩いた。 「おい、城山呼ぶか?」 姫川は論外として、夏目は面白がってさらに面倒な事になりそうだ。消去法で城山を選んだが神崎は首を振った。 「ひ、とりでいい……てかお前も消えろ」 「そんなナリでどうやって帰るつもりだ?」 「いや、あー、その…………」 神崎はフラフラ起き上がり気だるく座り込む。 丸まった掛け布団を羽織り、バツが悪そうな目で陣野を見上げた。 「抜くから一人にしてくんねぇ?」 「は?」 「だからァ……2回目の途中で終わって中うずくんだよ。 それか……あーいや、やっぱいい」 言いかけ口ごもる神崎に、いいから言えと陣野が先を煽ると、目を伏せた神崎が蚊の鳴くような声で漏らす。 「お前が挿れてくれてもいーけど……」 「……なんだって?」 さっきまであれだけ泣いてた癖に。 呆れた陣野が神崎を見下ろすと、その視線にすら期待で神崎の腰が揺れる。 いくら男同士といえど目の前でセックスを見せ付けられて興奮して無いと言えば嘘になる。 かといって、さっきまで意図せぬ行為にわんわん泣いていた神崎を抱くというのも気が引けた。 何より姫川という相手がいる。 「姫川と付き合ってるんじゃないのか?」 「うん」 「じゃあ帰って姫川とヤれよ」 「今してぇもん」 「そんな簡単に足開くつもりか」 「性欲処理だからセーフ」 「いやセーフとかないだろ」 「お前は寝てればいーから。 オレが上に乗っかって姫川だと思って動くし」 「つまり俺はバイブ扱いで浮気には入らない、と」 迷い無く頷く神崎に、2度も強姦された合点がいった。 バカだ。 バカなんだコイツ。 心の中で一人衝撃を受けた陣野はずり下がった眼鏡を上げながら神崎を見た。 自分が主導権を握っているように話しているが、こんな挑発をすれば(神崎本人は挑発と思っていないようだが)今ここで押し倒され、また手酷いセックスをされかねないのだ。 それなのに──、 「お前ン所の大将の被害者だぞ、責任もって慰めろよ」 なんてぶっとんだ事を言う。 バカの日本語は理解に苦しむ。 神崎本人がこう言うのだ、何も遠慮は無い。 こっちもオナホ扱いをしてしまえばいい。陣野は意を決め、神崎を抱き上げると隣のベッドへ放り投げた。 「いてっ」 「お前の言う通り慰めてやる」 上着を脱ぐ陣野を熱が帯びた神崎の目がじっとり見つめた。 ベッドに座る神崎の前に立ち、ベルトを緩め言う。 「手を使わないでやれ」 「え、お前もサドっ気あんの?」 「姫川らしいだろ」 「あー。そーゆー事か」 言われた通り、歯でジッパーを下げ下着の上から舌で形をなぞる。舌でこねくり、犬歯で甘噛みをしながら、徐々に服を下げていく。 「ふっ、はやふ……ほしい、」 東条が入っていた熱が残るその場所が目の前の陣野に期待してうずく。 ゆっくりと陣野の形が現れてくると、アナルが物欲しげに収縮して腰を揺らした。 それを必死に耐え、歯で器用に下着をずり下げる。 「はっ、あ、でか」 ゆるやかに角度がついた性器をパクッと躊躇なく咥え、舌を絡ませ吸う。 「おい、待て。がっつくな」 神崎の頭を引き剥がすと、唾液にぬめる肉茎が神崎の口からずり抜けた。熱に浮いた目が陣野を見上げた。 「んあ……なんで?」 「いやお前に咥えられてちょっと引いた」 「大丈夫だって、オレ自信あるから」 まるで雛鳥がエサをねだる様に口を開けねだるので、陣野が怖々舌の上に先端を乗せると、神崎が身を乗り出して深く咥え込んで舌を這わす。 呼吸が辛くなると、一度口を離しチュゥと先端を吸い、裏筋にキスを落としてから、レロとカリに舌を這わす。 ひとしきり舐めまわすとまたぱくっと咥え、口をすぼめ喉まで咥え込み頭を揺らす。 「…………フェラうまいな、お前」 陣野の経験人数は数える程だったが、神崎のフェラはそれまでの誰よりも上手い。 表情が見たい。金髪を軽く押して顔を上げさせる。 「んっやりづ、らひ」 亀頭にしか舌が届かなくなった神崎は、滲む先走りをチュゥと吸って亀頭へ舌を這わす。 生き物のように這い回る神崎の舌に陣野の喉が鳴った。 頭を離すと、神崎はまた口一杯に咥え込み奉仕を続ける。 「ん、っふ、ンッン」 「さすが姫川。男にここまで仕込むか……」 ここまでのフェラを仕込むのに一体どれぐらいやらせたのだろう。それもあの神崎相手に。 飼い慣らせるような気性では無い。 そんな神崎が服従するギャップは電流のような征服欲を陣野に与えた。 最初こそ東条の趣味を疑ったが、これは経験するとわかる。ハマる。 「もういい」 何度も頭の角度を変え、一生懸命気持ちいい所を探る金髪を陣野は撫でた。 膝まで落ちたズボンを脱ぎ捨て、ベッドに乗り上げると神崎を押し倒し足を抱えた。 「あ、違ぇ。オレが上乗る」 「どっちでもいいだろ」 「いや気持ちいーとこ当てたいから」 「俺が当ててやる」 「まずはオレ乗って場所教えてやるって」 「うるさい」 わめく神崎を振り払い、陣野の指が神崎の赤くなったアナルを左右に拡げる。 「あっ、だ、だめそんな見るなって!」 「見ないと出来ないだろ」 穴を隠そうとする神崎の手を払いのけ、流れ出てくる東条の精液を掻き出しシーツの端で拭う。 「うう……も、もういーから」 排泄の世話をしてもらっているかのような格好に神崎の頬が羞恥に紅く染まる。 残る精液を捜して体内を無遠慮にまさぐる指が前立腺をかすめる度にもじもじと腰が動く。 指をきゅうと締め付ける内壁に陣野は指を引き抜き、神崎の体を起こした。 「え、やめんの?」 「いやお前上乗りたいんだろ。勝手に挿れろ」 陣野は丸めた掛け布団を背にゴロンと寝転がり、うろたえる神崎の手を引く。ああは言ったものの大方自分から上に乗るのは初めてなのだろう。陣野はまごつく神崎に心の中で小さく笑った。 「ん……」 神崎はまとわりつく陣野の視線から目をそらし、ぎこちなく陣野の上に跨った。 角度を持った性器を自分の穴へ当て、ゆっくり腰を落とす。 「あっ、やっやっぱ……むり」 「はぁ?」 亀頭の先端を少し咥えただけで驚いて腰を浮かし首を振る。いいからと陣野が神崎の両手を引いて強引に腰を沈めようとしても、膝立ちしたまま動かない。陣野はため息をついた。 「どうしたいんだ?」 「挿れたい、けど……その、」 「自分から挿れた事が無いから怖いんだろ?」 「ちっちが……っくない。…………こわい」 「素直でいい」 悔しそうに唇を噛む神崎の頭を撫で逃げ腰を掴む。 女のように薄い腰。 という感想は神崎を悔しがらせるだけなので飲み込んだ。 「手伝ってやる。もう一度当ててみろ」 「う、おう……」 自らの手で穴を拡げ、 後ろ手に陣野の勃起を恐る恐る当てがう。 当てたぞ、と不安気な目で見上げてくる神崎に 陣野は軽く腰を押し上げた。 「アッあ、い、いきなりっ」 体液に濡れた腸壁に滑り、 抵抗無く亀頭が体内に入ってくる。 足を震わせ仰け反って倒れそうになる神崎の身体を陣野の腕が支えた。 「あとは体重を掛けるだけだろ」 「わ わかってるから、ごちゃごちゃ、うるせぇ」 神崎の手が陣野の肩に乗りぐっと体重を乗せた。 そこにじゃないだろと言いかけて、 目の前の欲に上気した神崎の表情に言葉を取られた。 「どうした?痛いのか?」 眉間に皺を寄せる神崎に訊くと違うと首を振る。 「自分のタイミングでいれんの、 初めてだから勇気、いる」 切羽詰った声がそう言った。 神崎に”色気がある”なんて言葉を使いたくは無かったが、 陣野は素直にそう思った。 身体は慣れていても、 まるで処女のように怯える様が支配欲を煽る。 見る度に違う女を連れている姫川が入れ込んでいるのも、 その姫川とモメてでも手を出す東条の気持ちも理解した。 自分に覆いかぶさっている神崎の背中をさすり「がんばれ」と声を掛けてやると小さく頷く。 「あー神崎……なんかお前って」 「なん、だよ」 顔を上げる神崎と目が合った。 涙に濡れた目に陣野の心臓が跳ねる。 頭で考えるよりも先に神崎の薄腰へ手が伸び、 力任せにぐいと自分の上へ落とした。 「えっあっあああっ、ひ、ひど、あっう」 腹を埋め尽くした質量に嬌声を上げる反面、酷いと言いながらも待ち焦がれた肉圧に悦ぶ。 「神崎……っ」 鼓膜に響く声も、肩に立てられた爪もどうでもよかった。 ただ、自分を締め付け内動する腸肉に陣野の喉が鳴った。 「すご、お前の……も興奮して、んじゃん……」 「うるさい」 口角を上げる神崎の挑発に、更に硬くなったのは事実だ。 悔し紛れに腰を突き上げる。 「アッあ、あ゛あ!」 「確かに、癖になるかもな……」 「んっ、オレの、身体……気持ちいい、……?」 「無駄口叩いてていいのか。姫川だと思ってやるんだろ」 陣野から返って来た挑発に神崎は自分の腰を掴む陣野の手を払い、身体を起こしてユルユル腰を揺らす。 「そー、だよ、オレがヨくなる、だけ」 「はいはい」 自分で動いた方が気持ちよかったが、感じている神崎を眺める方が下半身に来るものがあった。 日ごろはチャラチャラと揺れてうっとおしい口ピアスから伸びたチェーンも、神崎の動きに合わせて揺らめく様は色気があっていいものだと陣野は思う。 「んっ、あっ……そんなっ見、んな」 ねっとり絡みつく陣野の視線。 神崎の手が眼鏡に伸び、ずらし取った。 「別に無くてもそこそこ見えるんだけどな。 お前がもう漏らしてんのも」 先走りを滲ませる神崎の性器を握り軽く擦る。 先端のぬめりを全体に塗り拡げ擦ってやると、 分かりやすく腸壁が脈動し締め付けが強くなる。 「だか、らそれダメだって、い、イく、から」 神崎の震える手が陣野の腕を掴む。 それでも構わず強引に手淫を早めると神崎から高い声が上がり、陣野の上に座り込んで過ぎた刺激に呼吸を乱す。 「どうした、動けよ」 神崎の震える内モモを陣野が押し広げる。 柔らかい股関節が思ったよりも大きく広がり、 さらに深くなった繋がりに陣野も神崎も声を漏らした。 「たのむ、から手どけて……くれ」 「別にいいだろ」 「オレ、中でイかない、とずっとムラ、ムラすっからぁ」 「すごいな……姫川のやつ」 姫川、という名前に神崎の頬が赤らんだ。 名前ですら感じるほどに身体を作り変える姫川に陣野は男として感心した。 「中緩んでるぞ、もっと締めろ」 「ん……」 言われるまま力を全身に入れると感度が上がる。 中の陣野の存在が大きくなって、姫川とも東条とも違う初めての肉の形が神崎の腰に響く。 散々教えられた身体が勝手に男を求めて肉壁を中の性器に絡ませ陣野を奥へ奥へと吸い込んだ。 「あっ、あっ、いいナカ、きもち……い」 自分のいい所に陣野の亀頭を擦り付ける神崎は切なげに眉を寄せて高い声を漏らす。 「姫川、ぁ、あっ、っあ あ」 声が甘い。可愛いとすら錯覚する。 神崎の脳内には今姫川がいる。きっと姫川の前ではもっと甘えて声も出すのだろう。羨ましい。 頭によぎってしまった嫉妬を陣野は頭を振って打ち消した。 「んっ、きも、ち、あた、る……ッんん」 神崎に任せていると中に咥え込んだまま。 亀頭を前立腺に押し付けられてるだけでは刺激が少ない。 陣野は繋がったまま神崎を押し倒し、抜けかけた性器を神崎のお気に入りの場所を狙って深く打ち付けた。 「!?ッあっあ、おれ、おれが動く、からぁ」 「お前の動きじゃ俺がよくない」 「べ、つにお前はい、いだ、ろ」 「安心しろお前もヨくさせてやる」 そ、それなら……と不安気に頷く神崎の腰を高く抱え上げ、繋がりが深まった穴を見せ付ける。 「恥ず、いから、やめろっ」 陣野を深くまで咥え込んでいる姿。 真っ赤にって顔を腕で覆ってしまう神崎の腕をどかし、放り投げられた眼鏡を神崎に掛ける。 「えっあ、い、やだ」 さほど強くない視力矯正だ。 陣野は神崎が遠くを見る時、目を細めていたのを何度か見かけた事があった。 自分と同じ。あっても無くても日常では困らない程度の視力だろうという陣野の勘は当たり、急に鮮明になった視界に神崎は顔を背ける。 「外すな」 陣野の低い声が眼鏡に手を伸ばす神崎を制する。 「しっかり見てろ」 抜けかける寸前まで引き抜き奥深くへ存在を叩きつけた。 狭い腸道を強引に抉り進んでくる肉圧に神崎から悲鳴が上がる。頭を振って涙を散らす神崎にかまわず陣野は自分の気持ちのいいように神崎の身体を揺らす。 「今お前がセックスしてるのは姫川じゃなくて俺」 自分の中を激しく出入りする性器に神崎はきつくシーツを握り何度も頷いて服従した。 「あうっ、ああっあ、あ」 自分を犯す勃起が激しさを増していく。 煽りすぎたと後悔する間も無く前立腺を叩きつけられる。 東条ほど乱暴ではないが、姫川より優しくない。 いつもより鮮明に見える陣野の首根に自然と腕が回った。 「ン、ああっあっう、いいっ、陣、野ぉ」 「神崎……お前……」 不安定な身体を支えようと無意識に足も陣野に絡みつく。 全身で抱きしめてきた神崎に陣野の胸が鳴った。 抱きつくなんて事は東条にはしていなかった。 姫川としてでなく、名前も呼ばれる。 どうすれば人が自分に心酔するか知っている。 きっとこれが神崎が石矢魔の頂点に近い理由なのだ。 力なくとも、力ある者を手に入れればいい。 姫川は元より、いつの間にかどこにつかないはずだった夏目も神崎の側近だ。 ただヤクザの家系で勢力を伸ばしていた訳じゃない。 コイツ自身に普通に人をたらしこめるヤクザの資質がある。だから関わりたく無かった。 付け込まれる前に、深入りする前に突き放すべきだ。 そんな陣野の分析も興奮に負け思考が消える。 もっと、と言わんばかりに神崎に抱きしめられたからだ。 「きもち、きもちい、じん、のぉ、あっ、あ!」 自分の揺さぶりに合わせて揺れる神崎の身体。 慣れない眼鏡が顔からズレると震える指先が位置を治す。 見慣れた自分の眼鏡を掛ける、 見慣れない眼鏡姿の神崎に独占欲が湧く。 種付けしたいという雄の本能が神崎を穴をズポズポと音を立てて激しく貫いた。 「んっ、んん、はげ、し、あっ、あ、あ!あ!」 今ここに姫川が来たとしてもきっと、 最後の一滴まで注ぎ込むまで止められないだろう。 「う、あっ、んん!も、もっと……ぉ」 「ここだな、お前のいいとこ、ろ」 「うん、う、ん、ッあた、って、る!あ!あッ」 「分かった、叩いてやる」 「あ、あ!そこ、ばっか、いっちゃ、うっ陣、野ぉ」 神崎が腹を押さえながら涙ながらに訴える。 「お前、あ、あっ、と、どん……ぐれえ?」 「もう少し……辛いか?」 「きも、ち……だけぇ。もっと、したい……」 神崎の震える手が先走りを漏らす自分の性器をきつく握る。 「何、してんだお前」 「い、一緒、にイく、」 「どこまで躾られてんだお前は……」 もう素直に姫川を羨んだ。 演技でイく女とは違う満足感がある。 これは虎がハマってしまうのも納得だ。 むしろまた拉致る予定があるのなら是非とも仲間に加えて欲しい。付け込まれてもいい。対価にこの神崎が見られるのなら安いものだ。陣野は心深く思った。 何度か体位変えて神崎の身体をたっぷり楽しむ。 じっとり汗ばむ神崎の鎖骨にシンプルな銀のチェーンが張り付いていた。 耳元には赤いピアスがゆらゆら揺れて時折鈍く光る。 射精しないように自分の性器を握る指にはシンプルな指輪。 手首には2連のバングルがチャリチャリ音を鳴らしていた。 きっと姫川が贈ったのだろうアクセサリーが、神崎の所有権を誇示している。 体位を替える内に脱がしていったために、保健室であるのにもう裸に近い。細身ながらに締まった身体、それをアクセサリーに彩られた神崎は扇情的だった。 特にチェーンピアスはきっとこれからすれ違うたびに、このセックスを思い出してしまう。 「じん、の、オレ……もう、ナカいくのつら、いかも」 「ん……」 バックで一突きした時だった。 神崎は丸めた布団に顔を埋めて声を殺してイっていたようで、涙に潤みトロトロに蕩けた表情で陣野に懇願した。 絶頂にうねる腸壁を前にすぐにでもイけそうだったが、最後は顔を見たい。ゆっくり抜いて神崎の身体をひっくり返すとじっとり体重をかけて飲み込ませていった。 「あっ、う……!きも、ち、すご、ずっとイけ、そ」 「俺もそろそろ出すぞ。もういいか?」 「う、ん」 「ナカ、出してもいいか……?」 陣野が訊くと神崎が答えるより早く、腸壁が射精の期待で収縮した。 「ナカ、で いいっ、あっ、あ」 中と言われて、神崎は繋がった部分を見下ろした。 レンズを通して鮮明に見えてしまうその場所に釘付けになった。陣野の赤黒く勃起した性器に血管が浮いていて、それを認識すると血管がナカでも当たっているように錯覚した。 クチッヌチヌチヌチュッズヌッズッズッ──! トロトロになった体内は、突かれるたびに陣野に絡みついて甘イキを繰り返していた。 陣野の腰も早まって、性器が前立腺以外も無茶苦茶に侵入してくるようになる。 神崎がそれまで性器を掴んで抑えていた震える手を離すと、陣野はその手の上から神崎の性器を扱き出した。 「えっ、あっいいっ、いらな、」 「そんな弱い力じゃ射精出来ないだろ」 裏筋に陣野の指が当たる。 陰茎をシゴかれるのと、腸壁を犯す律動で腰が浮いた。 「アッああっじ、陣、野ぉ、イっちゃ、いぐ、いぐぅ」 「ん……俺も出そ」 涙をポロポロ流してトロけた表情の神崎に力いっぱい腰を叩きつけ根元まで突き入れる。 グチュッ…パンッ──―! 「ああ!あっ、あっ、きも、ち、もう、オレぇ」 身体が反る。 姫川とも東条とも違う。穏やかなようで、容赦ない。 いつもなら舌を絡めてイくのに、今は出来ない。 途端、神崎に罪悪感が湧いて喉がツンと傷んだ。 「い、あ、いく、イクっ、中、い゛だっあ、あ」 「んっ……は、俺も……ッ」 神崎の太ももを抱え、バンッと深くえぐる。 と、同時今までになくキュウゥゥと肉が収縮した。 精子を搾り取ろうとする脈動に陣野が吐精し、神崎も陣野の手の中でトロトロと射精した。 「はっ、イイ……神崎……」 初めての中出しだった。 ゴムの中にするのとはまず全然違う上に、人の恋人の体内に射精するという背徳感が絶頂を後押しする。 限界まで張り詰めた性器が、腸壁を押し広げながら精子を勢いよく内壁に掛ける。 「あッ、っあ、あ!」 ドクドクと注ぎ込まれる精液を搾り取ろうと陣野を咥える輪が窄まった。 「神崎……イけたか……?」 「あっ、いっイ゛った、いっだからぁ!」 涙声が陣野の腰に響く。 未だキツく性器を握り、 塞ぎ止めている神崎の手を払いのけ竿を擦る。 ポタポタ緩やかに精液は出しているが射精とは違うようだ。 竿をこすりながら手の平で亀頭をコチュコチュまさぐると、今度は噴くように射精した。 「あっ、はあ!あ、あ!」 「どっちもイけるんだな」 「う、ん、でも……キモチ、よすぎ、て、ツラ、いっ」 勢い付いた精液が神崎の顔に飛び散って眼鏡にパタパタと乗った。レンズを伝ってトロと垂れる精液の影を神崎のうつろな目が眺めた。 「っは、あっ…………ふ、ッ」 二度目の射精に胸が大きく上下させながら、神崎は腹の中にある姫川以外の精液の罪悪感に腹をなでた。同時、陣野の性器が脈打つのを感じた。 「ん、まだ……出てんのか……?」 「久しぶりだったからな」 「女いねーの」 「お前らと違って受験で忙しい」 「受験すんなら石矢魔くんなよ……」 陣野は続く射精の余韻に浸りながら、 色の無い精液が付いた自分の眼鏡を指で拭い言う。 「お前も勉強したらどーだ。 眼鏡かけてると意外と賢そうに見えるぞ」 「うるせえガリ勉」 神崎は慣れない眼鏡を外し手を伸ばして陣野に渡す。 繋がったまま皮肉を言い合うのも滑稽だ。 陣野は神崎から引き抜き身体を離して、すっかり暗くなった窓の外に視線を送りながら勉強する時間が押したと皮肉を追加した。 とはいえ、自分から手を出した負い目もあった。 体液に濡れた性器をシーツで拭い、脱ぎ落としたズボンを履いてから神崎の服を拾いにベッドを下りる。 「どうすんだよコレ……」 よたよたと身体を起こす神崎は服を広げて頭を垂らす。 何だ、と陣野が見ればズボンのチャックの留め具が弾け飛んでいた。 「東条あの野郎……破きやがって」 「フッ、喧嘩で破れたとは言い訳出来ないな」 「笑ってんじゃねえ、オレは立派な被害者だぞコラ」 さっきまでの色気はどこへやら。 ガンを飛ばす神崎は、けれど髪は乱れ赤く腫れた目の下には涙筋を残して手首には押さえつけられた指跡が残っている。 さっきまで淫欲に溺れていた印象にかき消されていたが、確かに東条に無理なセックスを強要された事は間違いない。 間違いないのだが──、 「まあでもお前も悪いぞ」 「はぁ??100被害者だろ」 「計算してるだろ、お前」 「何が。ベンキョーの話?」 「……フッ、またヤりたくなる身体してるって話」 陣野の言葉に顔を青くした神崎は、 慌ててシーツを身体に巻きつけ頭を振る。 「お前ら今後一切オレに近づくな」 「俺からお前に近づいた事なんて無いぞ」 「ごちゃごちゃるっせーなぁ! 訴えたらオレが勝てるんだからなァ!」 「バカだなお前。訴訟なんかしたら姫川にバレ──」 神崎の幼稚な反論を諭し終わる前に保健室の戸が開いた。 振り返った二人の体が、戸口に立つ姫川の姿に硬直した。 「お、いやがった。探したっつーの」 無表情の姫川が神崎を見つけヒラヒラ手を振った。 シーツを被っているとはいえ、シーツの上に脱ぎ散らかった服があっては言い訳も出来ない。 何よりどう見ても神崎の乱れた姿は言い訳が付かない。 「珍しい組み合わせだなー?」 「……ああ」 ただの喧嘩であれば訳もない相手だが、神崎の言う通り全面的に非がある。ここは穏便に殴られて終わるかと陣野は意を決めるも、姫川が先に口を開く。 「通りがかったらよぉ、神崎の声が聞こえたんだわ。 訴えるーって。何を訴えんのかなー神崎クン?」 「ひ、姫川……これは、その……」 「あ?」 蒼白した神崎の隣に座って、小さくなった肩に腕を回す姫川は真正面の陣野を見た。 「なーんか精液くさいんですけど、この子」 ビクと身体を震わせて言葉を無くしてしまった神崎を、陣野は哀れに思った。ここで神崎が誘って来たと言って別れさせてもいいが神崎が今にも泣き出しそうなのだ。 最中だって姫川の名前を何度も呼んでいた。 これだけ惚れ込んで付き合っているのだから、肩も持ちたくなる。何より人生初の中出しをさせてもらったのだ。 今回は庇ってやろう。陣野は頭を掻いて姫川に頭を下げた。 「言い訳はしない。そのだな……要はレイプだ」 事実、被害者なのだから少しぐらいは庇うべきだろう。 ありありと事情を姫川に伝えると──、 「こいつの身体よかったろ?」 そう言って笑う姫川に陣野の肩から力が抜ける。 「は?……ああ、そういう事」 姫川の意図を悟った陣野は失笑で返した。 考えてみれば策士で名を知られる姫川が、一度東条に目を付けられた神崎をただ野放しにする訳が無い。 自分でも言った通り、神崎はまた手を出したくなるのだ。 そして神崎も、計算か資質による天然か。人をたらし込むことに関して長けている。 神崎の誘惑に入れ込んでしまうと、神崎本人にも姫川に対しても負い目を追う。借りを作る事になる。 エサをチラつかせ罠にハメる上に、エサ自身も罠にハメるという実に姫川らしいやり方だ。 それに気づかず、上目で姫川の機嫌を探る神崎を陣野は哀れに思いつつも、厄介な奴を野放しにしとくなと心の中で悪態付いた。 「じゃあな、俺は行くぞ」 服を調え、ベッドを立つ陣野に姫川がヒラヒラ手を振った。 机に置いた参考書を拾い上げると、音も無く背後に忍び寄った姫川の手が肩に回る。 「東条によろしく」 「……。また貸せよ」 「俺がお仕置きしてからな」 「それがしたかったから放置してたんだろ」 「クク、まぁな。俺そーゆーのスキだから」 「悪趣味だな」 耳元で囁く姫川に陣野はため息を漏らした。 それでも神崎が姫川といるのがいい、というのだからお仕置きなんて言っても二人の時は優しく扱うのかもしれない。 顔を青くしたままうな垂れて落ち込む神崎の姿を見るにそうは思えなかったが陣野は無理やり自分に言い聞かせ、姫川の”悪趣味”の次のおこぼれを心待ちに保健室の戸を閉めたのだった。 END
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